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Anomie  作者: 椎葉
第5章 家族
36/40

36:絶望

 「修也ッ!」

僕が怪物の腕を斬ると、怪物は修也を放し、僕目掛けて斧を振り下ろした。

「うッ」

これはさすがに躱せない。僕は修也の腕を掴み、刀で斧を受け止める。


 「な、なんてパワーだ……!」

僕は修也をなるべく遠くの方へと振り投げた。

 そこに、怪物の蹴りがとんできて、僕は吹き飛ばされる。


 「……ッ!」

壁に激突すると、予想以上にダメージが大きく血を吐いてしまう。


 怪物が身体に巻かれた鎖をジャラジャラと垂らしながら向かってくる。

「ぐあああぁぁッッッ!!!」

「修也!?」

突然修也が悲鳴をあげた。炎で視界が揺れてよく見えないが、何があったというのか。


 「大丈夫!?」

そこに、斧が振り下ろされる。

「!」

僕は今度こそ躱して、前に転がりながら怪物の足元を斬った。これは怪物にも流石にダメージがあったらしく膝をつく。


 「修也!」

「来るな!!」


 修也は僕を手で押し飛ばした。

「ど、どうしたの……?」

修也は頭を押さえて苦しそうにしている。

「あ、頭が痛い…!頭が割れそうに痛いんだ……!!」

「頭が痛い!?煙を吸いすぎたのか…?」

修也はうずくまってしまう。

「違う…!何かが、俺の身体の中に……!」

「!?」


 瞬間、強烈な殺気を背後に感じた僕は、背筋が凍る。斧を引きずる音が聞こえる。

振り向いた途端、怪物は斧をぶん投げてきた。

「修也、悪いけど逃げるよ!」

僕は修也の腕を掴んだまま斧を回避し、そのまま怪物の方を見ずに無我夢中で走った。

姿勢を低くするのも忘れ、息が苦しかったが、修也を抱えて走る。


 後ろを向くと、怪物は追ってきていない。

僕は安心からか力が抜け、その場に倒れた。


 「……………ッ」

修也はまだ苦しそうにしている。

「大丈夫…?」

「透……俺はもう分かっちまった」

「?」

修也は頭を押さえながらこっちを向く。


 「こんなこと考えたくもねぇが、あの怪物、おれの首からウイルスを入れやがった」

「え!?」

修也は自嘲気味に笑う。

「自分で感覚で分かる。自分の身体が少しずつだが蝕まれていく感覚がな……」

「そんな………嘘でしょ……………」

言葉にならない、深い深い絶望の中に立たされた感じがした。

そんな、馬鹿な。修也が、そんな。


 「幸いなことにウイルスはほんの少しなようだ……体内で増殖するのもかなり時間が経つだろう」

修也はもう全てを諦めているかのように、冷静になっていた。

というよりは、僕らを覆う絶望に、既に支配されていた。


 「ここで俺も最後かな……」

そう言って修也は、床に寝そべった。

「は……?」

「俺はもう多分あと一か月くらいでゾンビになる。そんな期限付きの生活なんて嫌なんでな。切りがいいところで終わりたいんだよ。いいじゃねえか、俺たちが過ごした洋館とともに死ねるなんてよ、本望だぜ」


 「何言ってんだ修也……らしくないよ」

「言っておくけどよ透、俺はもう生きたいなんて思ってないぜ。親友のお前や、一緒に戦った仲間たちに殺されるくらいなら、こうやって死んだ方がまだマシだと俺は思う」

僕はただ修也を見ているだけだった。言葉が、思いつかなかった。


 修也は、目を閉じていたが、苦しいのか顔をしかめていた。

 その手が、震えていた。


 「俺の人生の最後くらい俺の好きにさせてくれよ。このまま寝かせてくれ………っておい!」

僕は修也を背中に抱えてまた走り出した。


 「おいおいおい!!透お前ちゃんと話きいてたのか!?」

「修也は死なせない。僕が、必ず助ける」

「はぁ!?」


 僕は夢中で走る。前方に炎の壁が立ち塞がるが、止まっている暇はない。

「突っ切るよ!」

「おい!」

僕は炎の中に飛び込み、一瞬で出た。

皮膚が少し焼けたが、幸い服には燃え広がっていなかった。


 「修也、大丈夫?」

「無茶しやがって……」


 修也は声が震えていた。

泣いてるのかな、と思った。怖いだろう。修也だって守るべきものがあるんだ。それなのに、いつかゾンビになってしまうなんて……。今のJUCGの技術でなんとかできればいいが、修也もあまり期待はしていないはずだ。

 それでも、修也を独りで死なせたりしない。修也だって、今まで僕を支えてくれた人の一人なのだ。


 僕は絶対に家族のもとへ帰る。修也だって絶対に弟に会わせてやる。

 なにがなんでも、僕らは生きる。


 目の前に、燃えるドアが立ち塞がる。

僕は修也を背負ったまま刀を抜いて、ドアを斬った。


 「!!」

そこは、広いホールのような場所だった。あとほんの少しで、次の部屋を抜けると玄関に出れる。


 「透!」

少し前の方に、母さんがいた。

「母さん!!」

僕は急いで駆け寄る。

「なんで…!?なんで逃げてないんだ……!」

「それが、前の方にたくさんのバケモノがいて、皆バラバラになって……」


 「たくさんのバケモノ?」

「ええ………」

「分かった、じゃあ僕の後ろについてきて。僕が倒すから」

僕はそう言ってドアを開け、進む。母さんは不安そうな顔をしていた。


 中にいたのはたくさんのゾンビだった。およそ20体ほどだろうか。

軌琉が倒したと思っていたのに、なんでこんなにいるんだ?


 まさか――さっきの怪物が呼び寄せたのか?アイツにはそれができるはずだ。

僕に気づくとゾンビは一斉に襲い掛かってくる。僕は修也を背負ったままなので、一体倒すだけでも相当疲れる。


 「透…おろせ……!」

修也が自分の刀を抜いて言う。

「えっ!」

「おろせって言ってんだ…!俺も戦える!」

本当なら修也に戦わせてはいけないのだが、今の僕にはもう限界だった。一人で戦っていても負けてしまう。

「悪い……頼むよ修也!」

僕は修也を下ろし、ともに戦うことにした。


 ――が、次の瞬間、後ろの壁、僕らが入ってきたドアもろとも破壊されて、あの怪物が入ってきた。

「嘘だろ……!?」


 怪物は斧を振り回し、壁や天井をやたらめったらに斬り崩す。

「こいつ………まさか、僕たちごと埋める気か……………!?」


 天井が崩れ、瓦礫や木片が一気に降り注ぐ。

「うわ!」

炎と埃が舞い、視界が揺らぐ。


 そこで僕は、気づいた。

「母さんッ!?」

母さんがいない。


 「まさか…………」

僕と修也、そしてゾンビたちしかこの空間にいなかった。なぜなら、僕たちが入ってきたドアは破壊され、木片と瓦礫で壁ができていたからだ。


 母さんと怪物は、その向こうにいる………!

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