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悪魔AI  作者: 葉流風あやめ


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10/12

第10話『完璧な俳優』

チップを入れてから、半年が過ぎた。


神谷龍の名前は、いつの間にか誰もが知るようになっていた。


ドラマの主演は各シーズンに必ずあり、映画の主演もひっきりなしだ。


CMは七社。


書店やコンビニには、龍が表紙を飾った雑誌が並んでいる。


SNSのフォロワーは、二百万人を超えていた。


「龍くん、また主演のオファー来てるよ」


マネージャーが新しい台本を渡す。


「ありがとうございます」


龍は台本を受け取った。


表紙を開く。


数ページめくる。


そして、静かに閉じた。


*


「よーい……スタート!」


ドラマの撮影が始まった。


龍が役に入った瞬間、現場の空気が変わった。


怒り。


悲しみ。


愛情。


絶望。


すべてが本物に見える。


相手役の俳優も、龍の演技に引き込まれていく。


台本には書かれていない感情まで、自然に引き出されていた。


「カット!」


監督が立ち上がった。


「……すごい」


しばらく、誰も動かなかった。


「龍、今の……」


「はい?」


「今までで一番よかった」


「ありがとうございます」


龍は丁寧に頭を下げた。


スタッフから拍手が起こる。


龍は笑った。


半年前まで、こんな場所に立っている自分を想像することさえできなかった。


*


撮影の休憩中。


龍は控室でスマートフォンを見ていた。


通知が大量に届いている。


『龍くん、今日もかっこいい!』


『演技うますぎる』


『新ドラマ楽しみ!』


『国宝級俳優』


龍は画面を眺めながら、小さく笑った。


そのとき、メッセージが届いた。


『今度、ご飯行きませんか?』


人気女優からだった。


龍は少し考えてから返信する。


『お誘いありがとうございます』


『今月は撮影が続いていて、なかなか時間が取れそうにありません』


『また撮影でお会いしたときに、ゆっくりお話ししましょう』


送信する。


すぐに返信が来た。


『わかりました』


龍はスマートフォンを伏せた。


*


事務所の壁には、龍が出演したドラマや映画のポスターが並んでいた。


何人かの俳優が、その前で話している。


「神谷龍って、スキャンダルないよね」


「ないね」


「女の子からあんなにモテてるのに?」


「そもそも、遊んでる暇がないんじゃない?」


「それに、誰に対しても丁寧だよね」


「スタッフへの態度もいいし」


「スポーツもできるんでしょ?」


「何でもできるらしいよ」


すると、一人の俳優が笑った。


「俺なんて、誕生日プレゼントにマーティンキムのTシャツもらったんだよ」


「マーティンキム?」


「そう。俺が好きって言ったの、覚えててくれたんだ。誕生日まで」


「それは男でも惚れるやつ!」


「ははは!」


その場に笑い声が広がった。


*


ある日の撮影現場。


事件現場に潜入捜査するシーンで、龍は見事なアクションを披露した。


「カット! 龍くん、よかったよ! アクションまで完璧だよ! かなりギリギリを攻めるから、ハラハラしたよ!」


監督が興奮した様子で声をかける。


「ありがとうございます」


龍は深々と頭を下げた。


「それでは、休憩入りまーす!」


ADが叫んだ。


龍は水を飲み、椅子に腰を下ろした。


ベテラン俳優が龍を見ながら笑った。


「しかし、お前は本当に隙がないな」


「そうですか?」


「ああ」


男は龍を眺める。


「演技も完璧」


「ありがとうございます」


「セリフも一発で覚える」


「まあ……」


「スポーツもできる」


「普通ですよ」


「顔もいい」


「それは……ありがとうございます」


周囲から笑い声が起こる。


ベテラン俳優も笑った。


そして、少しだけ間を置いて言った。


「でもな」


「はい?」


「完璧すぎて……なんだか作り物みたいだ」


一瞬。


龍の笑顔が止まった。


「……」


けれど、すぐに笑った。


「よく言われます」


周囲も笑った。


龍も笑った。


ただ――


胸の奥に、小さな違和感だけが残った。


*


その夜。


ホテルの部屋。


龍は窓の外を眺めていた。


東京の夜景が広がっている。


スマートフォンを見る。


フォロワー数。


2,000,000。


「……二百万人か」


少し考えてから、笑った。


「そろそろインスタライブ、始めようかな。末村さんに聞かないとな」


龍はベッドに腰を下ろした。


ふと、あの医師の言葉を思い出す。


『記憶することは、忘れることより簡単です』


龍は少しだけ眉をひそめた。


そして、小さく笑った。


「……チップを入れて、よかった」


東京の夜景が輝いている。


龍は微笑んだ。


ガラスに龍の姿が映る。


「俺は……売れたんだ」


*


その頃。


誰もいない真っ暗な部屋で、ひとつの画面が光っていた。


『RYU』


『MEMORY 100%』


『EMOTION 100%』


『PERSONALITY 98%』


『ACTING DATA 100%』


数字が、一つずつ更新されていく。


『COPY : 01』


『LEARNING COMPLETE』


そして――


『DIGITALIZATION : READY』


画面が暗くなった。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


HAPPY HALLOWEEN


「悪魔AI」は、まだ終わらない――。


TO BE CONTINUED


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

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