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Anomie  作者: 椎葉
第3章 謎のウイルスとアンデッド
17/40

17:それぞれの

 現在如月班は、昨日の遼のこともあり複雑な心境だが、任務を遂行していた。

「晋平君、そっち頼んだよ!」

「ええッ!無理無理!」

そこで武子が晋平に襲い掛かろうとしていたゾンビを斬り裂いた。

多数のゾンビに囲まれた状況だが、如月班は巧みなチームワークで次々と敵をなぎ倒していく。


 一通り片付いたところで、透は洋館へ戻った。

今までは遼がいることで任務の成功率が大幅に上がっていたように思えたが、実は遼一人の実力のおかげというわけでもなかった。3人でも小規模な任務なら充分遂行できる。皆成長しているのかもしれない。


 透は自室で任務報告書を書いていた。

遼が所属したウイルス追跡チームはまだ成果をあげていないらしいが、本格的に動き出した今、ウイルスの流行の阻止は容易いだろう。汚染された街々も回復し、世界がまた以前のように当たり前の生活ができるようになる日も近いはずだ。

 遼のことは……心配だが、そんなところで戦うのも名誉あることだろうし、何より遼の実力はわかっている。遼は遼のやりたいことを一生懸命にやればいい。


 あとは、自分は自分のやりたいことを…。

透は自分自身に問う。自分のやりたいこととはなんだ?

アンデッドを殺すことか?戦うことか?仲間と一緒に荒れ果てた街を駆け抜けることか?世界の復興か?

遼は遼なりの目的があって行動しているようだが、自分がやりたいことをもう一度考えてみるとどうも納得いかないようなものばかりだ。

 もう一度深く考えてみると、妹と母の顔が浮かんだ。

そうだ。世界の復興以前に、僕がやりたいこと。それは単純に、家族を守りたいんだ。

 家族を守る。それが出来て、ようやくそこから始まるんだ。



 一方、遼は遼でウイルス追跡チームの任務に参加していた。

「くそッ!」

現在研究施設へのルートを通っているのだが、ゾンビに行く手を阻まれた。

「ゾンビとの戦いは俺らの仕事じゃねえって……」

しかしそこで遼が躍り出た。そして、ゾンビに斬りこんでいく。

あっという間に全てのゾンビが地に伏せた。

「流石……頼りになるな」

遼は早く任務を達成したい一心だった。


 そこで、何か気配を察した。

「伏せろ!」

隊長が指示したとともに、何かが跳ね、頭の上を通過した。

“ソイツ”は犬のような生物で、隊員の1人に噛みつき、その肉も食い漁った。

「ケルベロスだ!気をつけろ!」

遼の胸が騒いだ。ウイルスの予測不能の生態変化に陥り、3つの頭部を持つ獰猛な狂犬。そんなやつと戦えるなんて滅多にない機会だ。

 ケルベロスは警戒することなく襲い掛かる。

すでに何人かが犠牲になった。

 隊員が発砲するが、俊敏な動きで躱されてしまう。

だが遼の刀は跳びかかるケルベロスの腹部を捉えた。

距離を取りやすいゾンビに対しては銃の方が効果的だが、このような敵は近接武器の方が戦いやすい。


 しかしケルベロスは意に介さず跳びかかる。

遼は刀を突きさして中央の頭部を破壊した。

たまらずケルベロスは呻きながら跳び退く。これには流石に相当なダメージを受けたようだ。

怯んでいるところに隊長のマグナムの弾丸が炸裂し、頭部2つを一気に吹き飛ばした。

ケルベロスはその場に倒れ、やがて動かなくなった。


 「思ったより骨のないヤツでしたね」

遼が言うと、隊長は首を横に振った。

「何人かが犠牲になってしまった。これ以上は進行できない。今日のところはここで退こう」

遼は不満だったが、おとなしく従うことにした。


 拠点に到着した遼は自室に戻る。

以前とは違い、ウイルス追跡チームの専用の部屋で、寮のような部屋だった。

若干前の部屋よりは不便だが仕方ない。遼はとりあえず2段ベッドに横になった。

この狭い場所が自分のスペースだ。遼はため息を吐いた。


 膝の上に資料を広げる。

内容はここ最近で新たに確認されたアンデッドについてだ。

身体が肥大化したゾンビ、4つに頭部が増えたケルベロス、2つの頭部を持つゾンビ、手足が無数にあるゾンビなどだ。写真も一緒にあり、どれもかなり醜悪な見た目と分かる。

遼は対抗策を頭の中で練ることにした。



 透は今、母と妹の部屋にいた。

「それで、班員が1人抜けちゃって…でも大丈夫だよ」

母は縫物をしながら黙って聞いていた。

「怪我も完全に治ったし、もう心配しなくてもいいよ」

母は笑みを浮かべた。

「最近食事はどうしてるんだい?激務であまり良いものを食べれてないだろう?」

「大丈夫」

そうは応えたが、実際、良いものを食べているわけじゃなかった。


 「たまには母さんの手料理でも食べに来なさい」

「うん」

手料理とは言うが、充分な食材が調達できない現状、サバイバルフーズを調味料などとともに工夫して組み合わせたものでしかない。陽菜こそ、ちゃんと栄養はとれているのだろうか。

妹を横目で見るが、お絵描きに夢中になっていた。

「じゃあ、そろそろ行くよ」

「透」

「何?」

母は僕に優しく声をかけ、抱きしめた。

「あまり無理するんじゃないよ」

母はそれ以上何も言わなかった。


 ――母はいつでも温かい、と思った。


 僕は如月班の部屋に入った。

「にっちゃん」

「如月さん」

見れば、武子と晋平が取っ組み合いをしていた。

「また何で喧嘩してるの?」

僕はため息まじりに訊いた。

「いや、こいつが遼のことを」

「まだ遼くんのことを言ってるのか」

武子と晋平はひとまずお互いの胸倉を掴んでいた手を離した。

「遼くんのことは、誰も責めることはできないでしょ」

僕はソファに腰かけて、2人にも対面のソファに座るように促した。


 「とりあえず今回の任務では遼くんがいないながらも無事目標を達成することができた」

武子が頷く。

「次の任務なんだけど……」

「何か問題でもあったんですか?」と武子が訊く。

「いや、大したことじゃないんだけど、次の任務は上野駅での任務なんだ」

「上野“駅”?」

晋平と武子の声が重なった。

「何故駅に限定されているんですか?」


 「この資料を見て」

そう言って渡したのは、上野駅に住み着いているであろうアンデッドたちについてだ。

「なんですかこれ……」

「こんなにいるのかよ!?」

資料に記載されていたアンデッドは、普通のゾンビはおろか、以前如月班を苦しめた硬質の皮膚を持つゾンビ、ケルベロスまでいた。

「こいつらが共存してるとは思えませんね」

武子が呟いた。

「うん。元はもっとたくさんいたらしいけど、みんな共食いして、最終的に残ったのが数体だったらしい」


 晋平は魂の抜けた顔をしている。

「本当ならこの任務、新しい武器として刀に加えて銃も持たせようかと思ったんだけど、まだ慣れてないから扱えないと思って」

武子は頷く。

「だからごめん。この任務は、刀だけで挑んでほしい」

「分かりました」

「それじゃ、明後日だから、準備しといてね」

僕はそれだけ言って、部屋をでた。


 「なんか無理に押し付けちゃったな……」

仕方ないことだが、透は少し気の毒に思った。


 それにしてもこの任務、なにやら悪い予感がする。

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