四
愛子は、自分の部屋で目を覚ました。カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。
「夢……」
頭の中に、まだ光の感触が残っていた。あの言葉。一番目の願い。二万通りの電球。そして——母。
愛子は布団から出て、台所に向かった。母は既に起きていて、味噌汁を作っていた。
「おはよう、愛子。早いね」
「おはよう、お母さん」
愛子は、しばらく母の背中を見ていた。エプロン姿で、いつも通り、丁寧に出汁を取っている母。けれど、愛子はふと、その背中に、何かを感じた。長い時間をかけて、何かを丁寧に「畳んでしまった」人の背中。
「お母さん」
「なに?」
「お母さんは……昔、何になりたかったの?」
母の手が、一瞬、止まった。
「どうして、そんなこと聞くの?」
「なんとなく」
母は、少し笑って、また鍋をかき混ぜ始めた。
「昔のことだから、もう覚えてないなあ」
その答え方が、あまりに静かで、あまりに自然で——逆に、愛子には、それが「触れてはいけない場所」であることが、よくわかった。
愛子は、それ以上聞かなかった。けれど、心の中で、そっと決めた。
——いつか、知りたい。お母さんの一番目の願いが何だったのか。そして、それが、どうして「手放された」のか。
それは、夢の中の光が見せた「電球」とは違う形をしているけれど、愛子にとって、確かに——「真実を確かめたい」という気持ちは、強く、消えなかった。




