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Anomie  作者: 椎葉
第4章 天才
27/40

27:展望デッキ350m

 肌寒い風が吹き、空には曇った空が広がる。

その曇天を貫くようにそびえ立つのがかの有名な東京スカイツリーだ。

634mのタワーの展望台からは東京の街並みが見渡せる。今となっては、とても良い景色とは思えないのが残念だ。


 そのスカイツリーを取り囲むようにして陣取っているのが今回の任務に抜擢されたJUCGの部隊だ。


 今回の任務のために編成された班の中でも、さらに潜入部隊となる精鋭たちは――

「橋根!先行しすぎるな!!」


 ――展望デッキを駆け抜けていた。任務は開始されていた。


 「遅いで透ッ」

橋根は潜入部隊の先頭に立ってゾンビを斬り裂いていく。僕の制止も聞かない。

「ああ、もう……」

橋根班の班員の女の子が、「すみません、うちの班長が」と言った。


 そこに、前方の壁を突き破って大量のゾンビ犬が雪崩れ込んできた。

修也が「嘘だろ……!?」と声を漏らす。

「橋根危ない!」

橋根に噛みつこうとした犬の一匹の頭に、ライフルが撃ち込まれた。

「そいつから離れな!」

最上の声で橋根が犬から離れるとともに、犬の身体が爆裂して木端微塵に吹き飛んだ。

残った犬がこちらに向かって突っ込んでくる。


 「くッそ!」

修也が刀を振り回す。

「修也、焦るな!」


 東京スカイツリーでの任務、正直なところ僕はそこまで大変だとは思っていなかった。

そんなにアンデッドが多いとも思ってなかった。数々の任務をこなしてきた僕らだから、余裕だと思っていた。あわよくば展望台から街を見下ろして楽しむくらいの気持ちでいた。

 それなのに、待ち受けていたのは地獄だった。

それこそアンデッドの巣窟。量で言えば福島の時と同じくらいだろうか。

こんなに苦戦を強いられるとは思いもしなかった。

ここ展望デッキを任せられているのは如月・今河・橋根・最上・内海の5班プラス羽角だが、地下フロアの制圧にも他班が動いている。事前の会議で聞いた以上に大掛かりな任務らしい。

何より最も衝撃だったのは、(作戦概要説明の時点で知ってはいたが)この展望デッキへのアクセス方法で、なんとヘリコプターから窓を割っての侵入だった。以前僕が入隊した頃のスカイツリーでの任務では、非常階段がひしゃげて使い物にならなくなっていたそうだ(登れないこともないが)。特に第一展望台から第二展望台へ続く階段は酷いもので、結局その時は第二展望台は手つかずだったらしい。今回は時間短縮を兼ねてと言っていたが、渡部さんもどんどん無茶ぶりが酷くなってきている気がする。


 「修也、伏せて!」

僕は拳銃で修也の前方にいたアンデッドたちに弾丸を撃ち込んだ。

僕の腕でこの距離なら3発に2発が命中する、といったところか。


 そこで僕の横からゾンビが腕を掴んできた。

「うわ!」

しかし次の瞬間にはゾンビの頭に矢が食い込み、圧倒的破壊力で吹き飛ばした。

矢の勢いは止まらず、他のゾンビも倒しながらゾンビ犬に命中し、腹部に食い込んで抉った。

どうやら内海がボウガンで助けてくれたらしい。


 「内海さん、ありがとうございます」

内海は「良いから戦いに集中して」と言った。

僕は心の中で内海に再度感謝の言葉を述べ、刀を抜いてゾンビに斬りかかる。


 心配になって晋平と武子を見たが、今日は晋平もちゃんと戦っているようだ。武子の足を引っ張るまいとしたのだろう。ただ、終始絶叫している。

「まったく、世界の終わりじゃあるまいし……」

僕は襲い掛かるゾンビを斬りながら、いつもと同じように溜め息を吐く。


 誰かが跳躍するのが見えた。

軌琉だ。

軌琉はナイフを指に挟んで両手で計6本持つと、それを投げてゾンビの頭に突き刺した。

そして着地とともにゾンビの2体からナイフを抜き取りながら頭部を破壊し、さらにもう2体のゾンビからナイフを回収すると、残りの2体の頭に刺さったナイフを持って窓の方へ走り、勢いよく突き飛ばしながらナイフを引き抜いた。

 ゾンビは窓を割り、スカイツリーの外へと落ちていく。


 「くそ!キリがねぇ!」

倒しても倒してもどこまでも敵が現れる。敵は無限に湧いてきているのではないかと錯覚するほどだ。

「これじゃ進めない……」


 と、そこで、「全員伏せろ!」という声が聞こえた。この声は羽角さんだ。

助かったという安堵の気持ちが湧き出る。

僕らは言われた通りに伏せると、羽角は割れた窓の破片を蹴った。破片は全て1匹のケルベロスに突き刺さり、脳天を貫かれたケルベロスは絶命した。

 さらに疾風のような動きでゾンビたちを片付けていく。

僕らの苦労が嘘だったかのように、あっという間に展望デッキはたくさんの死体で満たされた。


 「さすが羽角さん…俺たちとは次元が違うんだな……」

武子や晋平も初めて見る羽角の戦いぶりに驚き、立ち尽くしていた。

羽角は先にどんどん進んでいった。


 今回の任務、本来急を要するものでは無く、もっと計画的かつ万全を期して臨むべきだった。

それを決行したのは、やはり羽角が帰ってきたから。どのくらい東京に滞在するのかはわからないが、このタイミングで面倒事を片付けたかったのが渡部さんの本音だろう。


「僕たちも行こう」

そう言いながら、羽角を実際に見てどんな反応をしているのか気になり、横目に軌琉を見やる。

不気味な笑顔を浮かべていた。胸を躍らせているようにも見えた。


 漠然とした不安を感じつつ僕は視線を戻し、先へと歩を進める。

しかしその時、僕らが背を向けていたエレベーターのドアからドンドンと叩く音が聞こえた。

「え?」

振り返いて見ると、エレベーターの扉がだんだん歪んでいく。

「な、なんだ!?」

次の瞬間には、扉が破壊され中から3体の甲殻を持ったゾンビが現れた。

「マジか……」


 エレベーターの内部は、穴だらけになっていた。ずっと中に入っていたわけではなさそうだ。

「おいおい、びっくり箱かよ!」

修也が言いながらゾンビに斬りかかる。

僕は銃を手に取った。


 放たれた弾丸は、ピンポイントで頭部の外殻を破壊した。

「よし……!」

そしてもう一度引き金を引いたが、カチリと音がするだけで弾が出ない。

「弾切れか……」

僕は甲殻ゾンビの鉄槌を躱し、さっき外殻を破壊した頭部に刀を突きさした。


 僕は修也と連携して素早くもう1体を倒すと、最後の1体を刀で斬ろうとする。

しかし、ゾンビが振り上げた腕がカウンターとなり、弾かれてしまった。

「……?」

異様な手応え。


 最後の1体の甲殻ゾンビは、僕らが倒した2体のゾンビに向かって駆けていき、その肉を食い始めた。

「な、なんだコイツ……!」

嫌な予感がした僕は刀を突きさそうとした。だがその外殻はさっきよりも数倍堅く、全く崩れなかった。

「堅くなってやがる……」


 「修也、これは僕の推測だけど、こいつらは多分同じアンデッドを捕食することで強くなるんじゃないか」

「なんだと?」

「ウイルスを他の個体から摂取することによって、体内のウイルスが増えて肉体にさらに異常をきたしてるんだと思う」


 「それが本当なら、相当厄介だな……」

修也は舌打ちし、刀を構える。


 しかし次の瞬間僕らは凍り付く。

エレベーターの穴の中から、下から這い上がってきたであろう甲殻ゾンビがウジ虫のように大量に現れたのだ。

「…………」

僕らは言葉を失って、ただ立ち尽くす。


 1体が腕を振り上げた瞬間、ソイツの脳天にライフルの弾丸がめり込んだ。

次の瞬間ソイツは爆発し、堅い外殻も粉々になった。

 さらにボウガンの矢も放たれ、外殻ごとゾンビを貫通する。


 「内海さん、最上さん!」

「ここは俺たちに任せて行きな」


 僕と修也は「ありがとうございます!」と言って駆けだした。



 「一度言ってみたかったんだよな、このセリフ」

最上が呟く。

「かっこいいじゃない」

内海が冷やかすように言った。

「そういうこと言えるんだな、あんた」

「何よそれ。とにかく、今はそんなくだらないこと言ってる暇は無いわ」

「分かってる、行くぞ!」


 東京スカイツリー展望デッキ、まだまだ戦いの幕は下がらない。

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