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異世界で家庭菜園やってみた  作者: 藤原ゆう
ここは新たな別天地?
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2.はじめてのお買いもの

 悠里たちが異世界から戻って数日。


 やっと悠里の両親に対面がかなったウリエルとアシュラムは、緊張した面持ちで彼らの前に立っていた。


 しかし突然現れた二人の得体の知れない外国人に、悠里の両親は動じた風もなく、「あら、大学で新しいお友達ができたのね」と言っただけだった。


 もっと何かあってもいいだろうにと思う。


 祖母が二人を受け入れた状況とは異なっている。


 両親のそれは無関心だ。


 祖母の離れで寝泊まりをすることも、特段気にした様子はなく、「大変、バスに送れちゃう」と両親は慌てて出勤して行った。


「いつも、こうだから」


 そう言った悠里はどことなく寂しそうで、ウリエルの胸に小さな痛みが走った。


「わたしのやることなんて、どうでもいいんだよね」


 諦めたように言う悠里に掛ける言葉も見つからず、顔を曇らせた二人に、


「さあさ、今日悠里は休みだから、三人で買い物でもしてらっしゃいよ」


と、ツグミが殊更に明るい声を上げた。


「うん……そうだね」


 そろそろ日用品も不足してくる頃だ。


 気分を変えるためにも外出しようということで、三人は近くのショッピングモールに行くことにした。




 彼らの姿に誰もが振り返る。


 片や、この世に二人と存在しないだろうと思うような、神がかった美貌。


 片や、日本人らしさを残しながらも、辺りを払うような気品のある秀麗な美貌。


 こんな片田舎のショッピングモールにいるはずのない二人が、そこに降臨した。


 ざわつく周囲を気にすることなく店内を歩く二人。


 その二人の後ろを、小柄な体をさらに小さくしながら付いて行く悠里。 


(まるで貴公子に付き従う下女のようだわ)と自分で自分を揶揄しながら、(いや、実際二人は貴族だった)と思い直す。


 その美貌をあちらの世界にいる間気にしなくなっていたのだから、慣れというのは怖い。


 二人と違うのは重々承知している。でも、こうも違いをまざまざと思い知らされると、やっぱり二人とは住む世界が違うのだということを意識しないではいられなかった。


 そんな二人が、この世界にやって来てしまった。


(はあ。あちらの世界に帰る方法って分からないのかな)


 それなりに、こちらでの生活を楽しんでいる様子の二人だったが、このままでいいはずはない。


 こちらに来て以来、禁呪については一切口にしないアシュラムだった。


 帰る方法はないのか。それとも知らないのか。


(時間をかけるわけにはいかないもの……)


 もし今生の別れになったとしても、二人をどうにかしてあちらの世界に帰さなくてはならないと思う。


(わたしの思いは横に置いとかなきゃ、ね)


「あ、ユーリ、これ何?」


 思いに沈んでいた悠里に、うきうきとした声がかけられた。


「え?」


「これこれ」


「ああ、それは……」


 アシュラムが、あちらの世界には一切ない電化製品に目を輝かせていた。


 ウリエルも興味深そうに眺めている。


「洗濯機や掃除機は教えてもらったけど、まだまだ知らない物がいっぱいあるね」


「うん。これはコーヒーメーカーだよ。おばあちゃんは自分で淹れる派だから、うちにはないけど」


「へえ、これでコーヒーが?」


 アシュラムだけでなく、ウリエルまで目を見開いている。


 コーヒーもこちらに来て知った彼らだった。


 それが機械で出来るというのだから二倍の驚きだ。


 そもそも電気というものがない世界で生きてきたのだ。


 いまいちぴんと来ないというのが正直な所だろう。


「ふうん。電気というのは、便利なものだねえ」


「帝国辺りでは開発していそうだがな」


 次にミルサーを手に取りながら、ウリエルが言った。


「へえ、帝国が?」


「そんな気がするってだけだ」


 こうしていると、ウリエルとアシュラムの間の確執もなかったことのように思える。


 けれど、それは気のせいだ。


 こうしている間も、彼らはきっとあちらの世界の時間の中で生きている。


「ねえ。二階に行ってみようよ」


 どうしても暗くなりがちな思考を変えたくて、悠里は服飾関係のフロアになっている二階へと二人を誘った。


 ファッションに関してさして詳しくもないが、洋服なら、あまり二つの世界の違いを感じなくて済むのではないか。


 そんな風に思ったのだ。


「え、ユーリ。階段が動いてる!」


 腰の引けているアシュラムに、この日初めて心の底から笑って、悠里は彼の手を取った。


「一、二の三、だよ」


 アシュラムとぴょんと飛び乗り、ウリエルを振り返れば、彼は無事自分のタイミングでエスカレーターに乗れていた。


(さすが、ウリエルさん……)


 それでも、おっかなびっくりできょろきょろしているウリエルに笑いかければ、変わらぬ優しい笑みを返してくれた。


 それだけで、心の中がじんわり温まる。


(もう、きっと、わたしは二人とは離れられないよ……)


 左手に感じるアシュラムの手のぬくもりが胸に痛かった。





 土曜の午前。


 まだ客はまばらだが、それでも三人の行く先々で黄色い歓声が上がる。


 服を眺めて歩いていると、店内から熱い視線を感じたり。


「どうして、叫んでいるんだろう」


 不思議そうにアシュラムが言えば、ウリエルもそれについて考察する。


(ただ二人が綺麗すぎるからですよ~)


 悠里はそんな二人にくすくす笑った。


 この世界に帰ってきて、初めての穏やかな時間だった。


 こんな田舎のショッピングモールだから、これくらいの騒ぎで収まっているのだ。


「ねえ、そろそろ何か食べようよ」


 行きつけのカフェのところに来ると、悠里がそう誘った。


「うん、そうだね。ちょっと歩き疲れたなあ」


 あまり体力に自信のないアシュラムだった。


「ここのね、手作りハンバーガーが美味しいんだ」


 ボリュームのあるハンバーガーが人気の店だった。


「ふうん、ハンバーガー……」


 ジャンクフードには縁のない二人だ。


 これも、いい経験になるだろうか。


 二人を間近に見て、やや挙動不審になっている店員に案内されテーブルに着いた。


「おすすめはこれだけど、ウリエルさんは良く食べるから、こっちの方がいいかも」


「ユーリと同じものが食べたいな」


「僕も」


「そ、そうですか?じゃあ、おすすめのハンバーガーで」


 オーダーを終えると、やっとひと心地。


 レモンの風味のする水を飲んで、渇いていた口を湿らせた。


「でも、本当に僕らの世界とは何もかも違うねえ」


 短くなった白銀の髪を揺らして、アシュラムがしみじみと言った。


「そう、だね」


「こんな大きな店自体初めてだし、いろんな種類の物がたくさんある」


「うん……」


「ユーリは、こんな世界に住んでいたんだね」


 二人の視線を受けて、悠里は何と言ったらいいのか分からなくなって俯いた。


「僕らは無理やりに、そこから引きはがした。コウメさまや今までの人たちも……」

「……」

「この世界に来て、初めてそれを実感することができたよ。何とも愚かしいことだね」


「アシュラムさん……」


「僕は、この世界に来られて良かった。もし戻れなくても、かまわないとも思う」


「そんな!」


「俺は困るな」


 ウリエルがぽつりと言った。その声に心臓がどくりと波打った


「俺は、あちらでやり残したことがたくさんあるから」


「なら、君だけ戻してあげるよ。ウリエル」


「えっ?」

「方法があるのか?」


「いや、今はまだ分からないけど……。君がいなくなれば、ユーリは僕のものだろう?」


「なんだよ。そんな簡単にお前にやるかよ」


「戻る方法もユーリも欲しいなんて、君は虫が良すぎるよ」


「ちょ、ちょ、ちょっと喧嘩はだめですよ」


 話をしたかと思うと、すぐこれだ。


「もう」と悠里が口を尖らせたところで、大皿に盛られたハンバーガーとフライドポテトが運ばれてきた。


「まあ、ひとまず食べましょう」


 そう言って、大きなハンバーガーにかぶりついた悠里を、ウリエルとアシュラムの優しい目が見守っていた。


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