↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔AI  作者: 葉流風あやめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/12

第7話『天才すぎる男』 

龍が売れ始めてから、現場への移動には、ほとんど末村が付き添うようになっていた。


仕事が増え、移動も多い。


この日も、末村が運転する車の後部座席に龍が座っていた。


「今日、バラエティーの収録が終わったら、そのまま次の打ち合わせだからね」


「はい」


「売れっ子は大変だなぁ」


末村が笑う。


「末村さんが仕事を取ってきてくれるからですよ」


「お、珍しく褒めるじゃん」


「本当のことです」


そんな会話をしながら、車は都内の道路を走っていた。


龍は窓の外を眺めていた。


交差点。


信号。


歩行者。


自転車。


前方を走る車。


その瞬間だった。


龍の視線が、右側の道路へ向いた。


「……待って」


「ん?」


「末村さん、少し速度を落としてください」


「え?」


「右から車が来ます」


「見えてるよ?」


「違います」


龍は前方を見た。


「……あの車、止まりません」


末村がアクセルから足を離す。


次の瞬間。


右側から、一台の車が交差点へ進入してきた。


信号は赤だった。


「うわっ!」


末村が急ブレーキを踏む。


車が停止した。


目の前を、猛スピードで横切っていく車。


あと数秒遅ければ、衝突していた。


「……っ」


車内が静まり返った。


末村はハンドルを握ったまま、固まっている。


「……今の、見えた?」


龍が聞いた。


「いや……」


末村は息を吐いた。


「龍くん、よく分かったな」


龍は答えられなかった。


なぜ分かったのか、自分でも分からない。


ただ――


車の速度。


距離。


信号が変わるまでの時間。


相手の車の進行方向。


それらが、頭の中で一瞬にして組み合わさっていた。


「……なんで、俺……」


龍は自分の手を見た。


以前の自分なら、あの瞬間に気づけただろうか。


分からない。


でも、チップを入れてから。


何かがおかしい。


記憶するだけじゃない。


頭の中で、何かを処理する速度まで変わっている。


「……龍くん?」


「大丈夫です」


龍は前を向いた。


「行きましょう」


車は再び走り出した。


そしてそのまま、バラエティー番組の収録現場へ向かった。


*


「龍くん、おはよう!」


スタジオに入ると、番組プロデューサーが手を振っていた。


「おはようございます」


「今日はバラエティーだから、あんまり緊張しなくていいよ」


「はい」


「料理企画もあるみたいだぞ」


「料理ですか?」


「そう。龍くん、料理できる?」


龍は少し考えた。


「……普通には」


「じゃあ大丈夫だな」


プロデューサーは笑った。


龍自身も、深く考えていなかった。


料理なんて、これまで特別に勉強したことはない。


家で簡単なものを作る程度だった。


スタジオには、番組MCのお笑い芸人と、美人アナウンサーが並んでいた。


お笑い芸人が、慣れた様子でカメラに向かって叫ぶ。


「レシピを見なくても、おいしく料理を作れるかな? コーナー!!」


スタジオから拍手と歓声が上がる。


「それでは、料理スタート!」


エプロンを巻いた龍が、目の前に並べられた食材を見る。


鴨胸肉。


フォアグラ。


ポルチーニ茸。


エシャロット。


赤ワイン。


バルサミコ酢。


生クリーム。


ハーブ。


見たことはある。


だが、料理に使ったことはない。


「……これ、何を作るんですか?」


龍が尋ねる。


美人アナウンサーが笑顔で答えた。


「今日は本格フレンチです!」


「……フレンチ」


龍は食材を見つめた。


「龍さん、フレンチは作ったことありますか?」


「ないです」


「ですよね!」


スタジオから笑いが起こる。


MCが楽しそうに笑った。


「さあ、龍くん! レシピは一切見せません!」


「はい」


「料理の経験だけを頼りに、作ってもらいます!」


「分かりました」


龍は鴨胸肉を手に取った。


指先で皮を触る。


少し考える。


「……これ、皮から焼いたほうがいいですね」


「え?」


料理人が振り向いた。


「最初に皮から焼いて、脂を出したほうがいいと思います」


「……そうですね」


料理人が頷く。


「じゃあ、やってみましょう」


龍はフライパンを温めた。


鴨肉を皮目から置く。


ジュッ――。


脂がゆっくりと溶け出していく。


龍は火を少し弱めた。


「強火じゃないほうがいいと思います」


「どうして?」


「皮だけ焦げそうなので」


料理人が龍を見る。


「……なるほど」


龍は鴨肉を焼きながら、横に置かれたポルチーニ茸を見た。


「これ、ソースに使いますよね?」


「はい」


「だったら、先に香りを出したほうがいいと思います」


フライパンを変える。


ポルチーニ茸を炒める。


香りが立った。


龍は赤ワインを手に取る。


「これを入れて……」


「ちょっと待って!」


MCが割って入った。


「龍くん、本当にレシピ見てないよね?」


「見てないです」


「なんで分かるの?」


「……分かりません」


「分からないのに作ってるの?」


「はい」


スタジオが笑いに包まれた。


龍も苦笑する。


けれど、手は止まらなかった。


赤ワイン。


エシャロット。


バルサミコ酢。


生クリーム。


味を見ながら、ほんの少しずつ調整していく。


「……ここ、蜂蜜を少し入れてもいいですか?」


スタッフが驚いた顔をする。


「蜂蜜?」


「はい。酸味が少し強いので」


料理人が味見をする。


「……確かに」


「じゃあ、ほんの少しだけ」


龍が蜂蜜を加える。


もう一度、味を見る。


「……これで大丈夫です」


鴨肉を切る。


中はきれいな色をしていた。


皿に盛り付ける。


ソースをかけ、ハーブを添える。


「完成です!」


美人アナウンサーが声を上げる。


「すごい……!」


スタジオから拍手が起こった。


「では、いただきます!」


MCが一口食べる。


数秒、黙る。


「…………」


龍が不安そうに見る。


「どうですか?」


MCがゆっくり顔を上げた。


「……うまっ!」


スタジオが一気に沸いた。


「ええええ!」


「本当に!?」


美人アナウンサーも料理を口にする。


「……おいしい!」


料理人も一口食べた。


そして、少し驚いた顔をする。


「……初めて作ったんですよね?」


「はい」


「これ、本当に?」


「はい……」


龍自身も戸惑っていた。


MCが龍を見る。


「いや、ちょっと待って!」


「はい?」


「お前さぁ!」


MCが立ち上がる。


「イケメンで!」


スタジオが笑う。


「演技できて!」


さらに笑いが起こる。


「料理もできるって!」


MCが両手を広げた。


「俺らどうすんねん!」


スタジオが大爆笑した。


「いやいやいや!」


龍も思わず笑った。


「そんなことないですよ!」


「あるって!」


「料理なんて、たまたまですから」


「その『たまたま』でフレンチ作るな!」


また笑いが起こった。


龍も笑っていた。


楽しかった。


こんなふうに、大勢の人に囲まれて笑うことができる。


少し前までの自分には、考えられなかった。


収録は、その後も順調に進んだ。


スタッフからも、


「龍くん、面白いね」


「また番組に出てほしい」


そんな声をかけられた。


*


収録が終わると、龍は末村と次の仕事の打ち合わせをした。


次のドラマのスケジュール。


映画の撮影日。


新しいCMの打ち合わせ。


話が終わった頃には、もう夜になっていた。


「じゃあ、今日はここまでにしよう」


「はい。お疲れさまでした」


末村と別れ、龍は一人になった。


龍は椅子に座り、ペットボトルの水を飲んだ。


「……疲れた」


ふっと息を吐く。


今日一日のことを思い返す。


交差点。


車。


自転車。


そして、料理。


龍は眉を寄せた。


「……味まで、こんなに分かったっけ?」


ペットボトルを机に置く。


さっき食べた鴨肉を思い出す。


皮の香ばしさ。


肉の温度。


脂の甘さ。


ポルチーニ茸の香り。


赤ワインの渋み。


バルサミコの酸味。


ほんの少し加えた蜂蜜の甘さ。


すべてが、まるで今、口の中にあるように鮮明だった。


龍は目を閉じた。


もう一度、味を思い出す。


――分かる。


香りも。


温度も。


舌触りも。


どんな順番で味が広がったのかまで。


はっきりと再現できる。


龍はゆっくり目を開けた。


「……俺の脳、どうなってるんだ?」


返事をする人は、誰もいなかった。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


HAPPY HALLOWEEN


「悪魔AI」は、まだ終わらない――。


TO BE CONTINUED


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。