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Anomie  作者: 椎葉
第2章 処刑人
12/40

12:潜入任務

 僕は1人、湿った地下道を歩いていた。

水滴が滴り落ち、小さな水溜りができる。僕は神経を尖らせながら、少しずつ前に進んでいった。

もう僕等が潜入しているということはバレているだろう。先程のゾンビがその証拠だ。

いったいこの実験施設では、何が行われているというのだ?


 ジャラジャラと、鎖の音が響く。顔をあげた僕の目に飛び込んできたのは、穴の空いたボロボロの麻袋を被り、巨大な大剣を持った異形の男だった。

 僕が息を吸う音とともに、男はその大剣を持ち上げた。


 ――どうしてこんなことになっているのか。始まりはつい3時間程前。


 僕等如月班は今、銀座の実験施設に潜入するという中規模任務を行っていた。

潜入に如月班が抜擢された理由は、『僕等の班のチームワークがどの班よりも良いから』らしい。あまり実感が湧かないが。


 例の施設は確かに比較的目立たない場所にあり、実験施設と聞いて想像するような物々しい雰囲気は感じられなかった。寧ろ、本当に唯のテナントビルのようだった。しかし内海が言うにはカモフラージュの可能性も大いにある。過去どうだったかはわからないが、今となっては建物一つ、丸々実験施設として運用されているだろう。


 僕等は施設を閉鎖されないように、隠密に行動した。気づかれればそうなる可能性もある。

あまり潜入には慣れていないが、手練れの班から事前に教えてもらった知識がある。


 この施設には高層階を除いて窓がない。だから、本来なら人が入るような場所は正面の扉しかない。

僕等は施設の周りを探って、中に入れるような場所がないか調べた。勿論、気づかれないようにだ。

すると、あった。施設裏の上のあたり、高いところに大きめの排気口が。

 僕等は他の班の班員にも協力してもらい、排気口を取り外してそこから潜入することに成功した。


 排気口の中は暗くて狭い。匍匐前進で進むが、なかなか前進しない。


 「おい、晋平早くしろ」

声量を少なくした遼の声が聞こえてきた。

「んなこといわれても、進めねえんだよ」

「だから痩せろって言ったろ」

確かに、晋平の太い身体では思ったように前にいかないようだ。

僕は溜息をついた。地道に進んでいくしかないのだ。


 どれくらいの時間が経過しただろうか。腕時計を見ると、任務を開始してからまだ1時間しか経っていないが、もう半日を終えたみたいな感覚だ。


 前方に光が見えた。やっとどこかの部屋に続いたようだ。

物音をたてないようにして、僕等は排気口の隙間から部屋の中を覗いた。

どうやら中には幸い誰もいないみたいだ。僕等はなるべく音を立てないようにして排気口を外して部屋に入った。


 静かに部屋を散策するが、大量のビーカーや試験管だらけで何もでてこない。

これでここが普通の実験施設だったら、僕等の潜入任務は無駄な労力だったということになる。何もない方が良いとは分かっているが…。

 ただ、ここは何か匂う。


 僕等は部屋をでることにした。人目を避けて廊下を歩く。

警戒とは裏腹に、一人も研究員がいない。もしかすると、留守かもしれない。

だが警戒を解くことはしなかった。


 一つ一つ部屋を調べていくが、見つけたのはやはり実験器具だけ。ガスバーナーやフラスコ。


 「如月さん」

武子に呼ばれ振り返ると、武子は薬品棚を指差していた。

「これはなんでしょうか」

見ると、なにやら赤いテープを巻かれた瓶と、その横には折り畳まれた紙が置かれていた。

「なんだこれ」

僕は瓶を手に取って見てみたが、テープで中の様子が見えない。紙を開いてみると、走り書きのような字で“AD 結晶化保存”と書かれてあった。

「なんかの薬品でしょ」

僕は特に気に留めずに紙を再び折り畳んだ。


 一通り見て回ったが、やはり誰もいなかった。

気になるところとしては、大量の薬品が置かれた部屋と、文献、書物が置かれた部屋の壁にある何かの装置、鍵のかかった扉だけだった。

「なにもありませんね」

 僕は暫く考えた。

「もう少し探索してみよう」


 しかし、やはり収穫は無かった。内海の勘は外れたようだ。

「やっぱり何もないね。引き上げよう」

僕がそう言った瞬間、晋平が「ちょっと待て」と言った。

晋平は本と本の間に挟まったメモ用紙を取った。

「なにそれ?」

「548って書いてあるけど」

「548?何かの暗号か?」

遼がそう呟いた瞬間、僕は閃いた。


 「分かった!」

僕は壁にある装置に548と入力した。すると、装置のLEDライトが青く光った。

が、特に何も起こらず、僕の期待は外れたようだ。

「大丈夫なのにっちゃん、勝手にやっちゃって」

 その時僕は、もう一つ閃いた。

「今度こそ分かった!」

僕は急ぎ足で部屋を出て、廊下を歩いた。


 「ここだ」

僕は鍵がかかっていた扉の前にたった。鍵穴のついていないドアノブは、すんなりと回った。

「開いた……」

さっきの装置は、ここのロックを操作していたのだ。あまりに離れていたので分からなかった。

扉の向こう側は、下への階段だった。どうやら地下があるらしい。


 「地下か……ますます謎めいてきたね」

僕等は階段を下った。

 地下はかなり広く、狭い道から広い道、行き止まり、鍵のかかった部屋など施設内にも関わらず迷いそうだった。

 そしてところどころに、謎の管が張り巡らされていて、そこからは水滴が滴っていた。

「これ違法建築じゃない?」

「うーん……」


 静かな地下道に、足音が響く。僕等はできるだけ音をたてないように歩いた。

黙って歩いていると、だんだんと頭がボーっとしてくる。はっとなり、ちゃんと班員がついてきているか確認する。どうやら皆ちゃんとついてきているようだ。


 なんだか、妙な音が聞こえてくる。

この地下道はどこも一本道にならないような構造で、しかも反響するので、どこから聞こえてきているのかは分からない。


 「なんだ…?」

立ち止まっていると、八方向から聞こえてきていることが分かった。

なんとも形容しがたいそれは、だんだんと近づいてきているような気がする。

「にっちゃん……」

晋平が青ざめた顔で名前を呼んだ。僕は人差し指を口元にあて、「静かに」と言った。


 晋平には恐怖心が芽生えているらしいが、武子は冷静に周囲を見回し、遼は淡々としていた。

だが僕は額に冷たい汗をかいていた。

 なにか嫌な予感がする。今まで潜り抜けてきた死線とはまた違うなにかが、ここにある気がする。


 音が近づくにつれ、それは唸り声のようなものだと分かった。それだけではなく、ズルズルと何かを引きずるような音も聞こえる。


 視界の先に、何かが見えた。

大量の、ゾンビだった。しかも、周囲を見渡せば既に取り囲まれていたことが分かった。

「ひっ……」

晋平はもうパニック状態になっている。

どうやら内海の勘は外れではなかったらしい。ここは明らかに異様すぎる。


 僕は刀を抜き、ゾンビに斬りこんでいった。晋平を除く他の班員も、刀を抜いて次々とゾンビを倒していった。


 だが、数が思ったよりも多く、それに囲まれているのでいつもより戦いにくい。場所が狭いということもある。武子は晋平を守りながら戦っているので、隙も多い。

 僕は左手に小型トランシーバーを構えた。

「修也ッ!今ゾンビに囲まれている!助けてくれ!!」

『ハァッ!?ゾンビ!?』

「地下だ、早く来てくれ!」

僕はそれだけ言って通話を切った。しかしこの状況、思ったよりもヤバい。


 溢れかえるゾンビに、とうとう僕は班員を見失ってしまった。

「武子くん!晋平くん、遼くん!」

戦いながら必死に名前を呼ぶが、返事は返ってこなかった。

「ああああッッ!」

僕はゾンビを蹴散らして探した。


 しかし、見つけることはできなかった。


 一通りほとんどのゾンビを倒したあと、僕は途方に暮れた。

道は四方八方に伸びている。班員がそれぞれどの道にいったのかも分からない。皆一緒に居るといいのだが…。


 ひとまず僕は適当に進んでみることにした。

とにかくこの状況、任務よりもまず早く班員を守らなければ。

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