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異世界で家庭菜園やってみた  作者: 藤原ゆう
家庭菜園事始め
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21.交渉決裂、ですか?

背筋に悪寒を感じながら振り返ると、道端にウリエルの姿はなく、きょろきょろと道の向こうまで見渡してみたけど、それでも彼はいなかった。


(ウリエルさん……。わたしに任せるってことなのかな)


気落ちして部屋の中に顔を戻すと、マリュエルがまだにたりと笑っていた。


「貴様。私を無視するとはいい度胸だ」


びくっとして、悠里は愛想笑いを浮かべたが、マリュエルはふんと鼻を鳴らすと「用があるなら、さっさと言え。私も暇ではないのだ」と、あまり興味がなさそうに言う。


悠里はいよいよびくびくして、マリュエルから距離を取った。


「あ、あの……」


「なんだ?何をそんなに怯えている?私が貴様を捕って食うとでも思っているのか?」


「い、いえ。そんなことは全然……」


「だったら、はっきり喋れ。口の中で、もごもご話すな。言いたいことがあるなら、自信を持って言ってみろ」


悠里は口の渇きを感じて、唾を飲みこんでから口を開いた。


「わたしに鍬を……」


「聞こえん」


「わたしに鍬を作ってください!!」


「ふん。大きい声が出せるんじゃないか。私は卑屈な人間は嫌いだ。もっとしゃんとしろ。しゃんと」


「はあ……」


「返事が甘い!」


「はい!」


「つまりは、仕事の依頼か?」


「はい。そうであります!」


びしっと敬礼までしそうな悠里を一瞥すると、マリュエルは艶やかな黒髪を翻して、先程男たちが座っていた椅子にドカッと腰かけた。それから腕組みをして、足を優雅に組むと、悠里に前の椅子に座るように促した。


悠里はそろそろと近付いて、ちょこんと椅子に座ると、上目遣いにマリュエルを窺う。


「仕事の依頼なら聞いてやろう。だが、やるかやらないかは、私の判断で決めさせてもらうぞ」


「え?やらないかも知れないってことですか?」


「仕事の内容いかんだ」


「はあ」


「クワとは何だ?何に使う?」


「あ、あの。農作業に使う物で、こ~んな形をしてる……」


悠里が両手を使って説明するのを、マリュエルは厳しい目で見ている。


彼女の藤色の瞳はこんな時でもきらきら輝いていて、悠里は思わず見惚れそうになってしまった。


「どうした?止まってるぞ」


「あ、ごめんなさい。それで、こうやって、土を耕す」


「つまり、それは個人で使う道具という訳だな。どうしても必要なのか?」


「はい。わたしにはとっても必要なものです」


「何故?」


「え、何故って。鍬を持ってると落ち着くし。何より畑仕事がとても楽になるし」


「貴様が、か」


「え?もちろん、家庭菜園している人なら誰でも欲しくなると思います」


「……」


じっと悠里を見据える藤色の瞳が、いっそう光を強めたような気がした。


こくりと喉を鳴らした悠里に、マリュエルが言い放つ。


「私も暇ではないのだ。貴様の道楽には付き合えない。わざわざ私が作らずとも、何か代用できるものがあるんじゃないか?」


「そ、そんな!?ここまで来て、断るんですか?」


「仕事のえり好みはしたくないが……。私には、どうしても本気が見えないんだ。貴様の本気が」


「本気……」


ヤンにも言われた。


お前の本気を見せてみろと。


(わたしは、すっごく本気だよっ)


けれど目の肥えた職人には、悠里の本気など、ないに等しいものに思えるのかもしれない。


「道楽」と切り捨てられる、悠里の本気。


ディントから長い道のりを越えて、ようやく此処まで辿り着いたというのに。


悠里は自分の「本気」を見失い、途方に暮れていた。


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