十三品目
「危ないっ!」
寸前まで迫っていた白刃を横から受け止め、一刀のもとに斬り捨てたのは騎士様。
鎧を纏った白骨死体が幹竹割に真っ二つにされて崩れ落ちた。
「あ、あああありがろう……!」
やばい。ビビって呂律が回らない。
「お気になさらず」と言って、剣を鞘に収める彼の顔は険しい。
時間は分からないが、塔に侵入してから数時間はたっただろうか。その間、骨やら触手やら獣やら、多様な魔物が少なからず襲ってきた。
最初は走って逃げていたのだが、途中で騎士様が敵のゾンビを見事な一本背負いで捻じ伏せ、そいつが持っていた剣を奪い取ってからは、度々現れる雑魚の殲滅を彼に任せきっている。
ちなみに騎士様は現在バ神の衣を纏っている。
身体強化の効果が望めるというので貸してみたところ、彼の肉体は人体の限界を超越し、向かってくる魔物をちぎっては投げの獅子奮迅の大立ち回りを見せてくれた。本人曰く、「体が羽のように軽い」とのことらしい。
彼の一太刀で逆八の字に体がわかれていった魔物は数知れず。
騎士様本人の腕も確かなものだが、強化された彼の太刀筋を阻むものは皆無だった。
しかしそれでも、たった今のように不意を衝いて襲い掛かってくる魔物もいるため、決して楽観視は出来ないのだが。
「その先の角を左じゃ」
僕の懐から魔神娘が道を教える。
「近いのか?」
「うむ」
僕らは固まって慎重に進んでいく。騎士様が前、僕は後ろを確認、そして魔神は僕の懐で眠る係りだ。
この塔の内部の迷宮は、広々とした通路で成り立っている。通路の幅は二十メートルくらいでシャトルランの片道ほどあり、高さは何十メートルあるのか分からない。見上げても燭台の光は天井まで届いておらず、黒々とした闇が広がっているだけなのだ。
壁にはびっしりと壁画やら古代文字やらが刻まれていて、なんだかアンコールワットの内部もこんな感じじゃなかったっけ、などと昔読んだ本の朧げな記憶と照らし合わせる。
言われた角を曲がると、確かにそこには一枚の扉があった。派手な装飾のアーチ型の扉だ。かなり大きい。三メートルはあるだろうか。
ごくりと喉を上下させる。
「この扉の向こうにあいつがいるってことでいいんだよな」
「おそらくドラゴンもな」
「うっ。そうだった……」
「その男という者を私は知りませんが、ドラゴンなら私に任せてください」
「大丈夫なのか?」
「ええ。この衣のおかげで。倒せなくとも引きつけるくらいはできるでしょう」
「そうか、じゃあ戦闘になったら頼む。――でも一応一つ作戦があるんだ。ドラゴンもいるってんでかなり不確定な感じだけど」
「作戦?」
「ああ」と答えて懐の少女を見ると、盛大に頬を膨らませて不機嫌そうにしている。自然僕の口がにんまりと裂けていく。
いやー。今まで散々こいつに言い負かされ振り回され馬鹿にされてきたからなー。ここらでいっちょ仕返ししてやんぜ……という気も正直失せかかってきた。
ていうか本当に成功するのか? 今さらながらすごい不安になってきた。
それに……あ。
「おい、俺たちが誰だかあいつにばれてんじゃないのか。だって俺たちの侵入にも気付いてるみたいだし」
そうだ、この魔神っ娘も相手の位置をサーチしてここまで来たんじゃないか。もしばれてんだったらこの作戦は中止だ。
「それはないじゃろう。奴も儂と同じで魔力の位置と大きさが感じ取れる程度じゃろうな」
「は? なんで」
「儂が神じゃから」
……何を言ってるんだこいつは。脳みそが沸いてるのか、それとも蛆虫が湧いたのか。
ぽかんとしてるであろう僕の顔を見て目の前の少女はやれやれ、と演技っぽい仕草で首を振ると、
「当たり前じゃろう。同じ魔人族の神である儂にできんことをこんな取るに足らん分世界の一魔人ができるわけなかろうて。つまり魔人という種にそれだけのポテンシャルは無い、ということじゃ」
おお。そーいう理論なのか。
とんだ暴論だ。でも正論なのかもしれない。とりあえず信じてみることにする。
「そーいえばさ、お前って相手の考え読めたりするんだろ、バ神みたいに。だったらそれ使えば交渉っつー手もありかな?」
「それは無理じゃな。儂と弟のあの力は『それぞれの所有する世界の全てを知る力』なのじゃ。正確にはな。つまり相手の心を読むには儂の世界に来てもらわねばならぬ」
「ふーん。まあ、あんまし期待はしてなかったよ。俺の心も読めてないみたいだったし」
「じゃったらわざわざ聞くな!」
なんか鼓動が落ち着いてきたみたいだ。よし、行くか。
僕は扉に歩み寄ると、両手をあてて、力を込めた。
「ふんっ! くっ! うりゃあ! ……ふう」
腕で額の汗を拭う。燭台の光を反射した汗がきらめく。
ふぃ~。いい汗かいた。
「開かんではないかっ! なにやり遂げて満足したような爽快感溢れる笑顔をしとるっ」
魔神様のお叱りを頂戴する。
ですよね、すいません。ビクともしないんですけどこの扉。鍵はないみたいだけど。
「だって、この扉超重いんだもん。」
「ふん。まったく情けない。おい、騎士殿、開けてくれ」
「ん、承知しました」
騎士様が悠然と扉に向かってきたので、まろびまろび場所を譲る。
くそう、小娘に鼻で笑われた。
騎士様が扉を押すと、ギシギシゴゴゴと重低音で軋む音を立てながら、あっけなく開いた。
ま、まああの衣があれば僕にだってあれくらい……
「どうせ衣があれば、とか考えておるのじゃろ」
「くっ! そんなことねーしっ。僕素直に褒め称えてたところだったしっ」
恥に恥の上塗り。
いよいよ救えなくなってきたな。僕。
これから最終決戦だってのに精神はもう『ひんし』なんですけど。だれか僕をポケモンセンターに連れてって。
さて、気を引き締めよう。
入った部屋は一切明かりが無く、部屋の形も広さも、何一つ分からない。
ただ、何かが潜んでいるという気配だけはひりひり感じられた。
「よし。行け」
魔神に合図をすると、彼女はゆっくりと部屋の奥の暗闇に進んでいった。
ラスボスの目前へと一人歩んでいく少女。後ろからそれを見てる男二人。絵面は最悪、いや最低だ。
これでよかったのかな……。
一応クライマックスです




