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Anomie  作者: 椎葉
第5章 家族
35/40

35:炎

 洋館。現在何者かによって4階に火が放たれ皆は地下室に避難している。しかし、いずれはどこにいても火に焼き尽くされてしまうだろう。だがその時、外のゾンビを倒してきた軌琉と合流し、外に逃げることになった。


 僕は地下室から出る前に軌琉に確認を取っておきたかった。

「軌琉くん、外のゾンビは“ほとんど”倒したんだよね?」

軌琉は頷く。

「はい。でも全部は倒せてませんよ」


 やはりか。では、注意しなければならない。誰か一人でもウイルスに感染すれば、この人の数だ。あっという間に被害は拡大するだろう。


 僕らは皆が出てから地下室を出た。


 そこでは予想していなかった出来事が起きていた。

なんと、火がもう洋館全体に回っていたのだ。しかし、この短時間でここまで燃え広がるものだろうか。煙は東階段の方が濃いように見える。

「誰かが東階段にも放火したんだ……!」


 いったい何者だ?ゾンビやアンデッドにそんな計画的に追い詰める知能はないはずだ。だとしたら誰だ。JUCGに何らかの恨みを持っているのか?まさか内部の人間?

 内部だとしたら一番可能性のありそうな人物は軌琉だが、軌琉は今隣にいる。遼という可能性も無くはない。しかし2人とも動機がない。


 頭の中でグルグルと思考が駆け巡り、やがて絡まる。次から次へと可能性が浮かんでは消えていく。


 そこで僕はハッとした。

知能を持つアンデッド。あの女の可能性は…?十分あり得る。


 そこでズキン、と頭が痛んだ。

考えすぎていたからではない。煙を吸い込みすぎたからだ。


 「まずいな……」

一刻も早くここを離れないと。

軌琉に声をかけようとしたが、軌琉が隣にいない。一瞬焦ったが、視界の隅に姿を捉えた。もうすでに皆の後を追っていたらしい。それも気づかないほど身体は危険らしい。

「急げ……!」



 突然、何か大きな音がした。大太鼓を叩いた時のように心臓が揺れる感覚がした。何かを突き破るかのように大きく響いたそれとともに、すさまじい猛火が広がった。

「………!?」

壁がメキメキと音をたて、木片が飛び散って僕の左腕に突き刺さった。

「痛ッ!!」


 さっきのは何かの爆発音のようだ。いったいこの洋館で何が起きているんだ?


 この時僕は腕の痛みも忘れて走った。比喩ではなく、実際に腕の痛みが無くなったのだ。身体が痛みになれてしまったのか、煙を吸いすぎて感覚がおかしくなっているのか、それともこの危機的状況のため痛みを感じる余裕が無いからなのか、分からないが僕はとにかくそんなことさえも考えていなかった。


 ずっと走っているはずなのに、一向に洋館の出口に辿り着かない。それどころか、やけに道が長く感じる。やっとの思いで角を曲がれば、またもや同じような廊下が延びているだけだった。

 僕は無限ループの中に一人取り残されているような気がした。軌琉もさっきの爆発で見失ってしまい、ますます不安になった。


 僕は重い足をひきずるようにして走る。それは歩いているのと同じような速さだった。

息が切れ、視界が霞んでいく。胸の奥の方がズキズキと痛んだ。

「あっ」

足が床にできたヒビに引っかかってしまい、僕は転んでしまった。

「くそッ………」

まだ地下室を出てからそう時間は経っていないはずだ。まだ疲れるには早い。

僕はなんとか身体を起こし、ゼェゼェと荒い息をした。


もうすぐそこの扉を開ければ、玄関に出る。


 すぐ、そこの……!


 僕はドアノブに手をかけた。

その時、膝の力がガクンと抜け、倒れるようにしてドアに頭をぶつけた。だがちょうどそれでドアノブが回り、ドアが開いた。


 「……………!」

顔を上げた僕の視界に飛び込んできたのは、立ちふさがるように燃える炎だった。

ドアが開かれ解放された酸素で、炎はより強くなる。

「そんな……」

これじゃここを通ることはできない。

 僕は一気に全身の力が抜けていくのを感じた。身体が重くなり、息をするのもだるい。心の中に何か黒いものが広がっていく感覚がある。それは諦めに近かった。

もういっそここで燃え尽きてしまおう。


 「何やってんだよお前!」

唐突に、頭の中に声が響いた。

閉じかけていた目を開けて声のした方を見ると、修也が立っていた。

修也は僕に走り寄って、ドアを閉めて屈んだ。

「馬鹿か!煙吸い込みすぎだ」

そう言って修也は屈み、自分の着ていた服の袖をちぎって僕の鼻と口にあてた。

「か、母さんたちは………」

修也は呆れた顔をした。

「まずそれかよ。お前の家族はまだ無事だ」

僕はそれに安心した。


 「立てるか?」

僕はゆっくりと力を入れて起き上がった。

「それにしてもなんだかやべえぞ。ゾンビはもうそんなにいないが、あの怪物がもう一体いやがった。東階段の近くだ。それに火を放った奴も誰だか分かんねぇしな」

 それを聞くと僕は一気に立ちあがった。

「お、おい」

母さんと陽菜は今危ない目にあってるかもしれないのに、こんなところで寝てるわけにはいかない。


 「馬鹿!姿勢低くしろ!また煙吸い込んじまうだろうが」

僕は言われた通りに姿勢を低くし、それで出せる最大のスピードで走る。

「あんまり急ぎすぎんなよ」

後ろから修也が声をかけてくる。僕にはそれが頼もしかった。


 その時突然壁が崩れ、中から炎が噴き出した。

「うわッ!」

僕と修也は驚き床を転がる。


 数秒もしないうちに、中から巨大な斧が飛んできた。

「!!」

僕は咄嗟に躱した。斧は床に突き刺さった。


 炎の中から、あの巨大な怪物が現れる。身体のあちこちが燃えていて、火傷だらけだった。

炎を纏っているようにも見えるそいつは、ゆっくり僕の方に歩み寄ると、床に刺さった斧を掴んだ。


 引き抜いた瞬間、すぐにそれを横にはらい、僕を斬ろうとした。僕は身体をのけ反らせそれを避けた。

攻撃までに一切の無駄が無かった。

「斧………」

今までの奴とどこか違う。そんな異様な雰囲気を醸し出している。


 できるだけこんな狭い場所でこいつとは戦いたくない。しかし、逃げるわけにもいかない。これ以上この炎の中にいたら熱さと煙で気を失ってしまいそうだ。


 そんなことを考えている暇もなく、斧が次から次へと襲い掛かる。鎖が全身を縛っているのに、尋常じゃない速さだ。


 突然、壁の中の炎が揺らぎ、爆発するように燃え盛った。

怪物が振り回す斧が風を生み出し、酸素を送り込んだのかもしれない。


 それは圧倒的なエネルギーだった。

壁の傍に立っていた修也は、その炎を受けてしまった。

「うッ!」

「修也!危ないッ!!」

「!!」

背後にはすでに怪物が立っていた。


 怪物は修也の首を掴むと、高く持ち上げた。

首に怪物の指が突き刺さっていった。


「―――――ッッ」

洋館に悲鳴が響き渡った。

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