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神の魔術師~Fall MOON and Golden FLAME~  作者: 壱ノ瀬和実
先導者

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陽はまた落ちる 3-2

 当人たちにしか分からないことがある。話を聞くことしか出来ない今、出海の言葉を疑うことも拙速と言えるだろう。


 必死に頭の中を整理する和川を横目に、涼風が様々を踏まえて、疑問を投げかける。


「あのぉ、出海さん。事件とやらについてはなんとなく分かったのですが、それが何故中部支部に協力を要請することに? 北陸分所の人員が不足しているのは分かりますが、だとしてもそれはたった八人の魔術結社が起こした事件。それを対処出来ないなんて、さすがに……」


「ああ、いえ、おそらくこの事件は『先導者(ヴァンガード)』の中でも『SSパッケージ』が起こしたもので、実行犯は元々の所属である六人だけであると思われます。なので、北陸分所だけでもなんとかなるとは思うのですが……」


 不知火が首を傾ぐ。


「何か特別な理由があるのかい?」


「い、いえ、あ……えっと、その、理由としては、一つ大きなものがありまして。実を言うとその『SSパッケージ』のリーダーだった作間翔は、今、ここにやってきている可能性が高いのです」


 一同が声を上げた。無論、番場もである。


「番場先生……本当に何も知らないんですね」


「あのねぇ涼風和奏くん。俺が何もかも知ってるような顔に見えるかい? 俺を買い被るなよ。俺はそこまで優秀じゃない……言ってて悲しくなってきたがな」


「俺と同じ部類か」


「|和川(お前)とは一緒にはされたくねえ」


「ひっでぇ……」


「馬鹿達はほっといて」とさりげなく先輩まで蔑んだ不知火は、「その理由とは?」一人真面目に訊ねる。


「盗まれた『風裂(かぜ)』と『波断(なみ)』は相当に強力な術具であることは間違いないのですが、その力に関しては一つ大きな問題がありまして……」


 出海は自分の刀を見つめながら説明する。


「随分古い術具ですから、さすがに魔力が一切こもっておらず、刃毀れも酷い。今は武具としての価値がないに等しいんです。もちろん、人に傷を負わせる程度は出来るでしょうが……さほど使い物にはならない。では、それを術具や武具として甦らせるにはどうしたらいいでしょうか。簡単です。打ち直せばいい。魔力の使える、一流の刀鍛冶の手で。

 そう考えれば、彼らの考えは読めます。盗んだなまくら刀に力と価値を取り戻す方法があるのならば、犯人はその人に会いに行くはずです。すなわち、優秀な刀鍛冶。だから、ここにも来ている、ということなのです」


「いや、だからなんでここに?」


 和川の無知っぷりに、不知火は嘆息を止められない。


「それくらいは知っておきなよ和川奈月。いいかい? ここから車で一時間も掛からないところにある町に、一人、名の知れた刀鍛冶がいる。厳密に言えば、いるといわれている。その刀を打ち直す為に、作間はその人に会いに行こうとしているんじゃないか、っていう話だよ。それで間違いないかい」


「あ、はい。その通りです」出海は頷いた。


「優秀な刀鍛冶って誰だよ」和川が間抜けに訊く。


「日本魔術界じゃあ有名な名前だから、この機会に覚えておくといい。刀鍛冶であり、そして魔導師でもある、鉄堂光泉(てつどうこうせん)の名をね」


「鉄堂……光泉?」


「――あ、その名前なら聞いたことある! 俺聞いたことあるわ!」番場が叫んだ。


 知っていた程度でそこまで勝ち誇った顔を出来るものなのかと初対面の出海は思うが、そういう人なのだ、この番場最人という男は。


 不知火もそこに呆れつつ、


「その腕を疑うものは、彼の名を知るものならば一人としていないだろう。超一流さ。ただ……刀剣を扱う魔術師御用達と言いたいほどの実力なんだけれど、どうにも掴めない人らしく、住んでいる町だけは分かっているんだけど、その町のどこに、というのを正確に知っている者はそういない。つまり、会おうとして会える人ではないんだ」


「不知火先輩詳しいですね」


「さっき言っただろう。常識だ。知らない方がおかしい」


「ま、マジか」と言った所からも分かる通り、当然、言うまでもなく、和川は何も知りませんでした。


 五人もいるにしては伽藍のように静かな廃絶部の中で、厳しい表情の出海は背筋を伸ばし、可愛らしい声音に険しさを乗せた。


「では、改めて、中部支部の皆さんにお仕事の依頼をしたいと思います。北陸分所から盗み出された術具、『風裂(かぜ)』『波断(なみ)』を、魔術結社『先導者(ヴァンガード)』の魔術師から取り返して頂きたい」


 立ちあがって低頭する出海。


 不知火は「はぁ」とため息をついた。


 和川がどう答えるか、不知火には分かっていたのだ。


 今、中部支部は猫の手も借りたい状況だ。だとしても、和川奈月という男が、ここまでの経緯を聞いた上で断る、と言ってしまうような人間ならば、きっと大魔術廃絶部の面々は、リオウの件にあそこまで深く切り込むことはなかっただろう。有り体に言えば、断る筈がないのだ。


 和川は、出海の双眸を真っ直ぐに見つめる。


「よし。じゃあまずは刀鍛冶探すか」


「――はい?」


「いや、だから、敵を闇雲に探すよりいいだろう、って」


 出海がぽかんとしている間に、不知火は鼻で笑った。涼風は眉を下げながら微笑む。番場は茶色混じりの髪を掻き、「あーあ」と呆れた。


 やっぱりか、と、誰もが思っただろう。相棒なら尚のこと。もはや慣れっこだ。


「じゃ、早速行くとしようか。まずは鉄堂光泉がいると噂される町に行ってみよう。昨日の今日で体力的にはやや厳しいが、走っていけない距離じゃない」


「あ、あの、えっと」


 あまりに軽く受け入れられたからか、逆に出海がうろたえてしまう。


 その姿に、不知火は口許に笑みを浮かべながらこうフォローした。


「結論が早すぎると思ったんだろう? まあ、うちの頭はこういう人間だからね。安請け合いに見えたかもしれないが、声色程軽い男じゃないことは保証するよ」


次回は件の彼らが登場……!よろしくお願いします。

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