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Anomie  作者: 椎葉
第4章 天才
26/40

26:命の価値

 洋館1階。1階はJUCG隊員の部屋だけなので保護している人々は普段あまり降りてこないが、羽角の影響で廊下は人で溢れかえっている。


 一般人からすればなんとなく親しみにくい隊員だが、羽角がこれだけのファンを獲得するのも良く分かる気がする。

 容姿は端麗、性格も良く、高身長、おまけに天才的な戦闘のセンス。


 「羽角さんだっけ?あの人なんか凄いんですか?」

軌琉が修也に尋ねる。今河班と僕ら如月班は、新しい任務の概要を聞くために会議室へ向かおうとしていたところだ。

「UCGの短い歴史の中で一番の才能を持った天才だ」

「強いんですか?」

「ああ強いよ。俺たちとは比べ物にならないぐらいな」

「へー………」


 軌琉は何故かうずうずしている。軌琉がこのようになるのは大抵任務中、もしくは強敵が出た知らせを聞いた時だ。何も無いとは思うが、何か異様な不安を覚えた。


 「強くなるためにはどうしたら良いんですかね……」

武子が呟く。

「やっぱり、実戦経験と訓練かなぁ………」

僕は短くそう応え、羽角が通って行った方向を見た。


 羽角さんはいったい、どうやって強くなったんだろうか。

きっと、僕たちとは比較できないほど努力したんだろうな……。


 会議室のドアをノックした。

「入れ」

渡部の声が聞こえ、僕はドアノブを回し中に入った。

「失礼します」


 中には既に橋根班、最上班、内海班がいた。懐かしい面々だ。

「このメンバーは………?」

修也が渡部に問いかける。


 「今回の任務はなかなかの規模になりそうだ」

「………!」


 僕らが古いパイプ椅子に座ると、5つの班が揃った。なんだか会議室がいつもより狭く感じられた。

「それでその任務とはいったい?」

内海が尋ねる。

「スカイツリーでの任務だ」


 「は?」

修也が思わず声に出してしまったというように口を塞ぐ。

「地元の観光にでも行こうっていうんですか?」

最上が冗談交じりに訊いた。


 「驚くのも無理はない。だが、なんと中から大量のゾンビが見つかったのだ」

確か僕が入隊してすぐ、僕は参加していないがスカイツリー内のアンデッドを一掃する作戦があったはずだ。だが確かに、一度行ったからもうそこにはアンデッドが入らないという確証はどこにもない。


 「ちなみに、ここにはいないが今回の任務には羽角も参加する」

「え!?」

嘘だろ、と叫びそうになった。

「久々に帰ってきたんだ。一緒に戦えるなんてお前たちは幸運だぞ」

歓喜の声があがる中、僕は少し不安だった。

「でも、僕たちなんかが一緒にいて、足手まといじゃないですかね………」


 僕の言葉に喜びに包まれていた会議室が一気に静かになった。

「え、あ、いや……嬉しいんですけどね!あ、別に皆さんが弱いというわけじゃなくて………」

橋根がため息をつくのが見えた。


 渡部さんが「透」と僕を呼んだ。

「は、はい」

「実を言うとだな、お前たちの班と今河班の実力は東京都内のJUCGでもトップクラスだ」

「え?」

「お前たちの戦いを見ていれば良く分かる。訓練された動きと見事なチームワークだ」

あまりの驚きで、どんな反応をすればいいのか分からない。

ただ、すごく嬉しい。


 「渡部さん、俺らの班はどうなんですか!?」

最上が興奮して訊く。

「もちろん最上班も良い実力だ。精鋭揃いで私も嬉しいよ」

拳を挙げて喜ぶ最上を横目に、内海の口角が少し上がったような気がした。


 橋根が「班の役割の構成はどうなっているんですか?」と尋ねる。

「うむ。まずは今河班、如月班、橋根班を前衛とする。この3つの班には突撃を任せる」

僕らが前衛、ということは危険も多いということだ。

「最上班、内海班は後衛で中距離、遠距離のサポートを頼む」

内海が「分かりました」と言い、最上は「了解です」と言った。

「羽角には基本的には別ルートを進んでもらうことにしたが、状況を見て合流させる」


 羽角だけ一人、というところに信頼の差を感じる。やはり別格か。

僕らは会議室を出て自室に戻ろうとしたが、「修也、透」と誰かから声をかけられた。

 声のした方向を見ると、なんと羽角さんがいた。

相変わらず周囲に人が殺到している羽角は、構わず僕らに「ちょっと来てくれるかな」と言った。


 僕らは班員を部屋に戻してから羽角さんについていった。

羽角は僕らを自身の部屋に入れてくれた。

なんだか緊張して、僕らはぎこちなく椅子に座った。


 「最近どう?」

何かと思えば羽角はそんな何気ないことを訊いてきた。一瞬拍子抜けして反応が遅れた。

「あ、まあまあです………」

「そう、そっちは?」

修也は「い、良い感じです!」と言った。


 僕と修也は入隊してすぐの頃、羽角さんと同じ任務に参加し、稽古もつけてもらったことがある。

こうやって話すのはその頃以来だ。

「は、羽角さんはどうですか……?」

「最近は自分の中でも新しい動きを取り入れたりしてみて、良い感じだよ」

僕らは何か必死に話題を見つけようと思考を巡らす。

「海外だとやっぱり銃がメインの戦いになりますよね?」

「そりゃあね。でも俺はずっと刀だよ」

僕や修也、橋根が武器に刀を選んでいるのは羽角の影響が大きい。

「この前はヨーロッパの辺りでしたよね?刀とか調達できたんですか?」

「いや、俺はずっと同じ刀を使ってるんだよ。手入れさえ欠かさなければ一本で充分にもつよ」

そういえば、以前稽古の時に羽角さんが「得物を駄目にするのは三流止まり」だと言っていたのを思い出した。今僕らはどうだろうか。強敵と戦う度に刀を折っている。いくら実力をつけたとて、それじゃ駄目なんだ。

 羽角の前ではなんだか、初心に返る。それと同時に、まだまだ遠い存在だということを突き付けられる。

 

「ど、どうしたら羽角さんみたく強くなれるんですかね…」

修也が尋ねる。羽角は顎をさすり、少し考えるような素振りを見せて言った。

「俺はやっぱり実戦経験だと思うな。経験に勝るものなんてそうそう無いと思うよ」


「じゃあ、これからもアンデッドを倒しまくれば、強くなれるんですかね」

羽角は少しの間考え込むように黙り込んだ。

「…………」

「羽角さん?」

「アンデッドは人類の敵で、憎むべき対象でもあるけれど……」

「?」

「アンデッドだって元々は人間とか、生物なんだ。俺たちはほぼ毎日と言って良いほどに仮でも誰かの命を奪っている」

「………」


 生きるためには、殺すしかない。命を救うために、命を奪うしかない。

はっとする。


 日常的に誰かの生死に関わり続けている僕らは、『命の価値』の認識が薄れている気がする。生まれてから今までし続けた呼吸が当たり前のようになっていることのように、1日3回の食事が習慣になっているように、命を奪うという行為が当たり前のようになってしまったら。


 すごく怖いな。


 その時僕は、あの上野駅で自ら死を願った男を思い出した。

「羽角さん、それでも僕、これからも戦い続けます。大事な人を守り続けます。僕らにはそれしかないから」

「俺もだ。せめて奪う命から目は背けねえようにします」

「うん」

羽角は笑顔で頷いた。

守るために戦う。それは変わらない。

この先も。

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