7.傍にいたい【アシュラム視点】
この手を離せば、またどこかへ行ってしまいそうで、ずっと手を握り続けた。
そして、出会って初めて、自分はユーリという人を一人の女性として見つめようとしている。
感じたことのないぬくもりだった。
神殿、王宮、この世界のどこにも感じたことのないぬくもりだった。
彼女を愛したい。
彼女の傍にいたい。
ずっと、このぬくもりを感じていたい。
私の中に沸き起こるこの衝動はいったい何なのだろう。
彼女を元の世界に返そうとしていた私はどこへ行ってしまったのか。
そうしてしまわなかった自分を褒めてやりたくなりながら、一度は目の前から消してしまおうとした人の心を、私はひたすらに求めようとしていた。
ウリエルが合流し、三人はひとまずトーサ村へ戻った。
朝食もろくに取らずに飛び出してしまった悠里が空腹のあまりに一歩も動けなくなってしまったからだった。
悠里はウリエルに抱かれるようにして馬に乗せられた。
申し訳なさそうにしながらも、ウリエルが持っていた砂糖菓子をいくつか貰ったのが良かったのか、悠里はいつの間にか眠ってしまったようだった。
ほかの男の胸に抱かれ眠る彼女。
アシュラムはそれを見つめながら、寂しくなってしまった右の掌を見た。
つい先ほどまで感じていたぬくもりは、もうすでになくなってしまった。
それをとても残念に思う。
もし許されるなら、このまま彼女を奪い、誰にも邪魔されることのない所へ行ってしまいたい。
けれど、それでは、彼女を無理やりに元の世界へ帰そうとしていた自分と何ら変わりがない。
そう思い、アシュラムは自重する。
そう。今必要なのは、彼女の思いをくみ取り、彼女の心に寄り添うことだ。
決して暴走することのないように。
アシュラムはそう自分を諌め、トーサ村へと歩を進めることに専念した。
トーサ村に着いた時には昼をとっくに過ぎた時間になっていた。
「悠里。どうしたの」
慌てた顔のアルバートに、悠里を横抱きにしたウリエルが食事の用意を頼むと、アシュラムを見た。
「今日はもう王都まで行くのは無理だろう。明日、俺の馬車で送って行こう」
あくまで事務的な物言いに、アシュラムはふっと笑みを漏らした。
「ありがとう」
優秀な外務官であるウリエルが、こうして激務の合間を縫ってこの村にやって来ている。
それだけで彼の悠里への想いが分かるようだった。
悠里はウリエルをどう思っているのだろう。
これほどまで親身になってくれる彼を、悠里も頼っているのは確かだった。
けれど、どことなく感じる二人の間の壁。
それは意識して築かれているのか。
それとも無意識?
ふと考え込んだアシュラムに、アルバートが声を掛けた。
「えっと、ユーリのお知り合いですか?」
「あ、ええ」
「僕、アルバートと言います。ユーリと一緒に畑をさせてもらっています」
思わぬ伏兵の登場に、アシュラムは瞠目した。
「その……君も、ユーリのことを?」
そして慌てるあまり、思わず余計なことを尋ねてしまった。
一瞬何を訊かれたのか分からなかったらしいアルバートは、しかしややして顔を真っ赤にして否定する。
「ち、違いますよ。俺はただ一緒に働いているだけです。ユーリはウリエルさんのだから、僕なんて入り込む余地ないですよ」
アルバートの何気ない言葉は、アシュラムの胸に鋭い針を刺した。
傍から見れば、ウリエルと悠里はそう見えるのだろうか。
(これは、相当頑張らなくてはならないみたいだな)
アシュラムは美貌をしかめ、いかにして悠里の傍にあり続けることが出来るのか。
そればかりを考える。
それはまだ、独占欲の強い、愛になりきらない恋情。
けれど、だからこそ、アシュラムの心を嫉妬で染め上げる。
その嫉妬が悠里を傷つけることのないように。
自身の内に潜む狂気にも、彼は気付いていた。




