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悪魔AI  作者: 葉流風あやめ


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2/12

第2話 闇医者

龍は、スマートフォンの画面を見つめていた。


検索欄には、


『記憶力を上げる方法』


と表示されている。


これまでにも、何度も調べた。


声に出して読む。


何度も書く。


録音した自分の声を聞く。


寝る前に覚えて、朝起きて復習する。


それでも――台詞だけは、頭から抜け落ちていった。


「……なんでだよ」


龍はスマートフォンを握り直した。


俳優になりたい。


その気持ちだけは、誰にも負けたくなかった。


だから、諦めるわけにはいかなかった。


さらに検索する。


『脳 記憶力 研究』


『脳 記憶 最新技術』


『脳とコンピューター 接続』


すると、いくつかの記事が表示された。


脳に電気刺激を与えて記憶を補助する研究。


脳とコンピューターを接続する技術。


そして――


AIによる脳機能の拡張。


「AI……」


龍は、その言葉を小さく呟いた。


さらに調べていく。


『AI 記憶力 脳』


『脳チップ 記憶』


『AI 脳チップ』


けれど、出てくるのは研究段階の情報ばかりだった。


一般の人間が受けられるようなものではない。


「……そんな簡単にできるわけないか」


龍はため息をついた。


それでも検索をやめられなかった。


画面をスクロールしていく。


そして――


古い掲示板の書き込みが目に入った。


投稿されたのは、数年前。


そこには、短い文章だけが残されていた。


『昔、脳にAIを入れてもらったっていう人がいたらしい』


「……え?」


龍の指が止まる。


詳しいことは書かれていない。


ただ、その下に一つだけ返信があった。


『本当に探してるなら、普通の病院を探しても無駄だよ』


「……」


龍は画面を見つめた。


そんなものが、本当に存在するのか。


馬鹿げている。


そう思った。


なのに――


指は、検索欄へ向かっていた。


『AI 脳 違法』


検索する。


『記憶 脳チップ 治療』


さらに、


『AI 記憶力 脳 医師』


何度も言葉を変えて検索する。


しばらくして、龍の画面に見慣れないサイトが表示された。


画面は簡素だった。


病院名もない。


医師の名前もない。


ただ、一つだけ質問が表示されていた。


『本当に記憶力を変えたいですか?』


「……」


龍は画面を見つめた。


胸の奥がざわつく。


怖い。


でも――


俳優を諦めるほうが、もっと怖かった。


龍は、ゆっくり文字を入力した。


『はい』


送信。


数秒後。


画面に返信が表示された。


『では、明日の23時。指定された場所へ』


その下に、住所が表示された。


都内の古いビル。


病院の名前もない。


医師の名前もない。


ただ、住所だけ。


龍はスマートフォンを握りしめた。


「……本当に行くのか?」


怖かった。


それでも――


行くしかない。


*


翌日。


23時。


龍は、指定されたビルの前に立っていた。


古びた建物だった。


一階には何もない。


龍は一度だけ周囲を見回した。


誰もいない。


エレベーターに乗り、指定された階へ向かう。


扉が開いた。


薄暗い廊下。


一番奥に、白いドアがある。


龍は、ゆっくりノックした。


「……どうぞ」


中から男の声がした。


龍がドアを開ける。


そこには、一人の男が座っていた。


白衣を着た、背の高い男だった。


四十代くらいに見える。


肌は驚くほど白い。


口元には、白い髭。


垂れた目に、すっと通った高い鼻。


一見すると、穏やかで優しそうな印象だった。


けれど――


龍は、その男を見た瞬間、なぜか背筋が冷たくなった。


「龍さんですね」


「……はい」


「座ってください」


龍は椅子に座った。


男はパソコンの画面を見ながら言った。


「俳優を目指している」


「はい」


「演技力には問題がない」


「……」


「ただ、セリフを覚えられない」


龍は驚いた。


「どうして、それを……」


男は顔を上げた。


「あなたが書き込んだんですよ」


「……え?」


「昨日のサイトに」


龍は黙った。


男はパソコンの画面を龍に向けた。


そこには、龍が昨日検索した内容が表示されていた。


『記憶力を上げたい』


『脳にAIを入れる』


『俳優 セリフ 覚えられない』


龍の顔が強張る。


「……これ、普通のサイトじゃないですよね」


男は静かに笑った。


「ええ」


そして、パソコンを閉じた。


「ここは病院ではありません」


「……」


「私は医師免許を持っています」


男は淡々と続けた。


「ですが、ここで行っていることは、法律では認められていません」


龍は立ち上がりかけた。


「じゃあ……」


「帰りますか?」


男は静かに尋ねた。


龍は動けなかった。


男は龍を見つめる。


「あなたが探しているのは、普通の治療ではないでしょう?」


「……はい」


「記憶力を上げたい」


「はい」


「絶対に忘れない脳が欲しい」


龍は少し迷ってから答えた。


「……はい」


男は、ゆっくり立ち上がった。


部屋の奥にある扉を開く。


そこには、大きな医療用の機械が置かれていた。


その中央に――


黒い小さなチップが一つ。


龍は息を呑んだ。


「これが……?」


「AI記憶補助チップです」


「本当に、記憶力が上がるんですか?」


「上がります」


即答だった。


「どのくらい?」


男は龍を見る。


「一度見たものを、ほぼ完全に記憶できます」


「……ほぼ?」


「人間の脳には限界がありますから」


「じゃあ、台本も?」


「一度読めば覚えられます」


龍の目が変わった。


「……本当に?」


「ええ」


龍は黒いチップを見つめた。


ずっと欲しかったもの。


これがあれば――


セリフを覚えられる。


俳優を続けられる。


夢を諦めなくていい。


「いくらですか?」


男は少し黙った。


「お金は要りません」


「……え?」


「代わりに、契約してもらいます」


龍は眉をひそめた。


「契約?」


男は微笑んだ。


「このチップを入れたあと、何が起きても私を責めないこと」


「……何が起きるんですか?」


男は答えなかった。


ただ、龍を見つめている。


「それでも、入れますか?」


龍はチップを見た。


怖い。


でも――


俳優を諦めることのほうが、ずっと怖かった。


「……お願いします」


男は微笑んだ。


「分かりました」


そして、龍に告げる。


「最後に一つだけ」


「はい」


「記憶することは、忘れることより簡単です」


「……?」


男は、少しだけ間を置いた。


「でも、人間にとって本当に必要なのは――」


白い髭の奥で、男の口元がわずかに動いた。


「忘れることかもしれません」


龍には、その意味が分からなかった。


「……大丈夫です」


男は静かに頷いた。


「では、始めましょう」


手術室のドアが閉まる。


龍はベッドに横になった。


頭に装置が固定される。


白いライトが目に焼きついた。


視界の端に、黒いチップが見えた。


「これを入れれば……」


龍は小さく呟いた。


「俺は、俳優になれる」


その言葉を最後に――


意識が遠のいていった。


そして男は、誰もいない部屋で静かに呟いた。


「……契約成立」


その瞬間。


モニターに文字が表示された。


『MIND CHIP』


『接続準備完了』


『対象者:RYU』


『記憶領域:接続』


『感情領域:接続』


『人格領域:接続』


男は画面を見つめる。


そして――


小さく笑った。


「さて……」


「あなたは、何を忘れられなくなるのでしょうね」


画面が暗転した。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


HAPPY HALLOWEEN


「悪魔AI」は、まだ終わらない――。


TO BE CONTINUED


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

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