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神の魔術師~Fall MOON and Golden FLAME~  作者: 壱ノ瀬和実
先導者

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先遣 6

「わたしがここに来たのも、そして『SSパッケージ』が犯人と決めつけたのも、父からの手紙があったからです。むしろそれ以上の情報は皆無と言っていいでしょう。全ては、父を信頼してのことでした。でも、何故わたしたちが親子であることを大嶋愛生さんが知っていたかは、分かりません。分所の他の魔術師も、このことは知りませんから」


 出海の語る言葉を脳内で噛み砕きながら、不知火の思考は答えと疑問とをより分けていく。


 次に浮かんだ不知火の疑問は、鉄堂光泉と出海結は親子であるとした際に、自然と沸き上がるものだった。


「じゃあ何故、君は鉄堂光泉の工房に真っ先に向かわなかったんだ。父である鉄堂光泉の工房に敵が向かうと決め打ちして行動できるのなら、君は僕らと共に工房へ一直線に向かうべきだっただろう」


 出海はゆっくりと頭を横に振った。


「それは、出来ません」


「なんで?」


 和川がさらに首を傾ぐ。


「高名でありながら、どうして父の工房が誰にも知られていないか、和川さんはご存じですか?」


 出海の問いに、


「鉄堂光泉なんて名前も今日初めて聞いたし」


 当然知っているはずもなく。


「誇るように話すな。恥ずべきことだ」不知火は嘆息した。


 そんなやりとりに、出海は表情を少し緩めて言葉を継ぐ。


「目にすることも出来ず、簡単には入ることも出来ず、つまりは特殊な結界で守られているからです。父の鍛冶としての技術は特殊なものですから、それを守る為にも、基本的には工房に立ち入ることも、場所を知ることも出来ないのです」


「その結界を解く術は?」


「『SSパッケージ』の行動こそが、それなのです。大嶋さんが言っていましたよね。『倉田さんが鍵』と」


 首を縦に振ったのは不知火だけだった。


「チェックポイントが市内各地に設定されているんです。設定された順番通りに訪れ、そこで魔力を使うことで、スタンプラリーのように条件が埋められて、その魔力を行使した人物を、結界を解く鍵にしていくのです。彼らはそれを、おそらくは父から聞き、順番通りに辿っていた。わたしはその順序を辿って、彼らに追いつくことが出来たのです。実の子供とはいえ、鍵になる以外に工房に入ることは出来ませんし、工房の場所そのものを認識することも出来ませんから」


「なるほどね。だから君は、倉田が逃亡したとき、倉田の持つギグケースの中身はダミーだと気付けたのか。魔力を行使しなければ工房へ入るための鍵にはなれないが、盗まれた二振りの刀は魔力に反応するから、と」


「そういうことです」


 番場が大欠伸をかいた。基本的に駅で待機していただけの彼に、もはやこれらを理解出来るだけの材料はない。加えて、彼は寝不足だ。


 涼風もそうだった。彼女自身の特殊な封印術を使ったことで、へとへとに疲れきったそれはもはや座っていることも苦痛だった。それでも、とても休めるような空気ではなかったが。


 しかしそれは和川も同じだ。久しぶりに傷ついた自身の躰を、和川は手でさすりながら話しを聞いていた。が。ふと気付く。


「ちょっと待て。だったら出海も鍵になってるんだろ? だったら今からでも攻めるべきじゃねえのか?」


「それも、無理です。わたしはもう、鍵ではない」


「なんでだ」


「チェックポイントは順番通りに辿っていかなければならないんです。最後のチェックポイントは、あの空き地でした。そこでわたしは、魔術を使うことで魔力を行使してしまった。一つ前のチェックポイントである中学校の敷地内では魔力を使っていませんから、一つ飛ばしてしまったことになるんです。そこでスタンプラリーはリセット。また一から辿らなければならない。ですが、もう『SSパッケージ』は工房に入ってしまったでしょう。そうなると、彼らが出てくるまでは、そのチェックポイントは機能しません。出てくるのを待つ以外に、わたしたちに出来ることはないのです」



 和川は天井を見つめて吐き捨てる。


「おいおい、まじかよ」


「わたしのミスです。不用意でした。魔力を行使するとは、小さくてもいいから何かしらの魔術を発動すると言うこと。動作が一つ足りなかった……」


 肩を落とす出海結を、中部支部の面々が責め立てることをするはずはない。無知であったなら別だっただろうが、彼女を知ってしまった今では何も言えない。


 あの空き地で魔力を行使することは仕方のないことだ。激昂するに足ることが、目の前に現れたのだから。


 だが、「気にするな」と言えるほど器の大きい人間もそうそういないことも事実だ。彼女からもたらされた情報が、もしもこの町にやってくる前に、具体的には大魔術廃絶部でのやりとりの中で出てさえいれば幾分か動きやすくなっていただろう。なんなら、敵の策謀を阻むことも出来たかも知れない。責任がないことはないのだ。


 ――それでも。


 誰もがそう考える状況でも、さも当たり前のようにそれを言ってしまえる人間がいるから、彼らはリオウ=チェルノボグの一件も解決に導くことが出来るのだろう。


「落ち込むなよ出海。こうなったからには、解決に向かって動くだけだろ?」


 和川奈月は、そういう男だった。


「まあ確かに、理解出来ないながらに教えて欲しいことばかりだったけど、過ぎたことをぐちぐち言ってどうにかなるなら、もっとこの世の中単純で分かりやすくていいよな。でもそうじゃないんだ、世界は。前向かなきゃ、何も変わらない」


 天井を見たまま、視線までもを出海に向けることはしないが、和川が天井の明かりを見つめるその両の目の力強さは、単なる励ましを超えた覚悟の表れのようだった。


「和川の言う通りだ。このまま手をこまねいているんじゃあ、何も変わりはしない。涼風と番場さんは寝てもらってもいいですから、僕らはもう少し情報の共有と、敵のこれからの動きを推測することに専念しよう」


 不知火が和川の態度や言動を手放しで褒める時は、大抵がこういう時だ。つまり、前進に全力を賭す和川奈月の姿が在り在りと見えた時、不知火は彼を賛美する。


 不知火という人間が惚れ込んだ和川の魅力は、言うならばその一点のみであり、その一点は、とてつもない輝きを持った、希望とも言うべき光だった。


 無論、それは不知火だけを照らすものではない。


 出海結は、小さな雫を瞳から零す。それは次第に大きくなっていき、頬を伝い、顎を流れ、ぽたぽたと、出海の膝元を濡らしていった。


 喉が詰まる。声が出ない。そんな様子で、それでも絞り出すように出海は、その感情を口にしないということだけは避けたいといった風に、何度も言葉を繰り返した。


「ありがとう、ございます。ありがとうございます」


 特段の返事が面々から出てくることはない。だが、それでも空気を読むということを知らない和川は、やはりここでも己の道を行く。


「おう。任せとけよ。絶対、解決してやるさ」


次回もよろしくお願いします!

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