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悪魔AI  作者: 葉流風あやめ


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第4話 忘れられない

「龍くん、次の作品決まったよ」


マネージャーの末村の言葉に、龍は顔を上げた。


「本当ですか?」


「うん。ドラマの主要キャスト」


「……俺が?」


「そう。監督が前回の演技を気に入ったみたい」


龍は思わず笑った。


「ありがとうございます」


「それだけじゃないよ」


末村がスマートフォンを見せる。


「映画のオーディションも来てる」


「映画……」


「それからCMの話も」


龍は画面を見つめた。


数週間前まで、セリフを覚えられないことで悩んでいた。


台本を何度読んでも覚えられない。


撮影では、いつもセリフを間違える恐怖と戦っていた。


それが今は――


仕事の話が、次々と舞い込んでくる。


「……すごいな」


自分でも信じられなかった。


末村が笑う。


「龍くん、最近変わったよね」


「え?」


「前は台本をずっと抱えてたじゃん」


「ああ……」


「今じゃ、撮影前に台本を開いてるところすら見ない」


龍は笑った。


「覚えちゃうんです」


「それ、俳優として最強じゃない?」


末村も笑った。


龍も笑った。


今まで欲しかったものが、少しずつ手に入っていく。


――そう思っていた。


*


数日後。


新しいドラマの撮影が始まった。


今回の役は、最愛の妻を病気で亡くした男。


龍は台本を一度読む。


妻との思い出。


病院での別れ。


最後の会話。


そして――


妻が亡くなったあと、一人で暮らす日々。


「……」


龍は台本を閉じた。


胸の奥が、少しだけ重くなった。


「まただ……」


前にもあった。


台本を読んだだけなのに、感情が動く。


でも今回は、前より強かった。


*


撮影初日。


病室のセット。


ベッドに横たわる妻役の女優。


龍は、その横にある椅子に座った。


「あなた……」


彼女が弱々しく笑う。


「大丈夫だから」


龍は彼女の手を握った。


「……大丈夫じゃないだろ」


声が震える。


「俺、分かってるから」


目から涙が落ちた。


「まだ、言いたいこといっぱいあるんだよ」


妻役の女優が、龍を見つめる。


龍は何も言わない。


ただ、握った手に力を込める。


「お願いだから……」


声が震える。


「俺を置いていかないでくれ」


涙が止まらない。


カメラの前にいることさえ、忘れていた。


「カット!」


監督の声が響いた。


しばらく、誰も動かなかった。


監督が立ち上がる。


「……すごい」


龍は顔を上げた。


「ありがとうございます」


監督が近づいてくる。


「龍くん」


「はい」


「今の、どうやった?」


「……分かりません」


「分からない?」


「役の気持ちになったら……自然に」


監督は笑った。


「やっぱり、君は憑依型だな」


*


撮影が終わった。


龍は控室に戻った。


メイクを落として、鏡を見る。


泣き腫らした目。


「……」


しばらく自分の顔を見つめる。


すると――


胸が苦しくなった。


「……」


涙が一滴落ちる。


「……なんで?」


撮影は終わった。


役も終わった。


なのに――


悲しい。


本当に悲しい。


龍は目を閉じた。


すると、頭の中にさっきの病室が浮かんだ。


妻役の女優。


白いシーツ。


握った手。


「俺を置いていかないでくれ」


自分の声。


「……」


龍は頭を振った。


「もう終わったんだ」


そう言い聞かせる。


「これは演技だ」


でも、感情は消えなかった。


*


その夜。


龍は自宅に帰った。


シャワーを浴びて、髪を適当に乾かした。


作った野菜炒めを食べながら、テレビをつける。


おもしろいドキュメンタリーが放送されていて、龍は思わず見入ってしまった。


しばらくして、番組が終わる。


龍はテレビを消した。


ベッドに入り、目を閉じる。


すると――


また、映像が浮かんだ。


妻が笑っている。


そして――


「大丈夫だから」


「……やめろ」


龍は目を開けた。


「もういい」


それでも映像は消えない。


龍はスマートフォンを手に取った。


時刻は午前二時。


眠れない。


龍は闇医者にメッセージを送った。


『先生』


しばらくして返信が来る。


『どうしました?』


『役のことが頭から離れません』


少し間があった。


『どんな役ですか?』


龍は説明した。


妻を亡くした男の役。


撮影は終わったのに、感情が残っていること。


すると――


『正常です』


龍は眉をひそめた。


『正常?』


『はい』


『でも、苦しいです』


しばらく返信が来なかった。


やがて――


『あなたは記憶できるようになっただけではありません』


龍の指が止まった。


『どういう意味ですか?』


既読がつく。


『あなたは、体験した感情も保存できるようになっています』


「……」


龍は画面を見つめた。


『それって……』


『役を演じたときの感情が、記憶として残るということです』


龍の顔が強張る。


『じゃあ、ずっと残るんですか?』


しばらくして、返信が届いた。


『忘れない限りは』


「……」


龍はスマートフォンを握りしめた。


そして――


ふと気づく。


「忘れない限り?」


その言葉が引っかかった。


龍は画面を見つめる。


『先生』


『はい』


『このチップを入れたら……』


少し迷ってから、入力する。


『俺は、忘れられなくなったんですか?』


既読。


しかし――


返信が来ない。


一分。


二分。


五分。


龍はスマートフォンを置いた。


そのままベッドに横になる。


眠れない。


目を閉じる。


するとまた――


病室が浮かんだ。


「あなた……」


妻役の声。


「大丈夫だから」


龍は目を開けた。


「……もう、やめてくれ」


誰もいない部屋。


静寂。


龍は天井を見つめた。


そして、ふと思った。


もし、この記憶が消えなかったら。


もし、この感情も消えなかったら。


――俺は、いつまでこの役を演じ続けるんだ?


龍は目を閉じた。


病室の光景が、また浮かんだ。


何度目かも分からない。


そしてその夜、龍は初めて知った。


記憶することは――


忘れないことなのだと。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


HAPPY HALLOWEEN


「悪魔AI」は、まだ終わらない――。


TO BE CONTINUED


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


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