3.それは呪いの言葉のように(2)
王都の市民にはすでに外出禁止令が出ているらしく、外にいる人はとても少ない。
その少数の人たちも、青い顔をして自宅や避難先を目指して必死に走っている。
それほどまでに、王都の市民にとって聖女の守護が切れたことは大問題なのだ。
カルミナはジリジリと焦げる範囲を広げている空の真下を目指して、王都の街を足早に抜ける。
近づけば近づくほど焦げ臭いにおいも強烈になっていった。
「(あと1区画……!)」
空が焼け焦げている場所の真下に辿り着いたカルミナは、空を見上げる。
空の焼けた部分には黒々とした闇が広がっていた。
「あ、あの、カルミナ様……! 先ほどから空になにかあるのですか……?」
「…………」
答えたところでフィンフィールには見えないのだろう。
カルミナは焦げ付く空を睨むと両手をかざした。
距離感はわからない。
どうやったらあの焦げ付く部分を止められるのかもわからない。
けれども、自分が生きる未来のために、何かせずにはいられないとカルミナの心が訴えていた。
「『世界を満たす水の理よ。雲を招き、風を鎮め、乾いた大地に慈雨をもたらせ。万物を潤す恵みの雫よ、今こそ天蓋を越えて降り注げ。《天雨》』!」
まず試すなら、火には水……!
カルミナは大地に雨を呼ぶ魔術を唱えた。
曇天がぐるぐると渦を巻いて、ジリジリと焦げ広がっていく空に横殴りの雨を降らせる。
「(…………止まらないか……)」
雨を受けても空は焦げ付き闇が広がっていく。
「(……もっと近づかないと……どうしてああなってるのかがわからなければ、きっと止めることもできない)」
カルミナが上空へ舞い上がるために、足に風魔術を集中させたときだった。
「カルミナ様! 危ない!!」
「!」
フィンフィールの珍しく鋭い声に、カルミナは瞬時に背後を振り返る。
「グオォォ!」
ぐぱりと大きな口を開けた魔物がカルミナの背に飛びかかってくるところだった。
カルミナはくるりと身を翻すと、足に集中させていた風魔術を使って魔物に鋭い蹴りを叩き込む。
「ギャンッ!」
犬のような悲鳴を上げて魔物は軽々と吹き飛び、通りの向こうの家の壁に体を強く打ち付けて気絶した。
「カルミナ様、お怪我は!?」
「私は大丈夫。それより、もう王都の中にまで魔物が……」
カルミナはフィンフィールを背に庇いながら、襲いかかってくる魔物を黒い炎で焼き払う。
「ギャアアア!!」
耳をつんざくような咆哮を上げ、魔物はあっという間に黒焦げになって絶命しその場に転がった。
「(私一人ならまだしも、魔物からフィンフィールを守りながらあの空の異常までなんとかするのはさすがに厳しいか……かといってフィンフィールを見捨てるわけにも……)」
カルミナは再び魔物を焼き払いながらフィンフィールをチラリと見る。
その視線に気づいたフィンフィールは、覚悟を決めたかのようにぐっと唇を噛んで力強くカルミナを見つめた。
「……っ、カルミナ様、私なら大丈夫です。まだ訓練中ですが、聖女譲りの強力な魔術防御壁を自分の周りに展開することくらいはできます! どうかカルミナ様がなさりたいことをなさってください!」
「……そう。死んだら許さないから」
「ふふ、大丈夫です! 体の丈夫さは私の取り柄なので!」
そう笑うフィンフィールから目を離すと、カルミナは焦げ付く空を見上げ、足元に風魔術を集中させて地面を蹴った。




