19:蜘蛛
巨大な蜘蛛はこちらに一歩一歩歩みを進める。
巨大なのはウイルスによる変異か…?見た目からしてセアカゴケグモのメスだろうか。
いくらウイルスに感染していてもここまで巨大化するのはおかしい。しかし、確かメスは交尾後はオスを捕食するそうだから、感染したオスを捕食してここまで大きくなった可能性も考えられる。
ここまで巨大な時点で危険性は十分だが、メスはさらに毒を持つ性質がある。噛まれたらマズい。
「コイツ毒がある種類だ!気を付けて!」
僕はそう注意して、刀を構える。
「下がってください!」
今河班の副班長、隼人が前に出た。隼人はマシンピストルを構えると、引き金を引いた。
無数の弾丸が撃ち込まれた巨大蜘蛛は大きく怯むが、すぐに隼人の手元のマシンピストルからカチ、カチ、という音がした。
「弾切れです!補充しますので、時間を稼いでください!!」
言われた通り時間を稼ぐため、僕らは一斉に蜘蛛に斬りかかった。
相手は毒を持っているので、近づきすぎるのは危険だ。間合いを十分に取らなければ。
突然、蜘蛛が今河班の班員の1人に襲い掛かった。
「光輝!!」
光輝と呼ばれた男は、なんとか咄嗟に刀で攻撃を防いだ。
その瞬間、軌琉が跳びあがり、ナイフを蜘蛛の眉間めがけて投げた。
ズブリという音がして、ナイフが突き刺さる。
蜘蛛はキシキシと喚きながら、暴れる。
「あれ?これで死ぬかと思ったけど」
「軌琉!コイツはウイルスの影響で生命力が大幅に上昇しているんだ!それくらいじゃ倒せない!!」
軌琉は着地と同時に次のナイフを手に取った。しかしそこに蜘蛛の足が伸びる。
足の先端には大きな爪がついている。貫かれたら間違いなく即死。
「軌琉!避けろ!!」
軌琉はすぐさま逃げようとしたが、貫かれなかったものの吹き飛ばされてしまった。
「ぐッ………」
軌琉は窓枠にぶつかり、ドサリと床に落ちて気を失う。割れた窓ガラスが外に散らばっていった。
「軌琉!」
修也が軌琉の方へ駆けて行った。
「修也!駄目だ!待て!!」
次の瞬間には蜘蛛はその巨体からは想像もつかないほど高く跳びあがり、修也の前に立ちはだかった。
「クソッ!」
修也は刀で蜘蛛の口を突き刺そうとしたが、鋏角で止められてしまう。
「畜生……!」
蜘蛛はがっちりと刀を噛んで離さない。そしてその鋭い脚を高く持ちあげた。
「マズい………!」
このままだとやられる。
僕は刀を構え、蜘蛛の方へ走って腹部に斬りかかった。
蜘蛛はもがいて、やっと修也の刀を離した。
「うわああああッ!!」
背後から晋平の悲鳴が聞こえる。
「どうしたの!?」
「如月さん!小さい蜘蛛がたくさんいます!子蜘蛛のようです!」
晋平の代わりに武子が答えた。
「マズいな………」
「弾補充完了しました!」
「よし隼人!早くこの化け物蜘蛛を倒してくれ!」
僕も班員に指示を出す。
「如月班は光輝くんと一緒に子蜘蛛の殲滅を頼む!毒に気をつけて!」
「分かりました!」
隼人は再びマシンピストルを構え、蜘蛛めがけて引き金を引いた。
一発一発は蜘蛛の体躯に比べれば威力が少ないものの確実にその身体を削り取っていく。
しかし、ほんの数秒でまた弾切れになってしまう。
「クソッ!まだ倒せないのか!」
突然蜘蛛が上体を持ち上げ、腹部の先端を突き出した。
次の瞬間にはそこからものすごい勢いで飛び出た糸によって隼人は壁まで吹き飛ばされる。
「隼人ッ!」
「な、なんだこれ、糸!?とれない……!」
隼人の身体は粘着性の糸によって壁に固定されてしまった。もちろん、マシンピストルごと。
「おい、冗談じゃないぞ!」
切り札であるマシンピストルが使えなくなり、さらに窮地に立たされる。
「気持ち悪ッ!」
「晋平!刀じゃなくても、このサイズなら十分踏みつぶせる!」
「それにしてもどこからこんなに湧いて出てるんだよ……!」
武子たちは武子たちで苦戦しているようだ。
「どうすれば……」
刀による攻撃でも十分ダメージは与えられるのだが、如何せん接近するのにリスクが大きい。攻撃のリーチでは相手に分がある。
「でもやるしかないか……」
弱音ばかり吐いていても仕方ない。
僕は一度も蜘蛛から目を離さずに叫ぶ。
「修也!僕が隙を作る!」
そう言って僕は蜘蛛に向かって一直線に走る。
「はぁ!?っておい、ちょっと待てって!」
僕は蜘蛛の少し手前で止まり、刀で眼を斬ろうとした。
しかし俊敏な動きで躱されてしまう。
そこで僕はいったん止まって相手の攻撃を誘う。予想通り、僕に噛みつこうとしてきた。
間一髪で躱し、蜘蛛の上に飛び乗る。蜘蛛は慌てて振りほどこうと暴れる。
「修也ッ!」
「チッ、分かったよ…!」
僕は必死に蜘蛛の背中にしがみつきながら刀を掴み、足を一本斬り落とした。
蜘蛛は一気に体勢が崩れ、倒れてしまう。
僕は一瞬早く蜘蛛から飛び降りた。
「オラッ!」
修也は倒れた蜘蛛の頭部に刀を突き刺した。
しかし蜘蛛は刀が刺さったまま激しく暴れ、そのまま修也の刀を折ってしまった。
「おいおい……!嘘だろまだ生きてるのかよ!」
蜘蛛は腹部を突き出し、四方八方に糸をまき散らす。
「うわっ!」
周囲の子蜘蛛さえも糸の餌食となった。
蜘蛛は階段の方へ身体を向け、逃げるようにして走った。
「待て!」
僕は追いかけようとしたが、ガクンと態勢を崩し、転んでしまった。
「糸……!?」
足を糸で固定されてしまっていた。
「クソッ!」
しかしそこで突然階段が崩れ、蜘蛛は下の階へ落ちていってしまった。
もとからボロボロだった階段が、あの大きな蜘蛛の重量を支えることができなかったのだ。当然といえば当然だ。
僕は刀で足に絡まった糸を切断し、階段へと走る。
下を見ると、蜘蛛は大量の瓦礫の下敷きとなっていたが、まだ生きているらしく瓦礫の下から這い上がってきた。
「これで最後だ……!」
僕はそこから飛び降り、落下の勢いも利用して蜘蛛の頭部に刀を突きたてた。
そして頭部から腹部へと突き刺したまま斬っていく。
真っ二つに斬り裂いた頃には、蜘蛛はもう絶命していた。
「やっと倒した……」
安心とともに疲労感がどっと押し寄せ膝をつく。
「透、やったか!?」
修也の声が聞こえる。階段が無くなり3階に行けないので、「倒した!」と下から伝える。
「分かった!今行くから待ってろ!」
しばらくすると修也が軌琉を背負って降りてきた。隼人も糸から解放されたようだ。
晋平も大分疲れたらしく、武子に背負われている。
「今回はマジで危なかったかもな」
僕は頷いた。この先、この蜘蛛を超える強さの敵が現れるのだろうか。
そして僕は、自ら殺してくれと頼んできた男を思い出す。
ウイルスは死と憎しみしか生まない。僕はもう一度男の遺体を拝んでから帰ろうと思った。
任務記録報告
上野駅での任務にて、巨大な蜘蛛のアンデッドと遭遇、襲撃される。
この蜘蛛の名前をU-spiderとする。
新たな種のアンデッドとして、充分な対策を練ることを推奨する。




