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異世界で家庭菜園やってみた  作者: 藤原ゆう
家庭菜園事始め
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20.ついに交渉、ですか?(3)

マリュエル・フォッセの工房は、周囲に立ち並ぶ工場に比べると、随分こじんまりした建物だった。


しかし、小洒落ている。


外観は煤けた煉瓦で古びて見えるけれど、またそれがいい味を出していて、古民家風の趣を醸し出している。


近代的な工場の中にあって、この場所だけが別の空間であるような、そんな気持ちになる建物だった。


「なんか、可愛い……」


外国の田舎にあるような、その建物に、悠里はしばし感激していたが、「悠里、そろそろ」とウリエルに促され、自分がついつい現実逃避していたことに気付いてしまった。


深呼吸して、一歩踏み出す。


ウリエルはその場から動こうとしない。


悠里はそっと振り向いて、愛想笑いを浮かべた。


「ウリエルさん?」


「俺はここで待ってるから、行っておいで」


「ですよね〜」


仕方ない。腹を決めなくては。


悠里はそろそろと建物の入り口に近付いて行った。


扉は開かれていて、中から人の話し声がする。


そおっと覗いてみると、広々とした土間に、男性が数人、車座になって話をしていた。


「ごめんください」


聞こえるか聞こえないかの、か細い声で訪いを入れたが、案の定彼らには届かなかったようだ。


弾む会話に、悠里の気持ちが萎える。


(だめだめ!頑張るんだから)


そう気を取り直し、もう少し大きな声を出してみると、男性の一人がこちらに気付いてくれた。


「おっ。お嬢ちゃん。どうしたんだ?」


男性の野太い声に悠里は顔を引きつらせたが、内心の動揺を押し隠して会釈すると、「あの。マリュエル・フォッセさんはいらっしゃいますか?」と震える声を出した。


それは蚊の鳴くような声で、耳に手を添えて「なんて言ったんだ?」と聞き返している者もいる。


あれだけ懸命に声を出したのに聞こえなかったのかと、悠里は内心がっくりしながら、もう一度マリュエル・フォッセのことを尋ねようと口を開いた。


「私がどうかしたか?」


突然背後から声をかけられ、悠里は声もなく飛び上がった。


心臓をばくばく言わせながら振り向くと、そこにいたのは、悠里とあまり年の変わらないような、思わず目を奪われてしまうくらいの美少女だった。


「え?あなたが、マリュエル・フォッセさん……?」


戸惑う悠里に、美少女はふんと鼻を鳴らした。


「だったら、どうした?」


「い、いえ、あの……」


すでに気迫負けをしている悠里。


道端で頭を抱えているウリエルのことすら目に入らない。


「おっ。マリー。そのお嬢さん、お前に用があるのか」


「マリーって呼ぶな。お前らは、また私が留守なのをいいことに、茶を濁していたな?」


マリュエル・フォッセは剣のある視線を男性たちに向けた。


「い、嫌だな。マリー」


「そうだよ。ちょっと休憩していただけだよ」


おろおろと立ち上がる、どう見ても年上の男性たちに、マリュエル・フォッセは口角を吊り上げて、にたりと笑った。


その笑みに、男たちが怯む。


「今は繁忙期ではないからと暇を弄んでいるから、いつも採算が合わなくなるんだ。日頃から、真面目に仕事しろ!でなければ、やめてしまえ!」


「え、ちょっ……。マリュエルさん?」


マリュエル・フォッセの厳しい言葉に、悠里でもきゅっと胸を痛めたのに、言われた当の本人たちはと目をやると、思った通り、顔を曇らせ俯いていた。


マリュエル・フォッセはふうと息をついて、黙り込んだ男性たちに近付いて行くと、そのうちの一人の肩をぽんと叩いた。


「あんたたちは、それぞれ自分の工房を持っていてもおかしくない位に、腕のいい職人なんだ。その腕を使わないで、どうする?時には遊びも必要だろう。けど、あんたたちは、あんたたちの才能を使う為に生きてるんだ。その才能を、私に貸してくれていることに感謝しているよ。ありがとう」


「「「マリー!!」」」


感激のあまり涙を浮かべて、男性たちはマリュエル・フォッセを取り囲んだ。


「俺、流石に休憩し過ぎたよ。これからは、マリーの為にしゃかりきに働くからさ」


「おう。頑張れよ」


「マリー。この前の貴族さまの依頼。やっぱり俺、やれそうな気がして来た。任せてくれるかい?」


「ああ。あれはお前じゃないと出来ない仕事だからな」


男たちは口々にマリュエル・フォッセに頑張る宣言をしながら、土間から続く部屋に入って行く。


まるで童話に出てくる七人の小人のようだと思いながら、悠里はその場に突っ立っていた。


そこには、マリュエル・フォッセと悠里しかいなくなった。


くるりと彼女が悠里に向き直った。


長く真っ直ぐな黒髪がふわりと広がり、まるで背後に薔薇が咲いたかのような錯覚を覚えた。


およそ工房に似つかわしくない、その光景に、悠里はこくりと息を飲んだ。


「貴様。用があるなら、早く言え」


細い腰に両手をあてて、マリュエル・フォッセは小柄な悠里を見下ろした。


「用があるから来たんだろう?」


「あ、あの。あなたは本当にマリュエル・フォッセさんなんですか?」


「しつこい」


大きな目の中の藤色の瞳をきらりと光らせて、マリュエルはにたりと笑った。












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