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Anomie  作者: 椎葉
第3章 謎のウイルスとアンデッド
23/40

23:条

 遼は今、洋館にある簡易資料室にいた。

外では雨が降っており、雷も鳴っている。本来は連日の任務の疲れをとることが良いのだろうが、遼はそんなことは気にしなかった。


 「5/8…羽角秀入隊……もっと前か……?」

かなりの資料を読み漁ったが、探している情報は見つからない。

JUCGの歴史も少ないので、すぐに見つかると思うのだが。


 「……!これか」

資料には、[2/14 実験施設]と書かれている。いくつもの紙がホチキスで留められていた。

「やはり以前にも施設の発見はあったか……」


 ペラペラと紙をめくって内容を見てみる。

研究員の顔写真と名前が記載された紙を見る。そういえば、研究員はJUCGが保護しているはずだが、いったいどういった形で生活させているのだろう。監禁でもしているのだろうか。

強制的に隊員として働かせているのだろうか。ありそうな話だ。


 資料の最後の方に施設にあった資料をまとめてあった。

一通り読んだが、ある文章に目が留まった。

『被検体001へのAD投与を開始』

被検体001。その文字列は、遼にとって特別な意味がある。遼は脳を揺すぶられるように一瞬視界が揺れた感覚になった。

動機が速くなり、文章を目で追っていく。

『被検体001の脳の異常を発見』。『被検体001の体内でウイルスが異常増殖』。

そして、『被検体001のAD投与を中止。廃棄処分とする』、『廃棄処分を実行した研究員の死体を発見。廃棄処分は失敗』。


 廃棄処分は失敗……。いったい何があった?


 思ったよりも多くの情報を得ることができた。

遼は資料をしまい、また別の資料を手に取った。


 ふいに、資料室のドアが開いて誰かが入ってきた。

 「ん?りょ、遼か………」

見れば、あの筋骨隆々の男だった。

「こ、この前は、すまなかった……」

「この前?」

「あの、俺が足引っぱっちまって……」

「ああ、別にいい」

見た目に反して礼儀正しい、というより、弱気な男だと思った。遼が一回り年上だろう自分に当たり前のようにため口でも気にもしていないようだ。


 「な、なぁ」

「………何?」

男は言い出しにくい様子だったが、数秒おいて口を開いた。


 「俺に稽古をつけてくれねぇか……?」

「は?」

何を言い出すかと思えば、それは稽古の頼みだった。

「あ、あの、俺、この体型の割に戦いが苦手で……みんなからもよく馬鹿にされてて」

「なぜ俺に頼む」

「だって、遼は俺より何倍も強いし……」


 「忙しいのは分かるが遼にしか頼めねえんだ……頼む!」

ついには土下座までされた。ここまでされたら断りづらい。

「分かったよ………」

遼は面倒だと思ったが、断れず承諾した。

男はパッと顔をあげた。

「本当か…!ありがとうな……!」


 「そういえば、名前は?」

男は立ち上がりながら答えた。

「ああ、そうだった。俺は岩田(いわだ) (じょう)っていうんだ」


 「それじゃあ早速ジムに行く」

「え、今から稽古するのか!?」

「当たり前だろう。やれるときにやっておかないといけない」

条は「すぐ準備する!」と言って自分の部屋に駆けていった。

遼はその様子を見て少し笑った。


 遼は自分の弟子ができたような気分でむず痒かった。

 ――なんだ、この感覚は……。

「俺としたことが………」

遼は振り払うように頭を振り、自分の部屋に向かって歩いた。



 数分後、遼と条はJUCG管理のジムに到着した。

「鍵は?」

「持ってきた」

遼は鍵を鍵穴に差し込み、回した。

ジムは前に来たことがあったが、その時より埃が少なく綺麗に思えた。

「武子が気をきかせてるようだな」

「……?今なんて?」

「いや、なんでもない」


 遼は上着を脱ぎ、軽く体操をした。条も真似をする。

「とりあえず、基本的な身体能力を身につけないと話にならない。素手でこい」

「い、いいのか?」

遼が頷くと、条は「じゃ、じゃあいくぞ」と言って構えた。


 条は真っすぐに突っ込んで殴ってきた。

遼はその拳を手で受け止めた。

力はかなり強い。だが、身体を生かしきれてない。


 「よけろよ」

遼は条の拳を放し、蹴りを条の脇腹に入れた。

「ぐあッ!」

条は腹を抱えて膝をついた。

「敵の前で休むな……!」

遼は条を裏拳で吹っ飛ばした。


 条は床を転がり、壁に激突した。

「くッそ………」

遼は条の前に立った。

「お前は力は常人の数倍あるがその体型を生かしきれてない。頑丈なだけじゃこれからやっていけないぞ」

「………分かった」


 「立てるか?」

「あ……ああ、大丈夫だ」

遼は手を差し伸べたが、条は自力で立ち上がった。

「早いが今日はもうやめにしよう」

「すまねぇ………」

遼は上着を着て、条とともにジムを後にした。


 外はいつの間にか晴れていたが、遼はそんなことには興味を示さず歩を進める。

対照的に条は虹を見つけて歩きながら眺めていた。

「俺、雨上がりって好きだな」

「……?なんだ急に」

「いや、なんか今日も頑張って良かったって思えるんだよ」

「…………」

遼はそんなことを考えたことがなかったので、条の言葉をあまり理解することができなかった。


 「俺の努力はそんな簡単に認められるものではないな」

遼はなぜか天気に反して暗い気分になった。

「そういえば遼は、なんでそう熱心なんだ?」

「熱心?」

「ああ。隊に忠実で、どんな任務も簡単にこなしちまう。そこまでの強さを手に入れるために、かなり努力をしたんじゃねえのか?」

「………………」


 「俺はもともと人を助ける職業に就きたいと思ってたんだ。でもなかなか思った通りにいかねぇな」

遼はなんとなく、条の苦労の片鱗に触れた気がした。


 「遼はなんで入隊しようと思ったんだ?」


 条のその一言で、遼は立ち止った。

「どうしたんだ……?」

遼は固く拳を握りしめ、「なんでもない」と言った。


 「な、なぁ、遼……」

「なんだ?」

「過去に何かあったのか?」

遼は振り返って条を見た。

条の足は震えていたが目は強く遼を見据えている。

「俺、相談に乗るからよ……」


 遼は今まで自分の過去を明かしたことはあまり無い。

だが、不思議と条の真っすぐな目に吸い込まれるように口を開いた。


 遼は、ある過去を背負って生きていた。

それは、UCGが創設されるより前の出来事だった――。

登場人物プロフィール


岩田 条

アンデッド殲滅部隊 ウイルス追跡チーム所属

26歳 AB型

身長:188cm 体重:87kg

誕生日:5月16日

好きなもの:アクション映画、筋トレ、虹、将棋

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