レベルアップから爆音まで
ピコピコテッテッテテーン
変な音が頭の中で響きました。
(レベル2に上がりました)
そして聞こえてくる誰かの声。
どうやらゾンビを倒すとレベルが上がるようです。
なんてことはありません。
べ、別に期待してたとか、そんなことないですよ?
「それはそうと卓弥さ……卓弥さん!?なんで泣いてるんですか!?」
「気にしないでください」
「え?え、えぇ。わ、分かりました」
あぁ、そうでしたね、裏口を塞がなきゃいけないんでしたね。運良くゾンビは一体だけだったようで。あ。
さっき食べられていた人が起き上がりました。
ゾンビ化したのでしょうか。きっとそうなのでしょう。
右腕から右の上半身にかけて食いちぎられた跡がありますが全く気にする様子がないですね。普通の人間なら痛みに堪えられませんし、あれだけの傷なら失血死していてもおかしくはないはずです。
幸いこちらに気がついていない様子ですね。
サクッと倒しておきましょう。
ふぅ、息を一息。そして意識を集中させる。
こちらに向けている背中に助走をつけた前蹴りを放つ。うつ伏せに倒れたそれの背に手早く馬乗りになる。視覚と聴覚のみで人を捜すゾンビだからか未だ自分に気づいていないようで起き上がろうとジタバタしている。ふと見ると近くに台があり上に色々なものが置いてある。その中の重くて硬そうなものを手に取り、振りかぶってそいつの後頭部に叩きつけた。まだ動いている。再度叩きつけた。頭蓋骨が割れたような感触があった。だがまだ動いている。その後何度か叩きつけるも動きを止めない。
さっきのは首を折ると動かなくなった。
今度は首の後ろを狙い叩きつける。
首の骨が折れた音とともにあっさり動かなくなった。
ふぅ、ようやく倒しました。
とどめを差した手の中のそれはどうやら香炉のようですね。台の上を見ると位牌やら仏壇セットが置いてあります。
そして今しがた倒したゾンビを見ると白い浴衣のようなものを着ています。死に装束というものでしょうか。
つまり、このゾンビは霊安室に安置されていた死体で、先ほど噛まれたからか復活し立ち上がった、とそういうことでしょう。
死者へのお供え物で再度死者にするとは。なかなか皮肉が効いていますね。
それとゾンビについて三つほど分かったことがあります。
まず一つ、ゾンビは死体の肉でも食らう、ということ。
二つ目、死者が噛まれるとゾンビになる、ということ。
そして三つ目、弱点は首、もしくはその周辺、ということ。
死体を見つけたら首をへし折っておくようにしましょう。
死者を冒涜するようで嫌ですが彼らとてゾンビになりたいとは思わないでしょう。
ふと振り向くとみずきちは思考停止、恵美ちゃんは吐瀉っています。あぁ、ゾンビの倒し方が少し残虐過ぎましたかね。
たしかに、死者ゾンビを見るとR18なくらいグログロな死に様をしています。なんかごめんね。
あ、とっとと裏口を塞ぎましょう。とりあえず仏壇セットが置いてある台を裏口の前へ。想像していたよりもなかなか重く、引き摺るように押していきます。この重さなら扉の前に置くだけで十分な効果を発揮してくれるでしょう。
見るとみずきちも恵美ちゃんも少しげんなりしていますが元に戻ったようです。
「…………卓弥さん一人に任せておくべきでした」
「あれは脳みそあれは脳みそあれは…うふふふふふふ」
訂正。恵美ちゃんは元に戻っていないようです。
霊安室から出てロビーに戻ってきました。
その間に恵美ちゃんも元通りです。
「…へ、部屋での記憶が曖昧です」
脳の処理が間に合わずいくつか記憶を削除したのでしょう。あり得ない方向に曲がった人の首とか、飛び散る鮮血とか脳みそとかとか。
それにしても左手が折れてるのがつらいですね。だいぶ出来ることが制限されます。いつどうして折れたのでしょうか。
それも含め、みずきちに聞かなければいけませんね。今までバタバタしていたので聞けませんでした。
「みずきち」
「はい、なんでしょうか。というかその愛称は決定ですか?」
「記憶を失う前の僕とはどういう関係でした?あと記憶を失った理由、左手が折れてる理由なども教えてください」
「あぁ、たしかに。話していませんでしたね」
あれは半年ほど前の話でした。
もう日本にはゾンビが跳梁跋扈し私達の大「いや回想とか要らないです」
え、回想ダメですか?「ダメです」
いきなりみずきちが語り出すので驚きました。長々とあなたの話を聞く気はありませんよ。あとおそらく言いかけたのは「私達の大学」でしょう。友人や、家族、おそらく今一緒にいない、ということは
「聞いていくので簡潔に答えてください」
「え、あ、はい。分かりました」
「僕とあなたの関係性は?」
「えぇと、一ヶ月ほど前に卓弥さんに助けてもらいました。そしてそれから一緒に行動していました」
……あなたさっき回想で半年前とか言っていませんでしたか?長々とみずきちヒストリーを聞かせる気でしたか?
まぁ、それはさておき。ということは一ヶ月前に会うまでは面識の無かった人ですかね。
「僕の記憶喪失と左腕の骨折は何故か知ってますか?」
「三日前にそこの階段で」
とロビーの向こうを指差すみずきち。方向的にさっき上から降りてきた階段ですね。
「そこの階段で足を滑らせて転落しました。頭と左腕を強く打ち三日間寝たきりでした」
うわ、超ダサい。
なんか、もっと、こう、人を守ろうと体を張ってこうなってしまった、とか、命からがら敵から逃げたがその際に負傷を負った、とかかっこいい理由があるものだと信じて疑わなかったのですが。
えー、足を滑らせて階段コロコロですか。
それでこのザマですか。
「心配したんですよ?頭を強く打っていて、ずっと昏睡状態になってしまっていました。くすもと先生も、設備もないし出来ることがない。彼を信じて待つしかない、とおっしゃって」
えぇと、階段コロコロでもそんなヤバいことになるのですね。気を付けましょう。それにみずきちに心配をかけてしまったようです。
「すみません、心配をかけて。あと僕を待っててくれてありがとう」
みずきちは驚いたような表情をしたあとすぐに顔を逸らしてしまいました。
「どうしました?」
「別に!なんでもないです!」
「イチャつくのはそこまでにしてもらえませんか?」
そうでした、恵美ちゃんを忘れていました。見ると据わった目付きでこちらを見ています。ゾクゾクしそうなのでやめてください。
「い、イチャついてなんていませんよ!」
「ふーん、なら良いんですけど」
恵美ちゃんにしては珍しく口ごもらずに堂々と話していますね。こっちの話し方のほうがしっくり来るので元はこういう子だったのでしょうか。
「……お、お兄さん?な、なんで私を見つめるのですか?」
あ、口調が戻りました。
「すみません、恵美ちゃんがかわいかったので見惚れていました」
当たり障りのない台詞でてきとうにその場を濁して置きましょう。あまり人を観察してその人の過去を想像するのは良くないことですもんね。
見るとみずきちと恵美ちゃんが真っ赤になっています。
「なんで私にはそんなこと言ってくれなかったのに!私はかわいくないですか!!ねぇ!!」
「か、かわいい、かわいい。ふふ」
あれ、おかしいな。当たり障りのない台詞のはずだったのですが。
て、みずきち近い近い近い。
「みずきちもかわいいですよ?」
「え、そ、そんな、急に言われると、え、あの、ええ」
みずきちもなにやらモジモジし始めました。
どうやら、かわいい、は効果抜群のようですね。覚えておきましょう。
いきなり上の階から大きな音が響きました。あまりの音の大きさに耳がいかれたのかキーンという耳なりしか聞こえないほど。
なにかものが落ちてきたような、なにか重いものが激突したような、そんな音です。上に誰かいましたっけ。あ、くすもと先生とやら?というよりこの病院、他に人はいないのでしょうか。確認がてら見に行きましょう。
みずきちと恵美ちゃんは音に驚いてしゃがみこんでしまっています。
「僕が様子を見てくるので待っててください」
それだけ告げ走り出しました。
なにか嫌な予感がします。




