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Anomie  作者: 椎葉
第3章 謎のウイルスとアンデッド
16/40

16:譲れないもの

 「如月班を…抜ける……?」

透の口から声が漏れた。

武子がすかさず忠告した。

「班員は渡部さんと班長の許可を得なければ班から脱退することはできないぞ」

遼は面倒くさそうに武子に目を向け、それからすぐに透に向き直って言った。

「分かってます。だから今あなたからの許可をいただくためにこうしているのです」


 透は戸惑った。まず理由を知らなければ何とも言えない。

「いったい何の理由で………」

「俺は“ウイルス追跡チーム”に入ります」


 ウイルス追跡チーム。先日の実験施設での騒動によって新たに設立されたチームだ。施設にあったいくつかの資料の中には他の施設の場所が示されていると思われるものがあった。

 そこを叩き、ウイルス製造を止める役割だ。


 JUCGが今行っているのはウイルスを根絶やしにするという政策。

ウイルス対策チームが根本のウイルス製造を止め、地上に出回った感染者を他の班が倒すことにより、アンデッドの数0を目指そうというものだ。


 「許可を願います」

そう言って遼は許可証を透のベッドに置いた。

「サインだけで良いので」

渡部のサインは既にあった。渡部はいったいどのような理由で許可したのだろうか。

優秀な遼を是非チームに引き入れたい、とのことだろうか。


 「分かった」

透はペンを握り、署名の場所に『如月透』とサインした。

「如月さん!本当にいいんですか!?」

透は頷いた。

「遼くんの実力だったらどこに所属してもやっていけるよ」

「にっちゃん、こいつが言うこと聞くわけないって!」

晋平も納得がいかないようだった。

「大丈夫だよ。遼くんが本当にやりたいことなら、真面目にやるだろうし」


 遼は「ありがとうございます」と言って部屋を出ていった。

「にっちゃん、本当に良いの……?」

透は何も答えず、窓から外を見た。さっきよりも幾分か曇っているように見えた。



 遼は会議室へ向かっていた。これから新しく配属になるので、気を引き締める。

ドアを開くと、当然もうメンバーは集まっていた。

「遼、来たか」

遼は渡部に軽く会釈をして透に書いてもらった許可証を渡した。

「座れ」

渡部は透が許可することを知っていたかのようだ。

遼は指定された席についた。パイプ椅子が軋む音がした。


 「それでは遼、挨拶を」

「新しく配属されました永洞遼です。よろしくお願いいたします」

ちらほらと、「若いな」「如月班の?」といった声が聞こえてきた。


 コホンと小さく咳をして、ざわつく会議室を渡部がおさめた。

「では、さっそくだがこの後の方針について語ろうと思う」

遼は渡部の方に向き直った。

「皆も分かっているだろうがこのチームはウイルスの製造を止めることが目的だ。資料に記載されていた施設は5箇所だった。まずはここから一番近いところから叩こうと思う」


 渡部は皆を見回して言った。

「言っておくが、特別に設立されたチームなだけあって、危険も多いだろう。これからの任務には気を引き締めて取り組んでほしい」

言われなくとも、だ。遼は唇を笑みの形に歪ませた。


 「明日までには任務の計画を立てておく。明日また8時にここに集合するように」

「分かりました」

その後も少し話をして会議は終わった。


 遼は部屋に戻ろうとしたところで声をかけられた。

「永洞遼、だったよな?」

振り向くと、顎に髭を蓄えた筋骨隆々な男が立っていた。

「ええ、そうですが」

「話は聞いている。如月班でずいぶん活躍されたようだ」

「いえ」

遼はなるべく話を早めに切り上げたかったが、男はその後もしつこく話を続けた。

「使ってる武器は?やっぱり海外輸入の最新型?」

「いえ」

「え、違うのか?じゃあライフルとかか?」

「あの、すみません。僕、これからトレーニングなので」


 男は一瞬悲しそうな顔を見せたが、すぐに元の表情に戻った。

「じゃ、じゃあ俺も一緒にいいか?」

1人でないと気が紛れる。遼は心の中で舌打ちした。

「本当にすみません。僕忙しいんです」

そう言って、遼は男に背を向け歩き出した。

 まったく、変な男だ。


 遼が部屋に戻ると、さっそく晋平が枕を投げつけてきた。

「てめー、なんで何事もなかったかのように入ってきてんだよ!」

じゃあどうやって入れば良いというのだ。

「やめろ晋平」

武子がその場を諫めた。だが、その声はいつもと違って少し暗い。

「何をしようと遼の勝手だ。それに、遼のする事はJUCGに大きく貢献することだ」

晋平はまだ言い足りない様子だったが、怒りを抑えたようだ。


 「そうだ。如月班にいても俺のやりたいことは果たせない。あの人から学ぶものはもう俺には無い」

しかしその言葉に、今度は武子が反応した。

「遼……お前それは流石に無いだろう」

「何がだ」

「如月さんから今まで教わった恩を感じていないのか?」

遼は溜め息を吐いた。

「お前らの緩い馴れ合いごっこから何か学ぶことがあるのか?」


 その一言で、武子がいきなり殴りかかってきた。遼はそれを片手で掴んだ。

「お前………今の言葉取り消せ」

「た、武子!」

晋平がすかさず止めに入ったが、武子は動かない。

「俺は如月さんを侮辱した奴は許さない」

「熱くなってどうした?如月班にとっても俺はもともと邪魔だろう」

武子は歯軋りをした。

「如月さんは今までたくさんのことを教えてくれた…!言うことを聞かないお前のこともちゃんと悩んで、考えてた!!」

「だから何か?如月班に戻れとでも?」

「如月さんに謝れって言ってるんだ!」

武子は遼に掴まれた右手を引き、蹴りをいれようとした。だがそれも足で容易く防がれてしまう。

「やるのか?武子」


 武子は強引に遼の手を振りほどき、後ろ蹴りを繰り出した。

遼はそれを躱し、隙ができたところをみぞおちを狙って殴ろうとした。

だがすんでのところで止められ、その拳を握られた。

なんて握力だ。骨が砕け散りそうだ。

 遼は空いている右手で武子の顔面を狙った。

武子は左足で蹴りを繰り出した。


 遼の拳と武子の蹴りがそれぞれ同時に直撃し、2人ともよろける。


 「やめるんだ」

いつの間にか開いていたドア。そこには晋平の肩を借りた透が立っていた。

そういえばさっきから晋平がいなくなっていたことに気づく。

遼は舌打ちをした。

「2人とも頭を冷やして。遼くんも疲れてるんでしょ?もう遅い時間なんだから騒がないでくれよ」

武子は素直に「悪い、遼……」と言ったが、本心ではないだろう。

遼はその場にいる全員を睨みつけて部屋を出て行った。


 「如月さん、大丈夫なんですか……?」

透は「僕は大丈夫」と言った。

「晋平くん、武子くんと遼くんのこと、頼んだよ」

晋平は頷いた。


 透は部屋を出て、大きな溜め息を吐いた。

「遼くん、大丈夫だよな……」


 ――なんだか僕らの行く末に、不吉なものを感じた気がした。

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