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Anomie  作者: 椎葉
第3章 謎のウイルスとアンデッド
20/40

20:知能を持つアンデッド

 巨大蜘蛛をなんとか倒した僕らは、男の遺体を拝むべく上野駅2階を歩いていた。

それにしても、あれだけ強大な敵が現れたにも関わらず、死者を出さずに任務を遂行できたのは凄いことだと思う。今河班とのチームワークが成せる業だろうか。


 「はぁー、疲れたぁ…」

何度目か、晋平が呟いた。

「君たちはただ蜘蛛を踏み潰してただけでしょ」

僕が言うと、晋平は怒り気味で言い返した。

「にっちゃんが命令したんでしょ!にっちゃんたちの戦いに支障が出なかったのは俺と武子のおかげだからな!」

僕は「ごめんごめん」と謝るが、実際にあの巨大蜘蛛と対峙した僕らより弱音を吐くのは如何なものか。


 1階に降りた僕らは男の遺体の前に立った。

静かに目を閉じ佇むその姿は、ウイルスの影響か皮膚の変異、腐食は進んでいるもののまだ綺麗な部分が多い。

僕らは合掌し目を閉じた。


 「この人はもう死んでるとはいえ、ウイルスはまだ身体に残ってる。早いうちに燃やさないと」

修也が頷き、男の頭を持った。

「透、足を持ってくれ」

僕らは男の遺体を外に持ち出した。

「ここなら大丈夫だろう」

僕は胸ポケットからマッチを取り出す。まだアンデッドに変貌していない場合、蘇ることができない程の損傷を与えるか、燃やす必要がある。こういった時のためにいつも持ち歩いている。


 僕はマッチ棒に火をつけ、遺体の胸元に置いた。

火はすぐに燃え広がり、あっという間に遺体が炎で包まれる。

気づけばもう夕暮れ時だった。

夕日と炎が街道を紅く染めていた。


 ウイルスの影響で腐食していたのか、男は骨も残らなかった。

「行こう」

僕はもう一度合掌してから班員と修也にそう声をかけ、灰となった遺体に背を向けた。


 その瞬間。


 どこからか強い気配を感じ、一瞬身体が硬直した僕は、無意識のうちに刀を抜いていた。

「修也、分かるか」

「ああ、…何かヤバイ奴がいるぞ」

班員も僕らの様子から何かを感じ取ったらしく、表情が強張っている。


 「こんばんは」

背後から突然声がしたので振り返ると、いつの間にか男の灰があった場所に女が立っていた。

「は……?」

思考がついていけずに硬直していた僕は、女がもの凄いスピードで距離を詰め繰りだした蹴りを横腹にくらい、吹き飛んだ。

駅の壁に叩きつけられる。咄嗟に受け身をとったが相当なダメージを受けた。


 「クッソ……」

「透!大丈夫か!?」

女は体勢を低くし、足を払うようにして数人を一気に倒れさせた。

修也と軌琉が一瞬早く気づいて躱したが、すぐに裏拳をくらって吹き飛ばされる。


 「何者だ……!」

女は笑みを浮かべるだけで答えない。

僕は混乱する頭で、しかし注意深く女を見る。女は整った容姿で、小綺麗な服を着ていた。髪は長く、後ろで結ばれている。

雰囲気としては、妖麗という言葉が一番しっくりくる。

僕は息を整えてきいた。

「人間か?」


 女は笑みを浮かべながら答えた。

「どうかしらね」

僕は正直意味が分からなかった。

女は死んだふりをしている晋平に歩み寄り、腰から刀を抜いた。

「おい!何をする気だ!」


 次の瞬間、女は自分の手を切り落とした。

「な……!?」

女は笑みを浮かべたまま落ちた自分の手を拾い傷口に当てると、数秒後には元通りにくっついていた。

「これを見てもまだ人間だって思える?」

「嘘だろ………」

それではこの女はアンデッドということか。しかし、それでは何故言葉を話しているのだ。何故会話をしているのだ。それに、いくらアンデッドでもあのレベルの再生はあり得ない。


 とても冷静に判断できる状況じゃない。ひとまず深呼吸して心を落ち着かせることにした。

女は晋平の刀を投げ捨てる。


 「お前が姿を現したのは自己紹介と下らんパフォーマンスが目的か?」

修也が問いかける。女はクスクスと笑った。

「あなた、なかなかいい男ね。そこのあなたも、『透』っていうのかしら?少し線が細いけど整った顔で良いわね」

修也は目を細めて言った。

「何の話だ」


 「わたしはただ良い男を探しにきただけ。わたしは強い男が好きなの。けど、あなたたちはまだ弱い。それじゃいくら見た目が良くても駄目ね」

修也は顔を険しくする。

「馬鹿にしているのか」

女は何も答えずにその場から去ろうとした。


 女の背中に、ナイフが突き刺さった。

「軌琉………!?」

女がナイフを抜き、振り返る。


 軌琉はその一瞬で既に女の目の前まで来ていた。

軌琉がナイフで斬ろうとするが、女は俊敏な動きで躱す。

「早いわね」

「軌琉!駄目だ、お前じゃまだ敵わない!」

女の蹴りが軌琉に入った。しかし、軌琉は蹴られた瞬間女の足にナイフを突き刺し、吹き飛ばされるのを防いだ。


 そこからすぐに女の足を切断し、さらに腹部に2本突き刺す。

女は体勢を崩し、倒れてしまう。


 「軌琉が押してる……!?」

しかし女にとどめを刺そうとした軌琉の動きが止まった。

ナイフが手から滑り落ち、口からは血が滴り落ちている。

軌琉はその場にゆっくりと倒れた。


 「どうしたんだ……?」

荒い息で修也は言った。

「蜘蛛との戦いから疲労とダメージが蓄積していたんだろう。限界が来たんだ」


 女はナイフを抜いて、自らの足を再生させていた。

「気に入ったわ、強い子ね。……だけど、勇気と無謀は違うわよ」

女はそれだけ言って立ち上がり、背を向けた。

「また会う日を楽しみにしてる」

瞬きをした後には、女は既にいなくなっていた。

僕は痛みを堪えながら立ち上がり、班員のもとに向かった。

修也も軌琉を助けにいっていた。


 「クソッ………」

軌琉はとても悔しそうにしていた。

「お前は人間だ。アイツとは違うんだ。無茶はするな」

修也はそれだけ言って、軌琉を担いだ。


 「晋平くん?」

女が現れてからずっと死んだふりしていた晋平は、ただ震えていた。

「………」

僕は何も言葉が出なかった。

「晋平、帰るぞ」

武子が晋平を背中に背負った。

「行きましょう、如月さん」

僕は頷く。


 奴は軌琉や晋平を殺せる状態であったにも関わらず、それをしなかった。


 突如現れた謎の女アンデッド。知能を持っていたらしいが、いったい何故僕らの前に姿を現し、そして去っていったんだろう。

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