12.作戦を練ってみました
アシュラムの事を気にしながら、悠里達はひとまずコウメさまの邸に戻り、居間に入ると作戦会議を開いた。
好奇心丸出しで参加したコウメさまは、外務部での出来事を聞くと、
「まあ。サベイルったら、相変わらず頭の固いことね」
と、ここにはいない外務卿の文句を言った。
「まあまあ、お祖母さま。外務卿には外務卿の立場がありますから」
ウリエルがとりなしても、「いいえ。もう少し融通が利かないと、国政だってうまくいきませんよ」と余程息子の対応にご不満らしい。
「融通と言っても、国と国の問題ではそう簡単にいきませんから」
「あら。ウリエルはわたくしとサベイル、どちらの味方なの?」
コウメさまは、細く整えた眉を吊り上げた。
「いや、お祖母さま……。そう言うことではなくてですね……」
「あなたをここまで立派に育てたわたくしよりも、あの朴念仁の味方をするの!?」
「お祖母さま……」
朴念仁て。
悠里は吹き出しそうになりながら、祖母と孫のじゃれ合いを傍観していた。
その後もしばらくコウメさまの「どちらの味方?」攻撃を受けたウリエルは、ほとほと弱り果てた様子で、ついに悠里に助けを求める視線を向けてきた。。
(ええ。もう少し見てたいんだけどな~)
そうは思ったが、このままでは話が進まないのも確かだったから、悠里は助け船を出すことにした。
「コウメさま。ウリエルさんはお祖母さまが大好きだって、いつも言ってますよ。俺はお祖母さまの味方だって」
「あら。そうなの?」
心なし顔を赤らめるウリエルを、満面の笑みで見返すコウメさま。
そこには孫の事が可愛くて仕方ないという気持ちが溢れている。
ふと自分の祖母のことを思い出しそうになって、悠里は気付かれないようにかぶりを振った。
「では、よろしいですか?話を戻しても」
「ええ。よくってよ。あの朴念仁にはいつか仕返ししてやりましょう」
物騒なことを言うコウメさまのことは敢えて無視して、ウリエルは『クワ』についての考えを話し始めた。
「鉄製品は国として輸入するのが難しいと言うだけで、個人的に仕入れに行くなら問題ないんじゃないかと思うんだ。現に、市場には鉄製の農機具があったからね。けれど、そうなってくると、競争も激しくなるし、金銭的にも厳しくなるだろう。問題は山積しているが、一つ一つ解決していくしかないだろうな」
「じゃあ、今すぐに仕入れに行くっていうのも難しいんですか?」
「交渉次第だろう。けれど鉄製品を仕入れているのは農機具屋だけではない。刀剣類を扱う店も調理器具を扱う店も、その他にも鉄製品を扱う店は多いだろう。それらが全てリュール王国の鉄を必要としているんだ」
「金銭的には、わたくしが何とかしてあげましょう?」
「え、コウメさまが?」
「ええ。これでも、この世界で長生きしているんですよ。機織りの収入だけではなくて、大公殿下の遺産であるとか、まあ、諸々ございますの」
「……」
それは確かに魅力的な話だった。
けれど、コウメさまの財産に手を付けるなんて、悠里はそれだけは出来ないと思った。
「コウメさまのお気持ちはありがたいですけど」
悠里が断ろうと言葉を続けようとした時、「残していても仕方ないですもの」とコウメさまが悠里を見た。
「……」
「サベイルも、ウリエルも、自分の財産はちゃんとあるでしょう?だから、わたくしはわたくしの使いたいことに使おうと決めているの。わたくしが機織りを始めようとした時も、大公殿下がどーんと援助して下すって。それで、機織りは成功したようなものですよ。何にしても資金は必要なの。先立つものがなくては何も始められないわ。ねえ、そうでしょう。ウリエル」
「ええ、まあ。国王が援助をすると言っても、国庫からそれ程出すことも出来ないでしょうし、お祖母さまに援助をして頂ければ助かります」
「遠慮していい時と、悪い時があるわ。今は遠慮をしてはいけない時よ。ねえ、そうでしょう。ユーリ」
「……本当に、いいんでしょうか?」
悠里は確認を取るようにウリエルを見た。
「お祖母さまがそうしたいと言ってるんだし、いいんじゃないかな」
そんな軽い感じで決めてしまってもいいのだろうか。
悠里はまだ決断できないでいる。
「じゃあ、こうしましょう。野菜がたくさん採れるようになったら、それを売って、その売り上げからわたくしに少しずつ返してもらう。これなら、わたくしの財産を使ってしまうという心配もなくなるでしょう?」
「そう、ですね」
それなら、いいかも?
コウメさまに少しずつでも返せるように頑張ろうと思えるし。
「ちゃんとした契約を交わしましょう。最初にどのくらい貸し付けるかとか、売り上げのどれくらいをわたくしに返すとか。そうしたら、ユーリも納得できるんじゃないかしら?」
「はい。それなら……」
「ねえ、ウリエル?」
「ユーリがそれでいいなら。文書の方は俺が作っておきますよ」
「ええ。お願いね」
「じゃあ、金銭の問題はそれでいいとして、とりあえず、リュールに行ってみるかい?」
「まあ、そうね。現地に行ってみないことには仕入れの交渉も出来ないもの」
「ユーリ?」
ウリエルとコウメさまがテンポ良く話を決めて行くので、悠里はやや付いて行けなくなっていた。
働かない頭を叱咤しながら、悠里は頷いた。
「ウリエルさん、お仕事があるんじゃないんですか?」
「いつも休日返上で働いてるんだ。今長期休暇を取っても文句は言わせないよ」
「ほんとに、何から何までお世話になって……」
恐縮する悠里を、ウリエルは笑った。
「何を今さら。俺はお前を守るって決めたんだ。気にすることはない」
その言葉に、コウメさまが「あら」と反応したが、ウリエルは無視して、リュール王国に行くために必要なことを話し出している。
手形の発行や準備で、出発までにはもうしばらく掛かりそうだったが、いよいよ始まったということに、悠里の気持ちも高揚してくる。
石灰を撒いた土も、出発をする頃には種を植えることが出来るようになる。
そうしたら、まず何を植えよう。
野菜じゃなくて、花の方がいいかな。
帰って来た時に満開の花に迎えられたら、凄く嬉しいな。
よし。また市場に行って、花の種を買って来よう。
悠里の中で期待がぐんぐん膨らんで行った。




