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Anomie  作者: 椎葉
第1章 我らアンデッド殲滅部隊
4/40

4:鳥

 僕らは今、福島へと向かう飛行機の中に居た。

家族の傍に居てやれないのは辛いが、母から貰ったバングルを腕にはめ、僕は東京から出発した。


 この飛行機を操縦しているのは、最上班の班員から一人と非戦闘員が一人。

JUCGに所属する前まではパイロットをしていたらしく、貴重な人材となっている。

空の方が陸より速いという意味もあるが、陸だとゾンビに進行を妨げられる可能性もあるかもしれないと考え、飛行機にしたのだ。


 福島の現状は、かなり深刻な状態になっている。

JUCG隊員が全滅したということは、一般人も危険だ。いや、もう既に遅いかもしれない。

仙台拠点まで逃げていればいいが、望みは薄そうだ。

 とにかく今は、一刻も早く福島に向かわなければならない。


 流石に今回の任務には如月班の班員も不安を隠せないようで、晋平ですらも顔を曇らせている。

遼は相変わらずイヤホンで音楽を聴いているようだが。


「にっちゃん………」

晋平は顔をあげて話しかけてきた。

「何?」

いろいろ戸惑うところもあるのだろう。僕だってそうだ。この任務は、いくらなんでも急すぎる。

だが晋平は、何をきいてくるのかと思えば、

「最上班の女の子って、どういう人が好みなのかなぁ」

と言ったのだ。

「え?」

大真面目に言うものだから、拍子抜けした。


「いやだって、俺って見ての通りデブだし、顔も悪いし、なんの取柄も無い……」

僕はすっかり任務のことをきいてくると思っていたので、何も声をかけることができなかった。

そんな晋平に遼が「今更気づいたのかよ」と反応する。

晋平は遼の方を見た。

「俺だって分かってたよ。でもそれを直そうとはしなかった。俺は最低の怠け者だ」


 遼は晋平の方を見もせずに言い放つ。

「ああ、そうだな。所詮お前みたいな意思の弱い無能にはできないだろうな」

流石にこれには晋平も怒ったらしい。

「うるせー!俺だって、俺だってやればできるんだぞ!」

「できないからお前は変わってないんだろ」

「この冷酷野郎!」

今にも本格的な殴り合いに発展しそうな勢いなので、僕は止めることにした。


「そこまでにしときなよ、これでも任務中なんだから」

と言ったものの、2人の耳には入っていないようだった。

「2人とも、如月さんを困らせるな!」

武子が2人の仲介に入ったが、「お前は口を挟むな!」と言われて結局喧嘩を止めることはできなかった。


 僕が頭を抱えていると、僕らの座席の隣から女の人の声が聞こえた。

「どうしたんですか?」

噂をすればやってきた。どうやら最上班の女の子のようだ。

それを見た晋平は、顔を赤くして遼を掴んでいた手を離した。

「い、いや、なんでもないよ……」

晋平がぎこちなく言うと、女の子は「そうですか」と言った。綺麗な声だと思った。


「あ、挨拶しなくちゃいけませんね。私は最上班の遠藤(えんどう) 鈴奈(すずな)です。よろしくお願いします」

「僕は如月 透。よろしくね」

「よろしくお願いします」

「この子たちは僕の班の班員だから、仲良くしてやってね」

武子は頭を下げ、晋平は「よ、よろしく」と言ったが、遼は眼を閉じ、音楽を聴いたままだった。


「それでは」

鈴奈が立ち去ろうとした時、何か大きな音とともに機体が大きく揺れた。


「な、なんだ!?」

次の瞬間、僕は後方にとてつもない力で引き寄せられる。座席のベルトが壊れ全身が浮き、何が何だかわからないまま背もたれを掴んで踏ん張る。と、そこに客室前方から他の班員もなだれ込んできた。

いや、なだれ込んだのはここではなく、客室後方の窓。どうやら窓が割れているようで、荷物が次々と窓の外に吹き飛んでいく。なんとか全員機内のどこかにしがみついているようで、誰かの荷物だろう大き目のアタッシュケースが飛ばされ偶然窓を塞ぐ形になった。

 それらは全て一瞬の出来事だった。その間一言も声を発せないような短い時間だった。


 僕の脳が状況整理を始めるより前に、修也が「不時着だ!」と叫ぶ。


 酸素が薄いせいで息が上手く整わない。しがみついていた力を緩め辺りを見渡したその時、


「ぎゃああああああ!!?」

今度は客室に絶叫が響き渡り、全員が声のした方を見た。

 僕は自分の目を疑った。


 なんとそこには、鳥が人間の肉を食い漁っているという異様な光景が広がっていたからだ。

カラスのように真っ黒な見た目をしているが、大きさはその倍はある。


 間違いなくアンデッド――!


 どこから現れた?

離陸前に機内は点検していたはずだ。この状況では、答えは一つしかない。


「窓を割って入ったのか…!?」

「馬鹿な!?鳥が飛行機の窓を割れるわけねえだろ!?」

修也が叫ぶ。


 鳥は既に死体となった人間を食べ終えると、こちらを見た。

赤い眼に、僕の顔が映った。


 その刹那、僕の顔めがけて鳥が突っ込んできた。

僕はとっさに刀を構えていなす。

「僕の後ろに下がってろ!」

僕がそう言うと、如月班の班員は後ろに隠れたが、鈴奈は立ち尽くしたままだ。

さっき喰われたのが最上班の班員ということもあって、恐怖しているようだ。


「早く!」

武子が鈴奈の腕を引っ張り僕の後ろに下がらせ、座席の後ろに隠れた。

「すみません…」

武子は「良い」と短く言って、割れた窓に目をやる。今は奇跡的に塞がれているが、あの蓋をしているアタッシュケースも耐久度は高くないだろう。

「どうやって鳥が、飛行機に……?」

鈴奈の問いに武子は推測する。

「聞きかじった知識だが…世界で一番高く飛行する鳥は地上1万メートルを飛ぶらしい。不可能ということはないかもしれないが……」

しかしあんな鳥は見たことがない。アンデッド化したことにより何らかの変異が起きたのか。


 厄介なのは、飛行機の窓を突破するパワーと耐久力。


 透は鳥から一瞬も目を離さない。

まだこの鳥の強さは未知数だ。班員に戦わせるわけにはいかない。


「透、無事か」

修也は僕の隣に立った。修也も刀を構え、臨戦態勢に入った。

「最上さんは?」

「武器の調整がまだだとよ」

最上班班長の武器は高威力を誇る兵器だ。それなりに時間もかかる。

「それにしても、この鳥なかなか早いよ」


 修也は刀を鳥に向かって突き出した。鳥はそれをかわし、瞬時に修也に嘴を突き刺そうとした。

だが修也は間一髪のところでそれをかわした。

僕はその隙をついて刀で斬ろうとした。

 しかし、鳥は俊敏な動きでそれをもかわした。刀はかろうして翼の先を切断しただけだった。


 鳥はウイルスの影響で強い破壊衝動と食欲に駆られており、痛みをもろともせずに襲いかかってくる。

「この鳥公が!」

修也の刀は鳥に当たらなかった。鳥は、すかさず修也の足を嘴で突き刺した。

「痛えッ!?」

「修也!」

修也は鳥を足から引っこ抜こうともがき苦しむ。しかし人間の力ではどうにもならなかった。

「ちくしょう、コイツ、なにがなんでも俺を喰おうとしてやがる…!」

「待ってろ、修也!」

僕は刀で鳥の上背の部分を斬りつけた。鳥は修也の足の肉を引きちぎり逃げたが、まだ生きている。

「くそ……」

僕は修也の前に立ち、鳥を見据えた。鳥は僕の顔にまっすぐに突っ込む。

僕は刀で防ぎ、それと同時に腹部に蹴りを入れた。

鳥は吹き飛び、機内の天井にぶつかった。

僕は落下してきたところを刀で突き刺す。


「勝ったか……」

しかし鳥は自力で刀から逃れ、また突っ込んできた。

「………ッ!」

僕は間一髪でかわし、機内の床を転がる。

まさかまだ生きているとは、なんという生命力だ。

鳥は間髪入れずに攻撃しようとする。

と、そこで立ち上がろうとする僕の足の力が一瞬ガクリと抜ける。

「――!?」

酸欠。既にこの機内で動き回るのは酸素マスク無しでは厳しくなっていた。


 だがそこで何かが鳥めがけて放たれ、命中した。

「ふー………」

僕が振り向くと、最上班の班長が立っていた。

手にはライフル銃のようなものが握られている。

どうやらその弾丸が命中したようだった。


「間に合ったようで良かったよ」

最上は、僕らを見ていった。

「その鳥から早く離れたほうがいいですよ」

僕は修也の肩を持ち、言われた通りに鳥から離れた。


 鳥はしばらくもがいていたが、次の瞬間、爆発した。

肉片が辺りに散らばり、血飛沫が上がった。

 最上の武器は弾丸が命中すると、爆発するという強力な威力を誇る。

今回の任務に配属されたのもその武器と、それを使いこなす能力があると認められたからだ。


 最上はライフルを肩に構えると、隠れていた班員たちに挨拶した。

「申し遅れましたが、今回の任務ご一緒させてもらう最上(もがみ) 裕也(ひろや)です」

最上はニッコリ笑っていった。

「よろしくお願いします」


 如月班、今河班の班員は先程までの惨劇が頭から離れないらしく、呆然としている。

僕たちも正直同じだった。

丁寧な態度だが、なにか内に秘めたワイルドなものを感じる男だ。


 しかしこの男とこれから同じ任務をやっていくと考えると、これほど頼もしいものは無かった。



 だがその前に、まずこの飛行機を不時着させてなんとか脱出しなくては。

任務記録報告


福島での任務へと向かう途中の航空機にて、鳥の姿をしたアンデッドに遭遇、襲撃される。

この鳥の名前をU-birdとする。

U-birdは極めて狂暴で、任務に参加していた最上班の班員1名が殺害された。

JUCGはこの情報を世界に伝え、対策を練る方針だ。

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