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Anomie  作者: 椎葉
第4章 天才
25/40

25:帰郷

 「ほら、晋平くん行くよ!」

「歩くの疲れた~」

今は任務中で、都内の見回りをしているのだが、相変わらず晋平の体力は少なくすぐに疲れてしまう。

「しっかりして」

「疲れたぁ~」

とは言っているものの、本当はそんなに疲れてないんじゃないかな、と思う。少し甘えが過ぎてるような。


 「おい!如月さんの足を引っ張るな!」

「なんだと武子…!」

そしてまた喧嘩になる。この流れももう何度目か分からないが、何も変わっていないのは確かだ。


 「二人共。任務中なんだから」

「はい!すみませんでした」

「分かったよ……」

とりあえず二人共ちゃんと喧嘩をやめてついてくる。晋平が普通に歩いている姿を見て、やっぱり歩けるじゃないかと心の中で叫んだ。


 今の世界は、以前と比べてアンデッドの数は半数以上に減った。何十年もかかる長い戦いかと思ったが、ここ何年でこれだけ数を減らせたのは人類の底力とでも言ったところか。

 そんな中日本では、アンデッドの数は減少しているものの一向に終わりが見えない。どこから湧いてくるのか、無限と思えるほど出てくる。

 本当に、いったいどこから……?


 世界を復旧させることは、なんだかとても果てしない夢のように思えた。


 「気配を感じるな……」

前方に旧いトンネルが見える。中は薄暗く、明かりはあるものの切れかかっていて頼りない。

「随分遠くまで来ちゃったな………」

「行くの?にっちゃん?」

僕は頷き、トンネルの中に踏み込んだ。


 「暗いな……」

すると、武子が懐から何か取り出し、カチリという音がして明かりがついた。

 懐中電灯だ。

「助かるよ武子くん」

「いえ」


 僕は武子くんの懐中電灯の光を頼りにしてトンネルを進んでいった。

「おかしいな……」

「どうしたの?」

晋平が震えた声で問う。

「なぜ何も出てこないんだ…?」

入り口で感じた気配はそれほど遠くは無かった。今もなおとても近くから気配を感じる。


 ふいに、何か水のようなものが地面に落ちた。

「ん?」

雨かと思ったが、ここはトンネルの中だ。

武子が懐中電灯を上に向けるよりも先に、“何か”が着地する音がした。

すばやく刀を抜きながら背後を振り返ると、その“何か”はいきなり襲い掛かってきた。

即座に刀で反撃しようとしたが、俊敏な動きで躱されてしまう。


 暗くて相手の姿はよく見えないが、普通のアンデッドではない。

武子の懐中電灯の光が当てられた瞬間、そのアンデッドは避けるように動き、壁際の暗闇に身を隠した。


 それを見て僕は戦慄する。

 一瞬見えたヤツの姿は、人型ではあったものの、獣のように四つん這いになっていて、皮膚は薄く血管は浮き上がっており、眼球はカメレオンのように異常に巨大化し、何より手がかぎ爪のようになっていて、あれをまともにくらったら相当なダメージだ。


 しかもこの暗がりの中はかなりまずい。

「武子くん!晋平くんを頼むよ!」

「分かりました」

僕は暗がりの中で微かに見えるヤツを斬ろうとする。しかし、なかなか当たってくれない。


 姿形からして、ゾンビの変異体だと思うのだが、ありえない程俊敏な動きだ。

あの女アンデッドやU-birdを除けば、今まで会った中で一番のスピードだ。


 「武子くん、晋平くん、囲むよ!」

武子と晋平と僕で素早くアンデッドを囲む。

武子の懐中電灯の光が当たった瞬間、再びアンデッドは避けるようにトンネルの天井に張り付いた。

かぎ爪を天井に食い込ませている。ああやって張り付いていたわけか。


 「もしかして、光が苦手なのかな……?」

晋平のその言葉に、ハッとした。あの巨大化した眼球。暗闇の中でも良く見える視力。光が苦手というのはありそうな話だ。


 僕はアンデッドを斬ってとりあえず地面に落とそうとしたが、やはり躱されてしまう。

「武子くん!」

「ええ!分かってます!」

武子は懐中電灯の光をアンデッドに向ける。

アンデッドは咄嗟に避け、地面に落ちた。

僕は腰から拳銃――コルトガバメント――を取り出し、引き金を引いた。


 放たれた弾丸が回転しながらトンネルの闇を貫き、アンデッドの背に命中した。

「ギャァァァァァァッッ!!」

撃つ際に多少衝撃が来たが、初心者でも使える安定性だ。最上がおすすめするだけある。


 アンデッドは、逃げようと向けられた光から逃げようと必死だ。

「逃がすか…!」

アンデッドは傷によりさっきより大分遅くなっている。皮膚が薄いおかげで、ダメージも大きいようだ。

僕はコルトガバメントをアンデッドに向けて撃ちまくる。

「……よし!追いついたぞ」

「グッ!」

アンデッドはもう逃げれないと判断したのか、決死の攻撃を仕掛けてきた。

だが僕の方が一瞬早く、リーチも長かった。

 僕は刀をアンデッドの脳天に突き刺し、破壊した。


 「終わった………」

武子と晋平もすぐに追いついた。

「お疲れ様です」

僕は改めてアンデッドの死体を見た。

「ADウイルスはこんなやつも生み出してしまうのか……」

おぞましいものだ。あってはいけない。………。


 「今日のところはこれで帰ろう」

そう言って気がついた。ここから洋館まで、いったい何kmあるんだ……?



 洋館にやっとの思いで戻った僕らは、異変に気がついた。

……賑やかすぎる。


 「なんだなんだ?」

「おお!透、帰ってきたか!」

「修也、それよりなんか賑やかじゃない?」

出迎えた修也もなんだかテンションが高い。


 「ああ、それがよ!なんと羽角さんが帰ってきたんだ!」

「なんだって!?」

「UCGの英雄の帰還だぜ!?これが盛り上がらずにいられるかっての!」

「羽角さんはどこに!?」

「会議室だ!!」

僕は急いで洋館に上がり、駆け出した。

「ちょ、ちょっとにっちゃん!?」


 会議室の前には羽角の姿を目に焼き付けようとたくさんの人が集っており、隊員だけでなく保護している一般人も大勢いた。


 やがて会議室の扉が開いて、羽角が出てきた。

さっきまで会議室の前でざわついていた人たちは羽角が出てくるなり叫びをあげて、ついていった。

なんというか、熱狂的なファンに近いな、あれは。


 UCGの下で日本と世界を救った英雄、羽角 秀。多くの人の憧れであり、目標でもある。

僕は羽角さんを一目拝めた喜びを胸に、部屋へと足を進めた。

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