13:処刑人
――……あれから、どれくらいが経過しただろうか。
薄暗い地下道は思ったより広く、しかも複雑で迷路のようになっているため進みづらい。歩いても歩いても同じような風景が広がるだけなので進んでいるのか戻っているのか、それとも同じところをグルグルと回っているのか分からない。
そのうえ、生憎腕時計も戦闘で壊れたので時間も分からない。
修也たちはまだ来ないのだろうか。ひょっとしたら、如月班の他の班員はもう既に修也たちが見つけて一緒にいるかもしれない。ただでさえこんな面倒くさい場所なのに、離れ離れになるとは運が悪かった。
時折部屋を見つけるが、中には誰もいない。何もない。
僕はだんだん、自分だけ異空間に居るのではないかと錯覚しそうになってきた。
「……クソッ!」
突発的な苛立ちが僕を襲い、思わず僕は壁を殴りつけていた。
落ち着け、と自分に言い聞かせて、僕はまた歩き始める。
そこで、僕はある可能性に気がついた。今まで相当な時間歩き続けているとは思うが、目的地はどこだ?
この施設の実態が判明しない限りはっきりとはしないが、僕の中では研究員を見つけることと、この場所の秘密が隠された“何か”といったところだ。
――もしそれが、ここに無かったとしたら?
もしかするとこの地下道は侵入者に備えた場所で、さっきのように侵入したものをゾンビに襲わせるためのものだとしたら?言うなれば、ただの“処理場”――。
僕らはここに降りた時点で、既に手遅れなのだとしたら…。
悪い予感が外れてほしいと願うが、ちょうどその時、鎖のような音とともに、唸り声が聞こえた。
またゾンビだ。
現れたゾンビはさっきより数は少ないが、一人で相手するには疲れる数だ。
だが僕は迷うことなくゾンビに斬りかかった。
今は班員を気にかけながら戦う必要も無いので、全力が出せる。
ゾンビの攻撃をよけながら反撃し、最後は横斬りで3体ほど一気に斬り裂いた。
僕は額から流れる汗を拭って、刀をしまうことなく歩き始めた。
まだ何かいる。気配で分かる。
この奥に、おぞましい何かが、いる。
「クソッ、地下に来たはいいが、これじゃ進めねえ」
そのころ、修也はもう地下に到着していた。さっきからトランシーバーで道を訊こうとしているのだが、透はなかなか応答しない。
「早く出ろよ、透……」
修也はだんだん不安になってきた。
「班長、迷っててもしょうがないですよ。とりあえず進みましょう」
副班長が言った。修也はとりあえず適当に道を選んで進むことにした。
数分が経過したが、一向に透たちは見つからない。
「おいおい、マジでどこだよ……」
「まあまあ班長、焦らずに」
軌琉も言う。
「そうそう、この世に繋がっていない道なんて無いんですよ」
「分かってるよ……」
修也は何度もトランシーバーで連絡をいれる。が、やはり透は応答しなかった。
仕方なく歩いていると、前方にゾンビの死体が積み重なっているのが見えた。相当な数だ。
「……!」
その中に、トランシーバーが落ちていた。透のものだ。どうやら戦っているときに落としたらしい。
修也はいっそう不安になってきた。
「ん?」
だがその時、前方から誰かが歩いてくるのが見えた。咄嗟に身構えたが、その必要は無かったようだ。
現れたのは如月班の遼だった。
「お、遼か!」
今河班は急いで駆け寄る。遼は少し疲労しているようだった。
「大丈夫か」
「ええ」
遼は素っ気無く返した。
「他の班員は?」
軌琉が訊くと、
「実はゾンビに襲われて、その時に離れ離れに……」
と言う。
「何!?ってことはマジでヤバいんじゃないのか!?」
修也は遼に「まだ歩けるか?」と訊いた。遼は頷いた。
「よし、急ぐぞ!」
僕は1人、湿った地下道を歩いていた。
水滴が滴り落ち、小さな水溜りができる。僕は神経を尖らせながら、少しずつ前に進んでいった。
もう僕等が潜入しているということはバレているだろう。先程のゾンビがその証拠だ。
いったいこの実験施設では、何が行われているというのだ?
ジャラジャラと、鎖の音が響く。顔をあげた僕の目に飛び込んできたのは、穴の空いたボロボロの麻袋を被り、巨大な大剣を持った異形の男だった。
僕が息を吸う音とともに、男はその大剣を持ち上げた。
男が振り下ろした瞬間、明らかに僕の刀では防げないと直感し、紙一重で躱す。
男を見る。
2mほどある巨大な体躯に、それに釣り合った大剣。1撃でも受けたら一瞬で身体が真っ二つになるだろう。
そして、麻袋に空いた2つの穴の奥には、おそらく目がある。
身体は鎖で所々が縛られており、露出した肌にはいくつもの縫合痕があった。
それはもはやゾンビではない。それをも超越した怪物だ。
怪物は、唸り声をあげ、微かに口をモゴモゴと動かしているように見える。だがそれは「ンンンモロン」などと聞こえ、言葉になっていない。
怪物は大剣を構えなおして振り回す。まともに当たれば即死の恐怖。隙を見つけるまで逃げ回ることしかできない。
この訳の分からない怪物は、周りの壁を破壊しながら迫ってくる。破壊された壁の向こうには、なにやら檻のようなものがいくつもあった。
僕はそれに気を取られ、腕を大剣が掠める。
「危ない……!」
数cmずれていたら腕を肩から斬り落とされていたかもしれない。
僕は怪物に向き直った。
怪物は立ち止まり、左手に巻かれた鎖をちぎっていった。
「………?」
鎖から解き放たれたその掌には、口のようなものがあった。怪物はそれを高く掲げた。
すると次の瞬間、その手の口は叫ぶようにして声を発した。
「………!?」
僕は思わず目を疑った。
その叫びに呼応するかのように、壊れた壁の向こうからゾンビが這いずり出てきたのだ。
瞬く間に20体ほどのゾンビが現れ、僕は戦慄した。
どうやら目の前にいるこの怪物は、ゾンビを呼ぶことができるらしい。
僕は襲ってくるゾンビを斬りながら、怪物の大剣を躱していた。
まさかこんな奴と対峙することになるなんて思わなかった。それならばもっと武器を持ってきたのだが、刀一本は流石にキツい。
やっとの思いで怪物の胸に刀を突き刺したが、怪物は怯まずに大剣を振り下ろす。
「な……!?」
僕は慌てて刀を引き抜こうとしたが、刺さった胸の筋肉が異常発達しているため引き抜けない。
大剣が目前に迫った瞬間、僕は半ば死を覚悟した。
大きな衝撃音とともに、爆風が広がり、大剣は床に亀裂をいれた。
「危ない……」
僕は間一髪で躱したが、刀が半分折れてしまった。もう半分は奴の身体に刺さったままだ。
さっきの攻撃で周りのゾンビを巻き沿いをくらったようだ。
ゾンビは残り2体。
怪物は動きを止めずに襲ってくる。
僕は折れた刀でゾンビを倒しつつ、必死の思いで躱していた。
元から不利だったのが、刀が折れたことで絶望的になった。
班員は無事だろうか。もしかすると、僕以外にもゾンビ等に襲われている人がいるのではないだろうか。
修也はもう近くに来ているだろうか。
一瞬。仲間の事を考えた一瞬。その一瞬の油断が、僕の命運を分けた。
なんと怪物が、蹴りを入れてきたのだ。
意識の外からの攻撃で僕は躱すこともできずに吹き飛ばされる。肋骨からミシミシと軋むような嫌な音がする。
怪物は近づき、大剣を振り上げた。
立ち上がることができない。絶えず激痛が走る。呼吸さえ、もはや。
怪物が大剣を振り下ろす。僕は力を振り絞り折れた刀でそれを受ける。
大剣は刀を破壊し、僕の胸を斬り裂いた。




