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Anomie  作者: 椎葉
第4章 天才
30/40

30:変異体

 ヘリを呼んでなんとか命懸けで第1展望台まで戻ってきた僕は、加勢をするべく最上と内海のもとへ走っていた。僕を第1展望台に降ろしたヘリはどうやらこの後修也と羽角の元へも向かうらしい。


 「透!」

突然、無線機から声が聞こえる。橋根の声だ。

「ん?」

「無事やな!?あのな、そっちに軌琉おらん!?」

「え?」

「こっちも今交戦中なんやけど、目離した隙にどっか行きよった!」

「なんだって!?」

慌てて立ち止り、周囲を見渡すが、ここにもやはりいない。

「まさか………」

最悪の事態を想像はしたが、軌琉の事だ。人知れずやられていることは無いだろう。


 「今河班も軌琉の動きに気づけなかったの?」

「そうみたいやな…こっちも相当数おるからな!」

大きな雑音が入る。激しい戦闘になっているようだ。

「自主的にどこかに行った可能性が高いよな、やっぱり………」

そう言いながら僕は呆れた。まったく、自由奔放というか、手に負えないというか…。


 「探さなくてええんかな?」

「軌琉の実力だったら、一人でも大丈夫だと思うよ。……多分ね」

「なんや、その自信無さげな言い方…」

「でも確かにこの階から飛び降りでもしない限り大丈夫だと思いますよ。俺は実際軌琉と同じ今河班で戦ってから十分その強さは分かります」

隼人がフォローをいれてくれているようで、少し遠めの声が聞こえる。


 僕には本当はどういう選択をするべきか分からなかったが、今は戦場の支援へ向かうのが先決だと考え、また走り出す。


 何もなければいいのだが――。



 エレベーター付近から多少戦場は移動していたが、そんなに広いわけでもないので見つけるのにはそう時間はかからなかった。

見れば、内海や最上はなぜか武器であるボウガンやライフルの弾丸を使わず、それ自体で敵を殴って倒している。弾切れだろう。

「内海さん!最上さん!」

内海は集中して何も言わないが、最上は「おう!」と反応した。

敵の数は思ったより少ないが、少し離れたところに橋根班や今河班、武子と晋平も見える。どうやら

本戦場は向こうか。


僕は刀を抜いて、ゾンビに斬りかかる。

「皆さんは休んでいてください!あとは僕が!」

「悪ィ…!」

班員たちも一時撤退する。



 「情けねえな、はは……」

最上は一旦戦場を離れ、壁に背を預けながら呟いた。

「そうかしら?十分な働きはしたと思うわよ」

内海も壁に寄りかかった。

「あんた、耳良いんだな………」

内海はそれに答えずに言う。

「あの子たちも思ったより頼りになるのね」


 最上は戦っている透の方を向いた。

「修也ってヤツは今はいないらしいが、あの如月ってヤツ、この数日で成長したな」

「どういうこと?」

「前に福島の任務で一緒だったんだが、なんというか技術じゃなく、精神的に成長した感じだな」

内海はそれを聞いて確かに、と思う。

「そういうものなのかしらね」



 最上班と内海班の奮闘で数を減らしていたゾンビを蹴散らし、僕は橋根たちのいる戦場に合流する。

「如月さん!」

「にっちゃん!」

「ごめん待たせた!」


 「……なんでこんなにいるんだよッ!」

今河班の班員が叫ぶ。

エレベーターのロープを伝ってどこまでも湧いてくる。このエレベーターはまるでアンデッド貯蔵庫だ。


 皮膚が硬質化したゾンビが僕の前に立ち塞がる。

「くそッ…面倒だな………」

僕はコルトガバメントの引き金を引き、ゾンビに向かって何発か発砲する。

刀を弾く甲殻も銃弾の威力の前ではあっけなく破壊されるが、本体まではダメージは響かないようだ。

僕は刀で胸部を斬ったが、まだ生きているらしく崩れ落ちるように倒れた後、這いずりながら逃げ始めた。


 「しぶといな……」

だが次にゾンビがとった行動は、共食いだった。

他の個体からのウイルス摂取。危機に瀕したアンデッドの本能なのか。

このスカイツリー内で二度もその現象に立ち会うなんて。


 ゾンビはゆっくりとした動作で立ち上がり、他のゾンビまで食べ始めた。

「ギャァァァァッ」

ゾンビは悲鳴をあげながら抵抗もできず飲み込まれる。


 僕は早いところとどめを刺した方が良いと思い、刀で背中を斬り裂いた。


 ――はずだった。


 そこには、――あるはずがないのに――口があった。その口の中に生えた歯が刀を止めたのだ。

「なに……!?」

 それだけではない。左肩にはいつのまにか大きな眼があり、その眼球がギョロギョロと動いた。

僕は刀を強引に引っ張って口から離れさせると、急いで一歩後ろへ下がる。どうやら共食いによる変異は一様ではないらしい。


 ゾンビはまるで僕に襲われたことに気づいていないかのように捕食を続けている。

落ち着いて周囲を見渡せば、他のゾンビはほとんどいなくなっていて、皆もこのゾンビを気持ち悪そうな目で見ていた。


 僕は自分の刀を見る。さっき引っ張ったときに、折れてしまっていた。


 最後まで自分以外のゾンビを食い終わると、ソイツはゆっくりとした動作で振り返り、襲い掛かる。

「コルトガバメントッ……!」

僕はそれを取り出し、引き金を引いた。しかし、弾丸はでてこない。

このタイミングで弾切れだった。

「嘘だろ……!?」


「透!」

「如月さん!」



 いつの間にかゾンビの頭は無くなっていて、その背後に誰かが立っていた。

「羽角さん……」

僕は消え入りそうな声だった。

「え、羽角さん!?」

他の皆もようやく羽角さんに気付いたようだ。


 「どうしてここに?」

「修也を助けてから加勢に来たつもりだったが……」

そう言って羽角は倒れたゾンビを見る。

「間に合って良かった」


 「そんな、音も無く………」

羽角は、ここにいる全員が気づかないうちに動き、ゾンビを倒したのだ。

 「修也を助けるために降りていって、そんなに早くここまで戻ってくるなんて……」

ここまでくると羽角が本当に人間なのかを疑いたくなってくる。


 「それと、透」

「は、はい………」

「冷静じゃないな。本来ならばゾンビの攻撃も躱せたはずだ。何があっても動揺しないように精神を鍛えておくことが必要だ」


 「え、あ…はい………」

踏んできた場数なのか、羽角さんにとってはこの任務も、変異体も大したものではないというのか。

なんだか、この戦いはいろいろなことが起こりすぎて頭が疲れたが、とりあえず僕なんてまだまだなんだな、ということは思い知らされた。渡部さんは僕らの実力を過大評価しているんじゃないだろうか。


 羽角は、「戻るぞ」と言って歩いて行った。その場に崩れるように座りこんだ僕を、橋根が心配そうな顔で見ていた。


 任務完了。

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