↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で家庭菜園やってみた  作者: 藤原ゆう
家庭菜園事始め
PR
17/91

3、助っ人登場に、どきどきです

「鍬!!鍬!!」と言い募る悠里に、コウメさまは溜め息をつくと、申し訳なさそうにこう言った。


「残念だけど、ここに鍬はないわ」


その言葉に悠里は目を瞠った。


「鍬が……ない……?」


じゃあ、どうやって土を?


「木の棒でね、こう、掘り起こすのよ」


なんて、非採算的!


悠里は驚きを通り越して、その労働に敬意まで覚えた。


「じゃあ、わたし、鍬を作ります!」


確かな決意を持ってそう言った悠里に、コウメさまは「あら、いいわね」と軽く応じた。


「この程度の畑で鍬までって思っていたのだけれど、やっぱり、あれば便利よねえ。じゃあ、お願いできるかしら?」


「はい。素材はやっぱり鉄ですか?」


「鉄……ねえ。ねえ、ユーリ。一人では何かと限界があるわ。一人、いい子を紹介してあげましょう」


良い事を思い付いたとばかりに、コウメさまはにっこりとして、そう言った。


「いい子……ですか?」


疑いの眼差しを向ける悠里に、コウメさまはそれでも笑顔を崩さない。


悠里は出来れば一人で畑をしたい。


そう思っていたから、彼女にとってコウメさまの提案は、あまりいいものとは言えなかったのだ。


「ええ、そう。とってもいい子よ」


ふふふと笑いを止められない感じのコウメさまは、何だかとってもノリノリだった。


(同じくらいの年なのに、うちのお祖母ちゃんのがお祖母ちゃんらしいな……)


悠里がそっと息を吐いたことなどコウメさまは知る由もなく、またまたどこに隠れていたのかと思うような侍女に、「ウリエルを呼んで」と言いつけている。


次女を見送ると、「ユーリはここを使うといいわ」とコウメさまの畑の横を指差した。


そこはまだ、薄い色の土が剥き出しになっている、何も生えていない場所だった。


「はい。ありがとうございます……」


「この痩せた土に、何を植える?」


「え、えっと……」


痩せた土地にすぐ植えるとすれば、イモ類だろう。


だが、イモはもう少し温かくなってからの方がいい。


だとすれば、地道に土作りをしていてもいいかもしれない。


悠里は頭の中で、祖母から聞きかじった畑作知識を総動員して考えた。


正直、悠里は土作りから始めるなど初めてだった。


それは、祖母がやってくれていたから。


「さあ、種を撒けますよ。苗を植えなさいよ」という状態になってから、悠里は手を出していた。


だから、基礎的な知識はあまりないのだ。


野菜は植えて、水をやっていれば、大抵実る。


存外自分は簡単なことしかやっていなかったのだと、悠里は改めて気付かされていた。


「えっと……石灰、撒きますかね。とりあえず」


「そうね。でも、あいにく今石灰がうちになくて。市場に行けばあるかしらね。今からくるウリエルに連れて行ってもらいなさいな」


「い、いえ。場所さえ教えて貰えれば、一人で」


「無理よ」


一人で行くと言い掛けたところを、バッサリ切られてしまった。


「石灰なんて重いもの、あなたが一人で持てる筈ないでしょう。一人で出来ない時は、誰かを頼ればいいって、わたくし言わなかったかしら?」


コウメさまには逆らえない。


祖母と重ねてしまうからか、コウメさま自身の強さなのか、悠里は完全にコウメさまの掌の上だった。


「おばあさま」


その声を聞いた途端、悠里の体に電流が走った。


思わず「うわっ」と叫んだほどだ。


「お呼びと聞いて参りましたが?」


振り向くと、そこにはこの世界には珍しい黒髪の美少年が立っていた。


さらさらと柔らかそうな黒髪を短く切り揃え、白シャツにゆったり目のパンツ。飾らない感じに好感が持てる。


何となくハーフっぽい顔立ちなのは、やはりそう言うことなのだろうか?


「あの、コウメさまのお孫さん?」


「ええ、そうよ。ウリエルというの。仲良くしてやってちょうだいね」


ぱちりとウィンクまでして、コウメさまはホホホと笑った。


「あれ、もしかして、その子……」


ウリエルも一目で気付いたのだろう。


少しびっくりした顔で、コウメさまを見た。


「ええ、日本から来たのよ。ユーリというの」


まるで「アメリカから来たの」くらいの気安さでコウメさまは言うと、ウリエルにユーリを市場に連れて行き、その後も彼女の手伝いをしてやってほしいと事細かに指示した。


「おばあさまの同郷の人なら、もちろんお手伝いしますよ。よろしく、ユーリ」


アシュラムとは違い神々しさはないけれど、親しみやすいその美少年スマイルに、悠里の心はすっかりトロトロに溶かされていた。


(だめよ。しっかり、悠里)


美形を見ればほだされる。このイケメン好き、自分でもどうにかしたい!


そんな悠里の葛藤など知る由もなく、ウリエルは「じゃあ、行きましょうか」と悠里を促している。


「お昼には戻れるかしら?ご飯、用意しておくわね」


「はい。おばあさま」


素直な孫に、コウメさまは嬉しそうにキスをして、悠里にも「気を付けて」と言ってくれた。


「はい。行って来ます」


「市場でいろんな物を見てくればいいわ。楽しいわよ」


「はい。ありがとうございます。コウメさま」


悠里は会釈して、すでに庭の入口まで言っているウリエルを追いかけた。


「市場か~」


これって、もしかして……。


この世界に来て、初めての自由?


そう思った途端、悠里の中に、このお出かけを歓迎する気持ちが生まれていた。


初対面の人だけれど、彼は日本人の血を引いている。


そのことも、悠里の気持ちを楽にさせているのかも知れなかった。


「ウリエルさん、急にすいません。わたしのこと、頼まれちゃって、迷惑でしたよね?」


前を行くウリエルに、悠里は遠慮がちに声を掛けた。


「え?なんで?」


「何でって、ウリエルさんにも用事があったかなって思って……」


「ああ。別に気にしなくていいよ。君が召喚されたって話は聞いていたし、いつかは紹介されるだろうって思っていたから。……まあ、まず最初に市場に一緒に行けって言われるとは、さすがに思わなかったけれど」


「はあ、ですよね……」


気弱く相槌を打つ悠里を振り向いたウリエルは、そこで立ち止まった。


どうしたのかと思いながら彼の所まで行くと、また歩き出した。


そこで、悠里が追いつくのを待ってくれていたのだと分かった。


今度は並ぶようにして歩いてくれる、ウリエル。


この世界の男性は、女性に優しいと思う。悠里のような子供にもだ。


王宮を出て、しばらく大通りを行くと、急に開けた場所に出た。


そこにテントを張った露店がたくさん並んでいた。


市場はどの世界も、同じような形態らしい。


賑やかな喧騒は、お祭りのようで、悠里の心は少し高揚していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。