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Anomie  作者: 椎葉
第3章 謎のウイルスとアンデッド
22/40

22:地下の番人

 如月班たちが上野駅から帰還し、翌日任務報告会を行っていた頃、遼含めたウイルス追跡チームは“ウイルス研究所”と思われる施設を襲撃していた。


 研究所内。侵入者発見の警報が鳴り響く。

「遼、そっち頼む」

隊長が指示を出す。遼は指差された方を向き、走り出す。


 内部は複雑な構造になっており、ロックされた扉も多くなかなか探索しづらい。研究員も逃がしてしまったが、それは外の部隊が包囲しているので一網打尽だろう。


 ――俺を一人で向かわせたということは、隊長も俺を高評価しているな……。


 そう考えると胸が高鳴った。


 前方の黒い扉を開くと、いくつもの棚が並んでいた。そこにはたくさんのファイル、書類が詰め込まれていた。遼は無線機で隊長に連絡する。

「こちら遼。1F東側に、資料室と見られる部屋を発見しました」

『分かった。しばらく探索しろ』

とそこで、部屋の隅で物音がした。ネズミか何かかと思ったが、近づいてみると白衣を着た女だった。隠れていたのだ。


 「研究員だな」

女はしばらく震えていたが、意を決して遼に体当たりをしてきた。

遼はそれを躱し、逃げようとした女の腕を掴んだ。

「無駄だ」

女は必死に抵抗するように暴れる。遼は腰の刀の柄に手を添えたが、思いとどまり舌打ちして女を無理やり外の部隊へと連れて行った。


 再び資料室へ戻ってきた遼は、適当に書類に目を通す。特に重要そうなことは書いてない。

そこで無線機が鳴った。

『岸間が地下への通路を見つけた。1F北側通路だ』

「分かりました。すぐに向かいます」

遼は書類を戻し、資料室を後にした。


 言われた通りに北側通路に行くと、奥に大きな扉があり、その奥に階段があった。

地下は前の実験施設と同じような構造だが、蛍光灯が明るく、雰囲気は違った。


 共通点としては、さっきからゾンビの唸り声が聞こえていることくらいか。


 遼は慎重に歩を進める。どこから来るのか分からない。

しかし、意外にもゾンビはどこからも出てこない。それが逆に不気味だった。

出るなら早く出ろとイライラしながら遼は道に沿って歩く。


 それにしても、何故前の実験施設と同じような構造なのだろうか。

何か意味があるのだろうか…?なんにせよ、何か気分の悪い胸騒ぎがした。


 ゾンビの唸り声に混じって、鎖の音が聞こえた。それに、何か金属を引きずるような音も。

遼はその音を聞いた瞬間背筋が凍った。正確に“ソイツ”の輪郭を想像することができる。


 音は次第に近くなっていく。遼は刀を抜いた。

そこで、目の前に誰か人がいるのが見えた。隊員ではない。白衣を着ている。


 「研究員か……」

その人は眼鏡をかけた若い男性だった。なぜか酷く疲労しているように見えた。

「た、助けてくれ……!」

男は遼を見つけるなり助けを求めてきた。

「お願いだ…ここから出してくれ……!」

遼は急に鬱陶しく感じ、刀で男を斬りつけた。

「ぐえッ……」

男は倒れた。まだ息があるようだが、遼は無視して先へと進もうとした。

しかし。


 突然背後で壁が崩れたと思ったら、巨大な斧のようなものがさっきの男の身体を真っ二つにした。

「ぐああああああッッッ…………」

男は瓦礫の下敷きになり、悲鳴も聞こえなくなった。


 「出たか……」

壁の向こうから巨大な斧を持った男が現れる。“ソイツ”は、以前透が対峙した怪物と酷似していた。


 「なんだ!?」

音を聞きつけた隊員が駆けつけてきた。

「なんなんだこの怪物は……」

隊員が困惑する中、遼は刀をしっかりと握りしめた。


 そして、壁を蹴ったかと思えば、一瞬で怪物の背後へと回り込んだ。

そして刀で斬る。だが、怪物の筋肉はとても硬く厚く、遼の刀でも大したダメージは与えることができなかった。

 ――なかなか手強いな…。

 遼は怪物が振り返る頃には股の下を通ってまた背後へと回っていた。


 「隊長……あの遼ってヤツ、マジでやべぇ………!」

隊員は遼の動きに圧倒され、全く出る幕が無かった。


 遼には類稀なる戦闘の才能があった。どんな敵にも負けたことは無かった。

それは透にも劣ることはない。


 遼が怪物を斬っていると、突然手のひらについた口から声が発せられ、それに呼応するようにたくさんのゾンビが集まってきた。

「そうだ…コイツ、アンデッドを呼び寄せることができるんだ……!」

隊長は焦るが、すぐに指示をだした。

「遼はソイツを抑えろ!我々でゾンビを駆逐する!」

そこで、以前遼に話しかけてきた筋骨隆々の男が声を上げた。

「な…隊長!遼一人で奴の相手をさせるんですか!?」

「我々がいても足を引っ張るだけだ。我々は我々のできることを」

男は納得がいかないといった顔だったが、指示に従った。


 隊長は良く分かっている。使えない奴がいても足手まといになるだけだ。


 ――俺一人で駆逐する…!

遼は刀を構え直し、怪物に突き刺した。だがあまり深くまでは刺さらなかった。

遼は舌打ちをした。怪物の筋肉に圧迫され、刀が抜けない。

怪物は振り返り際にその巨大な斧で斬ろうとしてきた。遼はそれに気づき、一瞬早くバク転で回避した。

だが、刀は刺さったままだ。

「どうしたものか……」


 遼はしばらく攻撃を回避しながら考えた。

「とりあえずコイツの動きを封じるのが先か……」

怪物は足元を斬るように低く斧を振ったが、遼は跳んでそれを回避し、怪物の横に着地した。

怪物は斧で遼を斬ろうとする。それを回避し、壁際に立った。

怪物は休むことなく斬りかかる。

しかし、遼が躱したところで後ろの壁に斧が突き刺さった。


 一瞬で壁が崩れるが、ほんの少し隙を作ることができた。

遼は怪物の背中に乗り、突き刺さった刀を力づくで引っこ抜いた。

着地した瞬間、斧が振り下ろされたがなんとか躱すことができた。

ただ、腕を少し擦りむいてしまった。


 「大丈夫か、遼!」

さっきの筋骨隆々の男だ。援護は頼んでないのだが、男は手に持ったロケットランチャーを構えた。

だが、怪物は既に斧を振り上げていた。

「危ねえッッ!!」

遼は男を蹴り飛ばした。そこに、斧が振り下ろされる。

遼は間一髪で躱したが床に亀裂が入り、かなり戦いにくい足場となってしまった。


 「何してる…ッ!」

「すまねぇ………」

怪物は疲れを知らないかのように攻撃を止めない。

「くそッ!とりあえずお前はいつでも打てるようにしておけ」


 遼は男にそう指示し、刀を握りなおして怪物へと突っ込んだ。

そして斧が当たらない懐に潜り込み、膝を踏み台にして怪物の身体を駆け上がった。

そして顎に膝蹴りをくらわせたが、あまりダメージはないようだ。

今度はボロ袋を被せられた怪物の頭を踏み台にして、跳びあがった。


 だがそこにもう斧が迫っていた。思ったよりも反応が良いようだ。

「チッ………」

回避はしたが、斧が天井を抉り、瓦礫がゾンビや隊員を押しつぶした。

遼は怪物の頭を掴み、そのまま背後に着地した。

怪物は後ろに反り返り、瓦礫が身体に降り注いだ。


 しかしまだ倒れない。

遼は怪物の頭に刀を突き刺し、叫んだ。

「撃て!」

男は引き金を引き、ロケット弾を放った。

ロケット弾は怪物の正面に直撃し、爆発した。遼は怪物の後ろにいるから直接的なダメージは無いが、かなりの衝撃が伝わる。


 怪物はロケット弾が直撃してもまだ立っていたが、フラフラと揺れて、やがて倒れた。


 「はぁ…はぁ………」

遼は息を整えて、怪物の頭に刺さったままの刀を引き抜いた。


 ゾンビも粗方片付いたらしく、隊長は「撤退しよう」と言った。


 まさか透と戦った怪物と同じ奴がもう1体いたとは。いや、もしかしたらまだいるのかもしれない。

だが、遼は実感していた。


 俺は強くなっている。それは明らかだ。だが力がつくだけで、依然俺の目的は達成されない。

俺はまだこの隊にいる必要がある。いつか俺の目的をやり遂げる、その為に――。

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