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十二品目

 ドラゴンが出入りしているという地点まで、そう時間はかからなかった。

 歩いて半日かかる距離も、この衣ならひとっ飛びだった。



 法定速度を守って塔の周りを飛んでいる途中、突然騎士様に停止するよう促されて止まった。

 到着したのだろうか――しかし正直さっきまで僕たちがいた場所と見分けがつかない。

 騎士様は僕の腰に回していた腕をほどき、地面に立った。

 続いて僕。懐には魔神を抱えている。


 「通り過ぎてしまったので、少し戻ります」

 「分かんの?」

 「はい。目印になる物を置いてあるので」


 そう言って騎士様は歩き、飛んできた道を戻り始める。

 「なるほど」と僕と魔神は頷きながら、その後に従う。

 

 少し歩いて戻ると、確かにあった。

 石。

 おそらくあの手の平サイズの石がそうなのだろう――にしてもよく見落とさなかったな。


 案の定騎士様はその石を拾い上げると、


 「着きました。この真上――樹海の樹々の丁度梢の高さからドラゴンは出て来ます」

 「梢って……」


 樹海の方に目をやるが、遠く離れているため比べられない。

 正直どれくらいの高さなのか見当がつかない。


 「夜明けまでまだ時間があるのでお二人は休んで下さい。私が起きてますから」

 「いいのか?」

 「もちろん。食料を分けていただいたお礼です」

 「そっか、それじゃあお言葉に甘えて」


 懐では魔神が寝ている。起こしてやろうかと思ったが、

 あまりにも安らかな寝息を立てているため、思いとどまった。

 まあいいさ、明日はしっかり働いてもらうからな。


 目を閉じると心地よい眠気に体が包まれていき、意識も次第に沈んでいった。



 夜明け前。

 騎士様に起こされた僕は半眠半醒のまま起き上って、目を擦っていると、

 現在の状況を思い出し、完全覚醒。


 少女の頭をぺちぺち叩いて起こす。


 「おい。起きろ。そろそろだぞ」

 「う~ん、むにゃ……、黙れ毛根死滅人間。……むにゃ……」

 「何で悪口だけ流暢なんだよ! 僕の頭はふさふさだっ」

 「……んにゅ……なんじゃ、うるさいのう……。何を一人で興奮しておる」


 さもたった今目を覚ましましたと言わんばかりの言いぐさ。

 しかし反抗してはいけない。今日は大役を担ってもらうのだから。


 「もうしばらくで日の出です。それとほぼ同時に壁を破ってドラゴンが飛び出してくるので、同時に穴に向かって一直線に飛んでください。

  穴が塞がるまで十秒くらいしかなく、ほとんどドラゴンとすれ違うタイミングになってしまうので、気付かれるかどうかは運任せですね」


 このタイミングで新事実なんだが……。そんなにタイミングがシビアだとは思ってなかったよ。


 それに今更計画を変える気もない。


 僕たち三人はいつでも飛び立てるよう態勢を整え始める、と言っても衣を纏った僕の腰に騎士様が抱き着いて完了なんだけど。

 基本衣で浮く時、装着者の態勢は進行方向に頭が向くようになる。スーパーマンと同じだ。

 僕に腕力があれば、騎士様の腕を掴んで飛ぶこともできただろうが、生憎そんなものを貧弱な現代っ子である僕は持ち合わせていない。


 三人くっついた状態で、その時を待つ。


 だんだん緊張してきた。ていうか怖くなってきた。

 樹海の彼方も明るくなってきて、塔の上方はすでに照らされている。


 暴れる鼓動を鎮めようと努力しながら、待つこと数分。


 とうとうその頭を覗かせた太陽が、強烈な朝の日差しを放ってくる。


 ………………。


 あれ?

 出てこないぞ。もしかして今日はおやす――


 轟音。


 青みをがかった高密度のエネルギーが外壁を貫いた。


 僕らはあんぐり口を開けたままその場所を見上げる。

 開いた穴からはもうもうと砂塵が噴出している。


 ……ふっ。分かってたよ、こういう展開。

 僕らが油断して近づいた所を一網打尽にしようとしてたんだろ?

 残念ながらそんな考えはお見通しさ。頭脳戦で僕と張り合おうなんざ百年早い。ちなみに僕は二百歳までは死なない。

 分かったらとっとと出て去れ……


 あれ?

 今度こそ出てこないぞ。もしかして今のはただの八つ当たりか……


 「おい。穴が塞がってしまうぞ」


 と、懐の少女。

 ……分かってる。

 分かってるけど、動けない。

 だってドラゴンが出て行かないのだから。入ってみたら目の前にドラゴンうふふ、なんて展開はまっぴら御免だからな。


 こうして躊躇っている間にも穴は閉じていく。

 大きな風穴のふちからブロックが再生していく。どこぞの錬金術師が錬成してるみたいだ。


 遂に穴が完全に塞がった。


 「あーあ。お主がちんたらしておるから」

 「仕方ないだろ、こんなの予想してなかったんだから――」


 爆音。


 完全なる不意打ちに言葉が途中で詰まる。

 再び外壁に大きな風穴が開けられた。

 僕らは穴をじっと見つめるが、やっぱりドラゴンは出てこない。


 しばらくすると、穴は再び完全に修復した。――と同時に。

 三度目の破壊。

 ご親切にどうも……ってか、これ、もしかして……。


 「……おい、……これって気付かれてんじゃないの?」


 首を縦に折って、懐の魔神に聞いてみる。

 すると彼女は、


 「そのようじゃな」


 いけしゃあしゃあと……。


 「あの~。これってお前が考えた作戦だぞ? どーすんの? これ」

 「入ればよかろう」

 「入ればよかろう、ってお前、入った途端ドラゴンの胃袋の中だったりしたらどーすんだっ」

 「その気があったらすでに襲いかかって来たはずじゃ。つまり向こうにその気はない、ということじゃろうて」


 む。確かにそうなのかも……。だとしたら案外話し合いで解決するかもしれないな。


 「少なくとも今は、じゃが」

 「おまえ、それは言わない約束だろう?」


 仕方無い、腹を括るとするか。あんまり待たせすぎて、ドラゴンの方から出迎えられたくはないからな。


 次の爆発を待って、飛び立つ。

 一直線に穴に向かって行く。案外大きいことに気付く。

 速度を落とさずそのまま穴に飛び込む。


 そこで気づく。塔の内部は迷路のように通路が入り組んでいて、どうやらその奥の奥のとある部屋から壁をいくつも貫いて外壁に大穴をあけたようだ。しかしすでに奥の方の穴は塞がりかけていて、その先は見通せない。

 

 「す、すごい。中はこのような構造になっていたのか……感激だ! すぐ国に報告して調査申請をしたいものだ……」


 騎士様はあちこちを見て触り、感極まっているようだった。


 等間隔で通路の壁にくっついている燭台には火が灯り、通路を照らし出している。


 「やっぱり招き入れようとしてたようじゃの」


 その言葉に僕と騎士様は気を引き締める。すでに敵の破壊行動は止まっていた。

 そうだ。ここはもう敵のフィールドなのだ。なぜ招き入れたのか相手の思惑が分からない以上、警戒しておかなければならない。


 「魔物の気配もします。気を付けてください」


 騎士様も注意を促す。

 息を殺し、僕らはあたりに気を配りながら慎重に進み始める。



 ていうか魔物って! こっちは全員まるっと丸腰なんですけど。

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