Parent-child bonds?
刀鍛冶、そして魔道師としてその名を轟かせる鉄堂光泉だが、それは言わば職人としての名であり、彼自身の本名ではない。
それを知る者は多くいるのだろう。だが本名を問われて答えられる者は多くない。それは彼の秘匿であり、彼の家族にとってみてもまた、隠しておかなければならない秘密であったからだ。
結、夕夏、雪路らが父である出海鉄護からの文を受け取ったのは、日本魔術教会本部での防衛会議から一週間ほど前、つまり、刀が盗まれる一週間前のことだった。
鉄護は短くこう記していた。
――SSパッケージに気をつけよ。
それがどういうことなのか、言葉の足りない父の文から読み取ることは、子である結たちであっても不可能に近かった。
刀の盗難があった防衛会議初日に、出海鉄護からの文を思い出したのは、他でもない兄妹たちだ。
兄の雪路は、整った顔立ちに多少の焦りを臭わせて言った。
「父さんはこのことを知っていたのかもしれない。だから、言葉少なながらも、そのことを俺たちに伝えてくれた。犯人は『SSパッケージ』、とりわけ、それを指導している作間翔か。まあ、もしかすると、それをけしかけたのは父さんかもしれないけど」
「昔から言ってたもんね。『風裂』も『波断』も、打ち直してやりたい、って」
「だから知っていた、と言うことかも知れないな。ともかく、『SSパッケージ』がこの辺りを脱出することは現状では困難だろう。『切り拓きし者』にも協力を仰いで、彼らが幹線道路を監視してくれている。加えてこの豪雪で、鉄道各線は止まったまま。となれば、まだ付近に留まっている可能性も高い。まずは辺りを捜索する。それで駄目なら、父さんのところに向かっている可能性を考えて行動する。さすがに俺がここを離れるわけにはいかないから、もしかしたら結一人で行かなきゃならないかもしれないが」
「うん、分かってる。夕夏ちゃんには、休んでもらいたいもんね」
防衛会議に参加、というと正しくはないが、出海夕夏も東京に出向き、他数名の魔術師もいない中で、今事態に動ける魔術師は雪路と結を含めても数人。視界がないと言っていい猛吹雪の北陸を、夜を徹して捜索する所属魔術師の面々。
中部支部の松来から何やら焦った声で連絡が入ったが、それに取り合っていられる状況に北陸分所はない。
分所の狭いオフィスで、兄妹の声が響いていた。
「であれば、近辺捜索のリミットは防衛会議終了の翌日にしよう。だが鉄道各線が動き出したらそれを待たずに捜索範囲を広げる。夕夏が帰って来たら二人で、そうでないなら、結一人で」
結は不安げに頷く。
「本当に父さんの所に『SSパッケージ』が向かっているなら、工房に入るための手順も知っている可能性がある。そしてそれを完遂し、工房に彼らが入ったときには、きっと父さんは知らせてくれるだろう。父さんはあくまでも刀を打ち直したい人間だ。どういう目的で刀が盗み出されたかは知らないが、打ち直した挙げ句にどこかに売り払われるようなことになるならそれは阻止してくれる。まあ、そういう人だろう」
雪路は粉の入ったマグカップにポットからお湯を注ぎ、銀のスプーンでかき混ぜ、インスタントコーヒーを啜る。温かさを含んだ口からは、白い息が漏れた。
「そういう人だと、俺は信じたい」
雪路の一言に、結は壁に立てかけられた二振りの刀を見つめた。
「そうだね。わたしも、そうだよ」
結は長い髪を暖房の風に揺らしながら、微笑んだ。
本来ならば、そこに並ぶ刀は三振りだ。雪路と夕夏と結。三人の兄妹の証であり、それは鉄堂光泉との、親子の証。
「全ての鍵は、父さんと言うことになるのかも知れないな」
雪路の声に込められた希望と失望の両方を受け取った結は、その言葉にもまた、静かに頷いたのだった。
次回もよろしくお願いします!




