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Anomie  作者: 椎葉
第5章 家族
34/40

34:さらなる緊急事態

 洋館。

現在一般人は最上階である4階に全員集まっており、そこにアンデッドを到達させないのが僕らの使命である。

如月班、今河班班長である修也、橋根班班長である橋根、そして新人隊員の阿島進は、東階段で怪物と対峙していた。


 階段は怪物によって崩され、戻る道が無くなってしまっている。つまり4階へと続く道しかなくなっているわけだ。


 しかしこの場所で戦うのは得策とは言えない。4階はすぐそこだし、階段という狭い場所で戦うのは明らかにこちら側が不利だ。奴の大剣で真っ二つにされてしまうだろう。


 怪物は真下――つまり下の階にいるが、すぐになんらかの方法で上ってくるだろう。


 「行くしかねぇか………」

修也が刀を構えなおして怪物を見つめる。

「え!?」

「ずっとこうしてても仕方ねえだろ!」

そう言って修也は下の階へと飛び降りた。怪物はそれに気づいたようで、大剣を振りかざす。


 「透!行くよ!」

橋根が僕の腕を掴んで飛び降りようとする。

「ちょ、ちょっと待って!」


 僕は進に向かって言った。

「君は上から僕らに指示をだしたり、臨機応変に対応してくれ」

「は、はい…!」

「晋平くんは進くんを守るんだよ」

「え!?俺?」


 僕は晋平の言葉を聞かずに飛び降りていった。武子も続いて降りてくる。


 怪物は刀を振り回しながら襲い掛かってくる。

「待ったなしか………!」


 僕は大剣が届かない距離を保ちつつ、戦略を考える。

「うおおおおッ!」

しかし修也は怪物に突っ込んでいく。

「修也!」

修也は怪物の腕を斬ったが、あまりダメージがないようだ。すぐに大剣が襲い掛かり、間一髪のところで修也は避けた。


 「危ねぇ……」

「やっぱりヒットアンドアウェイ戦法になりそうだね………」

「内海さんみたいな火力のある武器やったらもっと楽なんやろけどな……」


 怪物は僕らが常に射程距離外に出ていることに苛立っているように見える。奴はゾンビよりは思考能力が備わっているはずだから、すぐにキレるはずだ。そこに隙が生じる。


 予想通り、怪物はキレたようだ。ただ、その行動が予想外だった。

大剣を両手で掴み、こちらに放り投げたのだ。

「えっ!?」

僕は本能的に刀で防ごうとした。

「透さん!避けて!」

進の声にハッとなり、ギリギリで躱すことができた。


 大剣はまるで空気を切り裂くかのように飛んでいき、壁を破壊して外に放り出された。

「……………」

全身から冷や汗が溢れ出る。もしも刀で防いでいたなら……。


 だがこれで怪物の武器はなくなった。少しは戦いやすくなったかもしれない。

「気をつけてください!ソイツ、何か様子が変ですよ!!」

進の言葉で僕は怪物を見つめる。


 怪物は何か屈みこんでいた。

そして次の瞬間、武子のいる方向に向かって肩から物凄い勢いで突っ込んでいった。

「タックル!?」

まずい。あの怪物の力をモロに食らえば、壁を突き抜けて外まで吹き飛ばされてしまう。


 「武子くん!!」

怪物の予想外の行動に動揺したのか、武子の動作は止まっていた。

 まずい。もう躱す時間が無い。


 武子は両手を広げて右足を少し後ろに引いた。まさか止めるつもりか。

「武子く…!!」

言い終わるより先に怪物が突っ込む。


 武子は全身でタックルを受け止めた。ズリズリと靴の擦れる音がした。

「…………!!」

しかし、血を吐きすぐによろめいてしまう。


 怪物は武子に向かって巨大な手を伸ばす。

「………ッ」

僕は走り出した。武子が作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。


 「ああああッ!」

僕は怪物の足首の腱を斬った。橋根がそれに続いて武子に伸ばそうとした腕を斬る。

怪物はよろめいて膝をついた。

「修也さん!」

「おお!」

進が叫んだのと同時に修也が走り出し、怪物の頭に刀を突きさした。


 怪物は呻き声をあげて倒れ、やがて動かなくなった。

「よっしゃぁ………」

修也は肩で息をしながら拳を振り上げた。僕もひとまず安堵し、武子のもとへ向かった。

「大丈夫?」

「ええ……」

武子はそう答えたが、あまりそうは見えなかった。

「休んでていいよ」

「しかし、こんな時に休んでいられません……」

そう言うと武子は顔を引き締めた。


 「にっちゃん!」

晋平がガッツポーズをしていた。


 「やりまし………」

進は言葉を途中で止めた。だんだんと不安そうな顔になっていく。

「どうした?」


 「なんか、臭くないですか……?」

「臭い?そう言われればそんな気がする……」

「それに、なんかあつ……」


 「あんたたち!大変だよ!」

晋平が言い終わる前に誰かの声が響いた。

「内海さん…!?」

息を切らしながらやってきたのは内海だった。


 「4階に火が放たれたんだよ!」

「…今なんて?」

4階に火が放たれただって?そんなバカな。

「今避難してた人は西階段から地下室に連れて行ってる!まだ全員避難していないから急いで!」

そう言って内海はまた走って去っていった。

僕は理解が追い付けず立ち尽くしていたが、修也が僕の肩を叩いた。

「急げ!!」

「う、うん……!」

僕は進と晋平が降りるのを手伝い一緒に西階段に向かった。


 「ちくしょう…!どこのどいつの仕業だよ………!!」

修也は走りながらそう言った。

 ふと軌琉の顔が浮かんだ。軌琉は無事なのだろうか。チラ、と横目で進を見ると、やはり不安を隠せないらしかった。


 とにかく、今は急ぐしかないか……!



 広い洋館を走ってようやく3階の西階段に来たが、誰もいなく、もう全員ここを通ったと考えた方が良さそうだった。上を見ると、もう炎が視認できるほど広がっていた。

「ここももう危ないな……」

僕らは階段を下っていった。


 3階。2階。1階まで下りたが、地下室への階段は少し離れた場所にある。


 カーペットの上を走っていると、突然窓ガラスが割れて何かが洋館の中に飛び込んできた。

「!!」

咄嗟に構えたが、どうやら入ってきたのは軌琉だったようだ。

「軌琉!」

進は叫んで軌琉に走り寄った。

「兄さん」

「無事だったか……」


 「お前何やってんだよ勝手に!」

修也が軌琉の頭を小突いた。

「痛ッ」

「心配させんなよ………」

修也は少しだけ顔を緩ませた。


 「ごめんなさぁい。でも外のゾンビはほとんど一掃してきましたよ」

「え!?」


 「お、お前一人でやったんか………?」

橋根が訊くと、軌琉は「ええ」と無邪気に笑った。

僕は軌琉のことをその時初めて恐ろしく感じた。数百体いたと考えられるゾンビを一人で……。


 「ま、まぁ…よくやった。それよりも今は急ぐぞ」

修也は顔を背けるようにして立ちあがった。



 数分して地下室の扉を開くと、中には避難している人々、母と妹の陽菜もいた。

2人は僕を見ると笑顔になった。僕も自然と肩の力が抜けていた。


 部屋の隅の方には遼がいた。体格の大きい男の人と一緒にいる。武子は遼を見つけると、睨みつけた。遼も武子に気づいたらしく、睨みつけたあと顔を背けた。


 修也は弟のもとへ駆け寄った。

進は渡部さんと何やら話しているようだ。渡部さんはそれを聞くと腕を上げて指示を出した。


 「外を取り囲んでいた敵はいなくなったようです。ここもしばらくしたら火が回る。外へ避難しましょう!隊員は命に代えてお守りするように!」

「はい!!」

皆がゾロゾロと狭い地下室から出ていく。

僕も行こうとすると、陽菜に手を掴まれた。

「…………」

陽菜は不安を言葉に言い表せないようだ。母が陽菜に代わって「気をつけるんだよ」と言った。

僕は「大丈夫」とだけ答えた。

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