33:4階を死守せよ
「ぜ……絶望的だ………」
洋館はすでに無数のゾンビによって囲まれ、2体の怪物が侵入してきている。
「透…俺たちに今できることは、こいつを食い止めることだけだぜ………」
修也が僕の肩を叩いて言った。
「修也………」
修也は意外にも、この状況の中冷静に判断していた。
「武子くん、行くよ……」
僕は壁を蹴って怪物の背後に回り、背中を思い切り蹴った。だが到底武器無しではダメージも無く、逆にこっちの足がビリビリ痺れた。
「透、危ねぇッ!」
怪物は振り向くとともに手に持った大剣を振りかざした。
振り下ろされるより一瞬早く躱した僕は、木製の床を破壊した大剣を見て考える。
こいつの武器は明らかにここのような狭い場所では不利だ。上手く立ち回れば、倒すことはできずとも動きを止めることくらいはできるのではないか。
だがその考えも一瞬で吹き飛ぶ。
怪物は大剣を振り回し、壁や床を斬り裂いた。木片が飛び散り、至るところに穴があく。
「こいつのパワーにはいかなる策も通じないのか………!」
怪物が入るために空けた壁の穴を見ると、もうゾンビが洋館に侵入しつつあった。
「くそッ!」
修也が駆け出して怪物の足を掴む。転ばせようとしているのだろうが、全く動じない。
「重いッ……!」
無駄だと悟った修也はすぐに距離をとり、怪物の大剣の射程距離外に出た。
「どうすりゃいいんだ……」
「修也さん、俺が行きます!」
武子が怪物に向かって一直線に走り出す。
「武子くん!無駄だ、正面からでは突破できない!」
僕は制止しようとしたが、武子は耳に入らない様子だ。
武子は怪物の膝に足をつき、坂を上がるかのように怪物の身体を駆け上がった。
そして、顎に膝を思い切り入れ、さらに顎を蹴って怪物から離れて着地した。
怪物はよろめき、後ろに倒れた。後ろから洋館に入ってきていたゾンビが数体巻き込まれ潰れた。
「す、すげぇ………」
そういえば武子は、JUCGに入隊する前、普通の高校生活を送っていた頃に格闘技を習っていたそうだが、これは普通の格闘技の枠を出てる。JUCGで学んだ戦闘スキルと融合させたということか。
「やったぞ………」
だが怪物は起き上がった。腐食が進んだゾンビなら頭が吹き飛び、常人でも気絶じゃすまないレベルの衝撃を食らい、起き上がった。
「やっぱり頑丈だな………」
武子もすごいが、やはり怪物も相当タフだ。次々とゾンビも入ってきている。
この状況、僕らに打開策はあるのか……?
次の瞬間、袋を被った怪物の眉間部分が凹んだ。
そして、爆発する。
脳髄が飛び散り、血が飛散した。
後ろを振り向くと、最上が立っていた。手にはあのライフルが握られている。
「どうやら危ねえとこだったらしいな」
「最上さん!助かりました!」
最上は僕らに刀を渡した。
「これは……」
「お前らのだ。ここは俺に任せて、洋館内の人の保護に迎え」
「最上さん、今はどんな状況なんですか?渡部さんはなんて?」
修也が訊く。
「相当ヤバいぞ。正面口の方にこの怪物と同じ奴がいる。ゾンビもそこから少しだが入ってきてる。渡部さんは、一般人を4階に集めて絶対にアンデッドを近づけさせないように指示してる」
「4階……母さんと陽菜もそこにいるのか………」
「急ぐぜ、透!」
僕らはその場はとりあえず最上班に任せて階段を駆け上がった。
晋平は無事だろうか。橋根、そして遼も……。
「!!」
洋館2階へと続く東階段。そこには、たくさんのゾンビが待ち受けていた。
「おいおい冗談じゃねえよ………」
僕と修也は刀を抜いた。
と、そこでゾンビが一気に斬り裂かれ倒れた。
「あ、透と修也!」
橋根だった。無事だったのかとひとまず安心する。
「どうしたんだ?」
「軌琉が外のゾンビを倒すために窓から飛び出して行ったんや……」
「はあ!?」
「それで追いかけようとしたってわけか……」
軌琉……まったく無鉄砲で勝手にもほどがある。特に今回は軌琉だけでなく、この場にいる全員の命を左右するかもしれないのだ。
「橋根まで出て行ったらダメだ。今は一般人の命を守ることが先決だよ」
僕がそういうと、橋根は不安そうな表情で頷いた。
JUCGを統べる渡部の判断力、そして隊員の行動力は流石というべきところがある。
たった数分で一般人を全員避難させるなんて…。
2階の廊下に人影を見つけた。見たことがあるシルエットに僕は立ち止まる。
晋平と、その横には進がいた。
「晋平くん!」
「にっちゃん!」
晋平は僕を見つけるなり顔を明るくさせた。
「無事だったんだね…。進くんも」
「は、はい……なんとか………」
「みんなは4階にいるから、そこを死守するのが僕らの役目だ」
「あの、透さん」
「なに?」
「軌琉は、無事なんでしょうか………」
思わず橋根を見てしまった。橋根は目を逸らして俯いていた。
「僕らとは行動を別にしているけど、大丈夫だよ。軌琉くんの実力は、僕も認めてる」
「そう、ですか………」
僕はそう言うしかなかった。詳しく話せば、進が軌琉を助けに行くと言い出す可能性だって大いにある。
僕は振り向いて橋根の肩に手を置いた。
「橋根のせいじゃないよ………」
橋根は一度顔を上げ、再び下げたが、頷いたのか俯いたのか僕にはわからなかった。
「急ごう」
僕らは3階へと階段を上っていった。
と、そこでいきなり通ってきた階段が崩れた。
「なんだ!?」
下を見ると、あの怪物だった。
「3体目だ……」
透を苦しませたあの怪物が、3体もこの洋館内にいる!
透は無意識のうちに膝が震えていた。
「如月さん」
武子が力強い声で言った。
「分かってる……ここは僕らが食い止めないと……」
JUCG東京本部拠地の洋館。
絶対に家族は僕が守る。




