陽はまた落ちる 3
「あれは、今朝、わたしが防衛会議のあった東京から、金沢に辿り着いた時のことです。
駅に着いた途端、わたしの通信札が反応を示しました。リオウ=チェルノボグによるテロ事件については聞いていましたから、その関連かもと疑いながら通信を受けると、それが全くの見当違い。分所からの、緊急連絡でした。
その内容こそがまさしく、今回中部支部の方々に協力を依頼する『事件』についてです。どうやら防衛会議が始まる頃には事件が起きていたようなんですが、リオウの件で、中部支部は外部との連絡を断たれていたんですよね? 北陸分所は中部支部の一部なので、その影響を受けていたようで、困ったことに、本部にも連絡が取れず苦心していたとか。では……その事件についてお話します。
各国の魔術協会には、様々な義務がありますよね。その一つに、自国に存在する魔術師の組織、すなわち『魔術結社』が、その国にとって、もしくは世界にとって信頼に足るかどうかを判断し、安全かつ有益な組織ならば、協会が公認を与える、というものがあります。これは、魔術師の皆さんならご存知だとは思いますが」
言わずもがな、和川は首を傾げた。
「北陸分所の管轄内にも、公認を与えた結社が、二つあります。
一つが、六名の魔術師で構成される、魔術結社『切り拓きし者 』。本元はアメリカにあり、世界各地に支部を持っている大きな結社です。日本支部は北海道にあり、北陸にあるのは、さらにその分所ということになります」
不知火は脚を組みながら、
「『切り拓きし者』……他国に支部を置き、さらに分所を作るが、分所自体は数年おきに場所を移すとかいう、あの」
「ええ。数年前から北陸分所の管轄内に分所があるんです。
そして、もう一つの結社が『先導者』。八名の魔術師で構成されている結社で、二つの結社が合併し生まれた、新しい組織です。
二つの結社、と言うのは、『先遣』という名の歴史ある結社と、『SSパッケージ』という、学生を中心とした結社、なのですが……今回の事件はこの、『先導者』から端を発しました。
先程言った通り、件の結社は二つの組織が合併したものです。『先遣』は古くからの結社ですが、近年は所属魔術師が減り、とうとう高齢の魔術師二人だけになってしまいました。そこに目をつけたのが、若手魔術師のみで構成された『SSパッケージ』です。
彼らも六人だけの少数結社でした。彼らは協会の公認を欲しがっていましたが、若者六人の組織には信用がありませんでした。何せ、ここ二、三年で出来た結社ですからね。北陸分所としては、易々と公認は与えられません。そこで彼らは、歴史ある『先遣』に目をつけたのです。
『先遣』からすれば、名が変わりはしても組織の存続は図れますし、『SSパッケージ』は歴史に裏打ちされた信頼が得られる。互いに利があったのです。
二つの組織は、様々課題はありながらも合併し、魔術結社『先導者』が誕生しました。そのトップには『先遣』の頭、千林高城が就任したことから、北陸分所はその名前に影響される形で、『先導者』を日本魔術協会の公認結社にしました。
……長くなって申し訳ありません。そして、時間は防衛会議初日に辿り着きます。
中部支部北陸分所にはある種の自治権があり、中部支部でありながら、独立した権力を持っているのですが、それは、北陸分所には各支部に匹敵するほどの資料や術具などが貯蔵、保管されていることを意味し、常に厳重な防衛魔術を建物全体に施しているのです。しかし、防衛会議初日のお昼頃。分所に残っていたわたしの兄が異変に気付き、術具倉庫を見てみると、つい先日まであった筈の、とある二つの術具が消えていたらしいのです」
「術具が?」
和川は出海の話に着いて行けず、辛うじて反応出来る単語をオウム返し。こう見えて、付いて行こうと必死なのだ。
「その術具の名は、『風裂』と、『波断』。かつて、二刀流の剣技で活躍した魔術師が使用したとされる二振りの刀。二つで一つの術具。だから……、犯人は揃って持って行ったのです」
「……盗難、ということだね」不知火が問う。
「あくまでも兄の考えですが、その考えは正しいと思います。兄によると、そこにあるはずのない犯人の痕跡があるんだ、と」
「痕跡というと、魔力の、ってことになるんだが」
「そういうことです。指紋ほどではないにせよ、魔力の性質にも個人差はありますから、痕跡が協会所属の魔術師かそうでない人間の物かは判断がつきます。今回見つかった痕跡は、魔術師、作間翔のもの。元『SSパッケージ』のリーダーで、現『先導者』のメンバーです」
「さっき言ってた奴らのところか」と和川が声を上げると、
「『先導者』から端を発したと言っていたんだから、これくらいの予想はつけなよ」
不知火は和川に厳しい。和川はむっとする。
出海夕夏は多少たじろぎながら、
「そ、そのことから、わたしたちはこう判断しました。これは、『先導者』ではなく、合併元の『SSパッケージ』による犯行だ、と――」
続ける出海の言葉を、不知火が手で制止した。
「よく分からないんだが、刀が盗まれ、その犯人が作間翔なる魔術師である可能性が高いことは分かる。が、何故『先導者』ではなく『SSパッケージ』だけを疑うんだい。作間も、現に今は『先導者』の一員なんだろう?」
不知火の問いは当然のものだった。計算式を省いて答えだけを教えられても理解できない。
「説明って難しいですね……」
出海は、頭を抱えたいと言っているような表情だった。
「色々あったんですよ。色々。例えば……えっと、さっきも言ったように、『SSパッケージ』は明らかに『先遣』の信頼が欲しかったんです。『SSパッケージ』は何度も何度も公認結社になる為の申請を出していましたが、それをこちらが却下していたので……。
合併の話が出た時、真っ先に話題に上ったのはそこなんです。
『先遣』の名を利用してまで信頼を勝ち得たい『SSパッケージ』の目論見はなんなんだ、と。今になってみれば、今回の事件こそまさしくその目論見通りなんじゃないかと思う訳です。信頼を得たおかげで分所内部への出入りが以前と比べて容易になり、結果として術具盗難に成功した、と考えると、しっくりくる。
つまり、『先遣』と『SSパッケージ』の合併は、最初からこの強奪を目的としていた『SSパッケージ』側の策略である――と」
台詞中の改行の多用、地の文をほとんど挟まないなど、色々と試してみました……。
そして、魔術結社の登場です!ルビ振るのが大変でした。
次回もよろしくお願いします。




