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異世界で家庭菜園やってみた  作者: 藤原ゆう
家庭菜園事始め
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18.気まずいのは嫌です

ウリエルさんがわたしを……?


なんで?


いつから?



美味しい料理もそっちのけで固まってしまった悠里は、ウリエルを見つめることしか出来なかった。


いや。


視線は確かにウリエルに向いていたが、焦点は定まっていない。


つい今しがた自分に掛けられた言葉が、現実のものであったのか、疑ってしまうくらいに混乱していたのだ。


「ユーリ。大丈夫かい?」


悠里があまりに呆けているので、ウリエルは彼女の目の前でパタパタと手を振った。


それでも反応しない。


ウリエルは深く息をついて、テーブルに投げ出されたままの悠里の手を取った。


ぴくりと反応する、悠里。


手応えを感じて、ウリエルはテーブルに身を乗り出し、出来るだけ彼女に顔を近付けた。


「どうやったら、お前にも俺と同じ気持ちを持って貰えるのか……。そのことを思うと、胸が痛むばかりだけど。でも、いつかは、お前と共に歩めるようになるのだと信じている。ユーリ……」


囁くようにそう言うと、ウリエルはそっと悠里の手の甲に口付けた。


「ひゃ~~」


途端、悠里が変な悲鳴を上げた。


「ウ、ウ、ウ、ウリエルさん……」


「なんだい?」


ようやく焦点の合った悠里の瞳に笑い掛けた。


「ど、ど、どうして、そこまで……!」


「う~ん。ショック療法?ちょっと驚かせ過ぎたかなと思ってさ。謝るよ。ごめん」


ウリエルはすっと悠里の手を離し、乗り出していた体を戻すと、何事もなかったように、葡萄酒の入ったグラスを手にした。


葡萄酒を味わうようにして飲むウリエルには、先程までの切なそうな様子はなく、いつもの飄々とした彼に戻っていた。


「あ、あの。ウリエルさん?」


「なに?」


「あの……さっきのことは、夢でしょうか?」


「いいや。夢じゃないよ」


ウリエルはくすっと笑った。


「ですよね~」


「うん。でも、夢だと思ってもらってもいいかな。ユーリはまだ、この世界で生活することだけでも精一杯なのに、そんなお前に気持ちを押し付けるようなことを言ってしまった。俺の失態だよ。悪かった」


「そんな!謝らないで下さい」


「……じゃあ、この話はこれで終わりにしよう。ユーリも忘れて」


「……」


「ね?」


「忘れて、いいんですか?」


「ああ。いいよ」


「なかったことにして、いいんですか?」


「……ああ……いいんだ」


本当にいいんだろうか。


悠里には分からなかった。


けれど、なかったことにしてしまえば、きっとお互いに楽なんだ。


(ウリエルさんが、いいって言ってるんだもん。いいんだよ)


この先のことを考えても、彼と気まずくなることだけは避けたい。


”あの”失恋がトラウマになっている悠里には、まだ恋に尻込みしてしまう部分があるから。


ウリエルは兄のような、友人。


そんな関係の方が、今の悠里には楽だった。


「じゃあ、なかったことに」


そう告げた時、一瞬ウリエルの瞳に影が差したような気がしたけれど、悠里は気付かない振りをした。


きっとすぐに忘れてしまえる。


ウリエルだって、まだ悠里に対する思い入れは浅いだろうから。


さっきのあれは、ウリエルの冗談。


悠里をとびきり驚かせるための、ドッキリだったのだ。


そう自分に思い込ませることは、案外簡単だった。


(だって、出会ってまだ日も浅いのに。ウリエルさんみたいな素敵な人がわたしをなんて、そんなこと、本当な訳ないじゃない)


嫉妬に駆られて思いの丈をぶつけてしまった、ウリエル。


確かに言うべきタイミングではなかったが、もし相手が違っていれば、そこから何かが始まっていた可能性もあっただろう。


けれど彼が惹かれた相手は悠里で、彼女は人付き合いを極力避けて来た上に、恋愛に疎い。


それどころか、人の心の機微にも疎い彼女の出した結論は、ウリエルにとって、とても残酷なものだった。


ウリエルはそれに気付いている。


悠里と違って、聡いウリエルには、悠里の心の動きが手に取るように分かっていた。


だから切なさを押し隠して、冗談として済ませたのだ。


そのおかげか、それまでとは二人の関係は違ってしまったというのに、悠里は何も変わっていないと思い込んでいる。


けれど今はそれでいい。


悠里の心が人の思いを受け止められるようになるまで、ひたすら待つつもりだったから。






二人は何事もなかったように食事を再開した。


全く違う方向を向いている二人なのに、(気まずくなりたくない)という思いだけは共通している。


そんな微妙な二人の、チェサートでの夜が更けていった。





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