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Anomie  作者: 椎葉
第3章 謎のウイルスとアンデッド
18/40

18:上野駅

 僕らは今、任務のため上野駅に向かっていた。

「暑いわ~」

晋平が腰を曲げて歩きながらそう言う。なんだか余計暑く感じる。

「真夏だもんなぁ」

修也が言った。

「で、なんでお前がいるんだよ」


 「今回の任務、俺らも一緒にやることになったんだよ」

ということは、どうやら如月班だけでは足りないくらい敵は多いらしい。面倒だな、と僕は思った。というか、渡部さんはなんでこういつも、事前に教えてくれないんだ…?

溜息をつく。

「足引っ張らないでね」

「おい、それが親友に対する態度かよ!」

とはいえ、修也がいると安心する部分もあるので、少し助かったのかもしれない。


 「遼くんはいないんだね」

軌琉がなんとなく発したその言葉に、武子と晋平の顔が強張った。

「………?」

軌琉は何も知らないのだ。軌琉に悪意はない。むしろ、悪いのは未だ遼のことで悩んでいる武子たちの方だ。

「遼くんは、ウイルス追跡チームに入ったんだ」

「へー!そうなんですか、すごいですね遼くんは」

そう言われると何故か、自分のことを言われたみたいに嬉しかった。


 「僕も入ろっかな~」

「やめとけ。実践経験の浅いお前じゃまだ早い。それにお前じゃ言うこと聞かずに追い出されるかもしれないしな」

修也のその言葉に、軌琉は「え~」と嫌そうな声で返した。


 「上野駅に到着した、入るぞ」

当然だが中は殺伐としていて薄暗く、人一人いない。死体もない。ただ、所々に蜘蛛の巣が張られており、改札口は破壊され、血がこびりついていた。


 探索中、突然背後から唸り声が聞こえた。振り返ると、1体のゾンビが立っていた。

「軌琉」

修也がそう言うと、軌琉は素早くナイフのような形状のものを投げた。

ナイフはゾンビの頭を正確に貫き、吹き飛ばした。軌琉はナイフを回収しに駆けていく。

「すげぇ……」

晋平が呟いた。

「凄いでしょう?うちの班員の腕前」

今河班副班長の隼人が言い、僕は唾を吞み込んで頷く。


 その後も探索を続けたが、1階には敵はいないようだ。

階段を昇って2階に上がったところで、僕らは思わず硬直する。

多数のゾンビとケルベロス。僕らに気づくと、一気に階段になだれ込んできた。

「オイオイ嘘だろ……!?」

「武子くん、晋平くんを頼む!」

僕は居合で一気に数体を斬り裂いた。が、すぐに他のゾンビに囲まれてしまう。以前浅草で戦った硬い皮膚を持つ種のゾンビまでいる。

「チッ、多いな………!」

修也も苦戦しているようだ。

僕は回し斬りで周囲のゾンビを薙ぎ払い、1体ずつ倒していく。

晋平も戦っているらしく、武子のサポートをしていた。

 とそこで、足を掴まれて転んでしまう。

「しまった………」

ゾンビが足に噛みつこうとしたところで、軌琉がゾンビの頭にナイフを突き刺した。

「ごめん、ありがとう…」

軌琉は「いえいえ~」と言ってまた他のゾンビを倒しに行った。


 修也には数体のケルベロスが襲い掛かっていた。

「可愛げのねえわんちゃんだな」

修也はケルベロスの首に刀を突きさし、投げ捨てた。その死体は周囲のケルベロスも巻き込んで飛んでいった。

「伏せてください!」

軌琉が大声でそう叫んだ。言われた通りに伏せると、軌琉は襲い掛かるケルベロスの背中に足をつき、そこから今度はジャンプして2体ゾンビの頭に両足をついた。そしてそれを足場に一気に高く跳躍する。反動でゾンビの首が折れ、頭は潰れた。


 高く跳びあがった軌琉はナイフを指に挟むようにして両手で計8本持ち、下に向かって投げる。

放たれたナイフは雨のように降り注ぎ、ゾンビやケルベロスを一網打尽にした。

「凄い………」

僕は軌琉に遼に近い才能を感じたが、遼とは違うトリッキーな戦い方だ。他の隊員とも一線を画している。


 「ここは大体片付いたか……?」

残りのゾンビたちも倒したところで、修也が言った。

 しかしその時、どこかで物音がした。

神経を研ぎ澄ませ、注意深く周囲を探る。

すると、切符売り場の中に人影があった。

刀を構えて近づくと、男が1人座っていた。

見たところ、ゾンビではない。


どうやらここに隠れていたらしい。

「大丈夫ですか?」

「あんた…人間か………」

男は飢餓で衰弱しきっている。今にも消え入りそうな声だった。

「俺は、もう駄目だ………」

男は透の手を掴んだ。

「あの、化け物に噛まれちまった……。俺が、化け物になる前に……ガフッ」

吐血する。

「化け物になる前に、殺してくれ……」

「そんな………」

 男は力強く透の肩を掴んだ。

「もう首から下は痛みも何も感じない……頼む……」


 僕は少しの間悩んだが、やがて決意した。

「………分かりました」

「にっちゃん……!」

僕は男の胸に刀を突きさした。刀は心臓を貫き、男の生命を絶った。

「晋平くん、この人は人間としての尊厳を守るために自ら死を選んだ、強い人だ…」

 UCG隊員の義務は、人命を守ることだ。だが、ウイルスに感染した者を救うことはできない…。


 僕は刀を引き抜き、目を閉じて手を合わせた。

今の世界では、もう墓など建てることなどできないが、せめてこの上野駅をこの人のお墓にしてあげようと思った。


 「……行こう」

修也が無言で頷き、「まだアンデッドがいるかもしれないからな」と言い、班員に指示を出した。

一度感染したウイルスに対抗する術は無い。これ以上犠牲者を出してはいけない。


 2階にはもう誰もいないようだ。僕らは階段で3階に向かった。

階段は酷いものだった。ところどころに穴があいており、通れると思ったところも足をついた途端に崩れたりした。蜘蛛の巣も邪魔だ。


 「うわあッ!!」

突然晋平の叫び声が聞こえたので振り向いた。

「どうしたの!?」

「が、ガム踏んじゃった………」

「なんだよ……」

何かと思って咄嗟に身構えてしまった。人騒がせもいいところだ。


 「油断するなよ」

修也が眼光鋭く前を見ながら言う。


 階段を上り終えたところで、カサカサと音がして、ゴキブリが床を這っていった。

「うえー、気持ち悪ぅ……」

3階は、ほぼ一面と言っていいほど蜘蛛の巣だらけだった。

巣には虫はおろか動物や人間の死体まで引っかかっており、その異常さが滲み出ている。

「アンデッドの野郎もちゃんと掃除しやがれ」

修也がそう毒づく。


 その瞬間、何かとてつもない気配を感じた僕は、一気に神経を研ぎ澄ませる。

「修也、分かるか」

「ああ」

修也も感じているらしい。この先、何かがいる。

「行こう」

少し進むと、更に蜘蛛の巣が複雑に張られていた。とても進めたもんじゃない。


 突然、嫌な気配が急激に近づき、背後に降り立った。

振り向くと、巨大な蜘蛛がそこにいた。


 体長2mほどあるだろうか。返り血で真っ赤に染まったその蜘蛛は獲物(ぼくら)を見つけた喜びで口を大きく広げた。


 その瞬間、僕らは気づく。この蜘蛛にとって、この駅自体が大きな巣であって、狩場なのだ。

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