待機と迷子
いてもたってもいられず、というよりは退屈に飽き、番場最人は疲れきった躰を動かしていた。何故待機させられていたのかは問いたいところだが、ここまで休んでいられたのは決して無意味ではなかったとも思う。となれば、もはや疲れを言い訳に何もしないわけにはいかないだろう。仮にも彼は教師だ。そして、今回の責任者でもあるだろう。
番場最人は、失われつつある若さの残り香をさせながら、騒動を響かせる魔力の根源に向かっていた。
魔術師以外には感知できないこれも、魔術師には分かるのだ。
「あいつら、ちょっと騒がせすぎだろ!」
***
一目見て分かるほどの魔力を蓄えた和装の男性を、涼風和奏は時に見失いながらもなんとか追っていた。
白いカッターシャツに水色のネクタイ。黒色のように濃い紺色のブレザーの胸元には、緑色の校章。赤と緑のタータンチェックのスカート。派手ともとれるこの制服が、涼風は実を言えば好きだった。茶色みがかった髪色も、制服に合わせて染めてみたくらいだ。
だから、真冬の空の下でも制服は欠かさず着ている。おしゃれとは我慢であるように、制服姿を謳歌するのもまた我慢を要するのだ。一応、茶色のコートも着てはいるけれど。
笹見みづきも確か、この制服が着たいから受験する、と言っていたはずだ。きっと似合うだろうと、涼風は思っていた。
つまり、涼風の方向音痴はこの散漫な注意力と集中力のなさに起因する。これはあくまでも不知火の見解だが。
男性を見失って何十分経ったか。魔力の衝突を感知し、南に向かっていた少女は初めて足を北に向けた。
走り出す。魔力的補助を得た躰で、真冬の夜の寒さに耐えながら走る。
気付けば、すぐ近くには番場最人がいた。
番場もまた、この衝突にいてもたってもいられなくなったと言う。
しかし何より、涼風はその光景に驚愕を隠せなかった。
「あのおじいさんだ」
涼風が不意に口にした言葉に、番場は返す。
「お前が見掛けた奴か」
「はい」
「お手柄じゃねえか!」
「えへへ」
「見失ってなければの話だがな!」
涼風は失笑し、己の方向音痴がこうして回避可能だった衝突を巻き起こしていることの反省をする。だが、しても仕方がない。こんなことでへこむ涼風ではないのだ。
「あのおじいさん、敵ですよね」
沈んだ涼風の声は、本人があえて出したものだった。
「じゃなけりゃあ、あんなに殺気たたせてないだろ」
「ですよね」
「いいぜ。本気出しても」
その一言に、目を見開いて涼風は問う。
「いいんですか?」――と。
番場は小さく笑う。
「ああ。今日一番元気なのは間違いなくお前だし」
「いや、でも」と涼風が詰まった。
その様子を見た番場は、舌打ちをした。
「ああ、そうだな。やめとこう。考えが甘かったよ、すまん。お前が本気なんか出そうもんなら、並みの魔術師じゃあ、そんであんなじいさんなんか一瞬で死んじまう。無論、俺たちも巻き添えを食らう」
何せ、と番場は継いだ。
「お前の力、俺たちにはちっとばかし恐ろしすぎる」
次回もよろしくお願いします!




