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清算するはデウス・エクス・マキナ  作者: 白いシロ


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大商人エンボロス➀

拷問part1でお送りいたします。

 焼かれ切った村から離れ、妻が連れていかれたという帝都に向かっている道中。帝都の中でもとりわけ強力な魔物が蔓延っているという森にある街道まで進んでこれた。既に服装や見た目はボロボロで、ここに来るまで一睡も、飲食の何もしておらず、限界などとっくのとうに超えていた。それもそのはず、ノーマンは徒歩で一か月以上かかる道のりの四分の一を二日で移動していた。ただ、執念と愛だけでうごいていたのだ。

「はあ、はあ、いい加減。これが限界なのか。ちくしょう。この場で休憩しようにも、魔物がいつどこで強襲してくるかもしれないこの森で眠りにつくわけにもいかない。それに食料や水もない。気力だけで自分はここまで進めることのみを理解して人生を終えるのかな。すまない。フィオ」

 自身の限界を感じて足を止めたノーマンはその場に倒れた。そのまま視界がぼやけて来た時に自身を呼びかける声が聞こえて来た。

『執念と愛憎、憎悪を確認。資格ありと断定及び承認。喜びたまえ、仰ぎたまえ、祈りたまえ、資格と存在はいつでも、いつまでも君と共にある。運命は君の努力によって決定付けられた。』

 男性の声ではあるが、少しばかり高い音域の少年時代のあどけなさも混じるような声。私はこの声を知っている。しかし声の主は知らないと思う。なぜならこれは私の声だからだ。先ほど死を確認したばかりの冗談を言い合う中の友人に馬鹿にされていた私の声が知らない口調でささやく声が聞こえた。変な走馬灯だな、とだけ思いながら意識を手放した。


 次に起きたのは見知らぬ天井、とかではなく純粋な闇の中だった。背中に感じる床の堅さから何かの建造物の中で寝ていることだけは理解できた。この空間が何なのか、どこにいるのか、なぜこんなにも真っ暗で何も見えない空間なのか、消えた疲労感が何なのか。色々考えを巡らせ始める中、さらわれた妻のことを思い出した。

「行かなければ。妻を救いに」

 床の感触を確かめながら起き上がった。ただそこには一切のの光もなく、何にも見えない暗闇しか感じなかった。

「私はもしや死んだのか?いや、肉体が正常に機能してるし、先ほどまでの記憶も定かだ。いや、待てよ先ほどまでの倦怠感や空腹にのどの渇きも感じない。流石に異常だ。であればあるいは」

 私は明確に自身は死んだのだと考えた、村の友人や隣人、両親に妻にすら報いることが出来ずに死んだ。そう考えると涙が止まらなくなっていた。

「すまない。すまない。みんな。父さんに母さん。フィオ」

 何も見えない暗闇の中で私の謝罪ろ泣き声だけが木霊する。この少年のような声を馬鹿にしたり好きだと言ってくれる人たちはもう既に居ない。なんて情けなくて、どうしようもない声なんだろう。

 そうやって泣きじゃくってどのくらい時間がかかったのだろうか。何の疲れも感じない今の体ではいくら泣いても疲れて止まることすらない。ただ、今私がなんでこんな状況になっているのかと考えた時に感情を向けるべき相手が居るのに思い至った。

「そうだ、そうだとも。村のみんなも両親が殺されたのも、妻が攫われたのも全ては実行したものが悪いんだ。おや、そもそも人間至上主義として亜人を廃絶させようとする帝国が悪いんだ。あいつらを許すことが出来るのか、いや出来ない!絶対に許せない!全部奪ったんだ!たとえ俺が死んでいたのだとしても私は恨み、憎み続けなければならないんだ!」

 ノーマンは生まれて初めての感情をむき出しにした。両親から、自分がやられて嫌なことをしてはならない。人を恨んではいけない。人を愛せと、言われ育ってきた。ただこの瞬間からそれよりも大事な感情を新たに作り出した。

「魔物の中にはレイスと呼ばれる死した者が強い恨みを伴って魔物となり、怨嗟を人々にまき散らす魔物も居ると聞く。であれば私だって、魔物になってでもこの感情を吐き散らしてやる。いつか復讐につなげるために、そして村のみんなが生きていたことを記録に残すために!」

 自身の声が反響する空間で決意を固めていたノーマンの耳に自身とは別の声が聞こえてきた。

『資格ある者よ。黒の因子を引き継ぐモノよ。よくぞ、自身の復讐の気持ちを露わにした。私はそれを祝福する。故に機会と力を与える。自身が鉄槌を下すものを見定め、新たな道を照らして進むといい。私の力は人を不幸にする場合もあるが、どうかお前は祝福と幸せのある終わりを』

 その声が聞こえてきた瞬間先ほどまで真っ暗だった空間が一変し、辺り一面が真っ白な空間へと変わった。

「な、なんだここは。先ほどまでと同様に声は反響するが、壁はおろか天井もあるように感じられない。ただただ白い空間が広がっているだけじゃないか。それに先ほどの声は一体……」

 ノーマンが混乱していると目の前に木製のドアが出現した。それは妻と一緒に過ごしていた家のドアだった。

「フィオ……そうだな。行こう。必ず君を救ってみせる。そして、みんなの無念を晴らしてみせる。」

そしてドアを開けるとそこには宝箱が置いてあるだけの一個の個室が広がっていた。そしてノーマンはためらうことなくその宝箱を開けた。そして自身が先ほどまでいたのがダンジョンで、自身がダンジョンをクリアしてその報酬を手に入れたことを知った。

「な、死んだわけではなかったのか。一体どれほどの時間を過ごしたのだろうか。にしても黒の修練所というダンジョン名は一切聞いたことがないぞ」

 ノーマンの目の前には二つの板状のものが展開されていた。

 一つには黒の修練所クリア報酬『最終(デウス・エクス)兵器(・マキナ)と表示されていた物と、ダンジョンから帰還しますか?と表記されたものが展開されていた。

「この報酬がどんなものかも分からない。それにフィオが帝都に到着してどうなるかも分からない。だが、待っていてくれフィオ。必ず君を救って見せる!」

ノーマンはダンジョンから帰還し、自身が倒れていたはずの森を抜けている状態で目覚めた。それによって帝都までの道のりがだいぶ縮まったことを理解し、希望を見出しながら帝都に向かって改めて駆け出して行った。

「いやはや、噂以上のお方ですな!ノーマン子爵。あふれる英気が尋常ではありません!流石はただの平民から宰相閣下の手によって貴族へと至ったお方!今私あなた様と出会えたことがたまらなくうれしいですぞ!」

 そう言いながらゴマをすってくるのは目の前の商人エンボロスだ。帝国の中でもかなりのシェアを誇る大商人で彼の傘下についていない商団は居ないと言われるほどだ。特に奴隷売買に関しては手広く行っており、亜人だけでなく、魔物や精霊なども取り扱っているという。まずまず奴隷という言葉を帝国内で作ったのが彼の十五世代前の初代エンボロスだとされ、その時代から積み上げられた莫大な富と権力によって生まれながらに勝ち組なのが目の前に居る男なのである。金がるのだろう。見た目に気を使っており、華美な装飾品に身を包んでいる。金歯に高そうな指輪にネックレス。そして黄金で出来ているであろうジャケットを羽織っている。だが、体が横にでかく、なまじ身長が百七十いかないくらいに見えるために、かなりのデブに見える。というか実際そうだろう。キチンとした見た目というか醜い見た目というかなんとも言えないというのが正しいのであろう。彼にとっては着飾っている黄金こそが正装のつもりなのだろうから。

 私は今自身の屋敷にてエンボロスをもてなしている。これから行う拷問のために。

「おや、装飾品が気になりますかな?帝国商人ですからなあ、金をふんだんに使った装飾品を身に着けているのですよ!いやあお目が高い!それで、本日はどのようなご商談ですかな?ボレウス伯が失踪されて家が差し押さえになった際に、その奴隷の多くが宰相閣下の手によってノーマン子爵に流れたという噂を聞きました!今回はそちらの奴隷をお売りになさるということですかな?それとも新しく奴隷の購入ですかな?どちらでも責任をもって不肖エンボロス張り切って執り行いましょう!」

 そう言ってエンボロスは自身の胸にドンと手を置き胸を張ってみせた。相当の自身があるのだろう。事実、帝国中にある金銭の四,五割弱が彼の手によって取り扱われている。その彼が消えるとなれば帝国は大きく勢力を削がれ、盤面がずれ込むだろう。宰相閣下は本気で帝国の人間至上主義の撤廃を行いたいらしい。そしていずれは皇帝に弓を引くのだろう。

「今日は購入をお願いしたくてね」

「ほお!購入ですかな!もちろんです!どうしましょうか?かなり私は奴隷売買を手広くやっておりましてね。亜人と言っても獣人にリザードマン、ヒトガタ、エルフ、ハイエルフ、ダークエルフ、巨人族、ドワーフ、エルダードワーフ、ハーピー、天使族、悪魔族などがおります。また精霊や魔物も取り扱っておりますよ~。後はそうですねえ。限られた貴族の方にしかお売りはしていないのですが、人間も販売しております!さあさあどれにいたしましょうか?」

「そうか、人間も販売しているんだな」

「ええ、そうですとも!」

「それじでは人間を頼みたい」

「それでしたら是非私の販売所に向かいましょう!男性も女性も良いのが揃っておりますよ!」

「いや、私は人間として君を販売してほしい」

「は?」

 その瞬間周りの景色は移り変わり、ノーマンとエンボロスは先ほどまで居た客間からノーマンが展開した拷問部屋に移り変わっていた。しかし、エンボロスは持っていた装飾品のせいか、いつもであれば空間に招待されただけで椅子かベットに縛り上げられているのだが、彼は今ノーマンが座っている椅子の正面に立っていた。

「そうですか。私に取引を持ち掛けてきたのは私を拷問するためだったのですね。ノーマン子爵。いいのですか?私を殺してしまえば武力のみで優劣を決めている帝国の支えが無くなるも同然ですよ。私が、私たち一族が居たから帝国の経済の部分は安定していたのです!」

「そうか。きっとそうなのだろう。でもだからこそなのだよ。それに私怨もある。せいぜいあがいてみるといい。君が苦しめた者達のことを思い出しながら」

 そういいながらノーマンが手元に出現させたボタンを押し、機械のアームにてエンボロスを拘束しようとしたところ、アームが切断された。

「言ったでしょう?私は()()()()であると。商談に出向く際貴族であれば武力でモノを言わせる方々もいらっしゃいます。この装飾品は亜人の命を代償に作り出した私の最高傑作たちですよ。これには様々な能力を妨げる力だとか、無病息災だとか、あとは武器を作り出すものだとか。身体能力の向上でしたりね。拷問部屋がどこに存在しているのか調べても分からなかったものなので、てっきり普通の商談なのかとも思いましたが、備えあれば憂いなし、ですね。」

 エンボロスは自身の指輪から出現させた剣を片手に語る。先ほどまでと雰囲気が変わり、戦闘態勢に入っている様だった。それに決して素人のような動きでなく、それは日常的に訓練を受けているものの動きのように見えた。

 なるほどな、確かに帝国商人だ。見通しが甘かった。体型がが故にこのように武力行使に出てくる可能性をほぼ排除していた。だがそれでも私はただ単に復讐を完遂するのみだ。

「君も君で見落としをしているようだよ。エンボロス君。君は私が能力だけにかまけて戦えないと思っていないかい?」

「どこか違うのkガハッ!」

 ノーマンから視線を外さずに喋りかけていたエンボロスの首元に一筋の線が入る。彼はその場で自身の首元を抑え感触を確かめる。首元を一瞬にして切られていた。しかし、目の前に居るノーマンからは少しも目を離しておらず、動いた形跡すら感じなかった。

「これでよかったのか?ノーマン。なんとなくだが、お前なら能力に頼っても頼らなくてもどちらでも対処は可能だったのではないか?」

 手元のナイフの血をふき取りながら先ほどまで待機をしていたマリーがノーマンに語りかける。

「このような状況に陥った際に君がどう動くのかを見ておきたくてね。だがまあ、私が特に気にする必要はなかったようだな。さて、大商人エンボロス。改めて拷問を始めるとしよう。君には聞きたいことが山ほどある。それに君のために私とマリーで色々準備をしてきたんだ。すぐには死んでくれるなよ。とは言っても死なせはしないんだけども」

 そう言ってノーマンは、首元を押さえながら力なく倒れていくエンボロスをアームで拘束し、寝台に拘束した。

 私は生まれながらにして勝ち組だった。大商人の家で一人息子として生まれた私の未来に不安や暗がりなどは全くの無縁のものだった。我が家は帝国建国当初から商売をしていたが、ある代の時から奴隷商売を上手く取り扱うことが出来、大陸一の商人を名乗ることを許されたという。

 私は父から帝国商人としてのノウハウをたたき込まれた。貴族との商談中にいざこざや武力で脅された際に備えるために戦闘訓練も行ってきた。信用を得るためにも、最悪相手にゆすりをかけるためにも情報収集には事を欠かさなかった。あえて信憑性などない噂を流したり、それでしったかぶって相手の自身に対する警戒心を弱らせたりもしてきた。大事なのは底を見せないこと、出し抜くではなく、出し抜かせないことでしびれを切らした相手を追い詰めていけと父には教わった。また、亜人に対することも教わった。人間至上主義の社会の中では絶対に差別を止めてはならない。少数派というのを叩き潰し、常に優位にいろ、共通の敵か下等なものを見た時多数派に立てた人間こそが社会を優位に生き残れるのだと。奴隷制も人間至上主義も亜人差別もエンボロスの人間が帝国に残してきた偉業なのだと。だが、その時疑問に思ったなぜ、亜人は下等で差別されているのか。その疑問を父は解消してくれた。亜人という種の負けの歴史と憐れさを。

 その後父の後を継ぎエンボロスとして仕事を開始し、最盛期と言っていいほどに稼ぎに稼いでいた時にオーモス侯爵から興味深い取引が行われた。それにボレウス伯爵も混ざり、皇帝閣下が喜びそうな内容の構想が完成した。新たな稼ぎ口にもなる上でどのような混沌を帝国にもたらすことが出来るのか、そしてそのうえでどのような利益が捻出できそうか楽しみだった」

「さて、おきたまえエンボロス君。君の大好きな取引の時間だ」

 呼びかけるとエンボロスが目を覚ました。すぐに首元を確認しようとしたものの手足が拘束されていて確認しようにもできそうもない様子だった。

「私を拷問しても何も情報が出ないのではないのかね。侯爵ならともかく伯爵か出てきた情報と変わらないのでは?」

「いや、もう調べはついている。事実として行われていたことのね。だが分からないのは動機だよ。マリー資料をよこしてくれ」

 ノーマンに言われたマリーは複数枚にまとめられた資料をノーマンに渡す。それを受け取ったノーマンは資料を読み上げていく。

「君たちはオーモス侯爵を中心として、私の妻の処刑を計画していた。ボレウス伯爵が以前取り逃がした奴隷を使ってね。ふむ。打ち合わせも複数回行われているようだね。ボレウス伯爵は皇帝から依頼されて遠征に向かったくらいしか喋っていなかったけども」

 ノーマンの様子を見てエンボロスはあざ笑いながら語る。

「フッあのようなどこにでもいるような頭の足りない伯爵ごときにそのままの情報を持たせっぱなしにする物か。拷問官によって、すぐに口を割ると思ったから記憶に細工をかけておいた。無論私には細工されてはいないがね」

「随分と素直にしゃべってくれるじゃないか。そんなに拷問されるのが嫌なのかい?」

「いや、違うとも。私を失えばこの大陸中が混乱する。そんなことをしたらいくら拷問官とは言え、責任問題は免れないのではないのかね?つまり私は殺されない。命と引き換えにある程度の情報を私はする、しかし漏らしすぎたらそれこそ侯爵閣下に殺されてしまうかもな」

 エンボロスはかなり余裕を持っていた。先ほど傷つけられた首からは先ほどまでの血の勢いと熱さに痛みは既に感じない。あれは治療しなければ致命傷のものだったはずなのにだ。つまりは治療されている。ならば殺すつもりは毛頭ないのではないのだろうかと考えた。情報をまだ何も得ていないから生かしたのだとすれば、ある程度の情報さえ渡してしまえば私のような大商人は必ず生きてかえれるのだろうと。つまりは拷問官を舐めていたし、自身の家を含むネームバリューを本気で信じていた。

「そうか、ならいいだろう。情報さえ渡せば命は助けてやろう」

「おま、ちょっと待て。私が言うのもなんだが本当にいいのか!?敵というか復讐するべき相手なんだろう?」

 話の流れを見守っていたマリーがノーマンの真意を確かめるように質問する。

「いや良いんだマリー。事実彼を殺してしまったら帝国は大いに混乱するだろうからね。それ自体は本意ではないんだ」

 ノーマンはそう言ってマリーを諭してから改めて、寝台で寝かされているエンボロスに向き合った。

「なら、聞かせてくれよ。私の妻であるフィオを処刑した理由を」

「分かればいいんだ。分かれば。ひとまずは殺されはしなさそうだな。それにそうか。あれはお前の妻だったのか。可哀そうに亜人なんぞ道具に変な恋慕を抱くからこのような末路を迎えるというのに。聞かせてやろう。何故にただ逃げ出しただけの奴隷が殺されたのか。まずは帝国が建国されて千年頃の話からじっくり語り聞かせてやろうではないか」

 エンボロスは拘束されている状態で得意げに帝国の歴史から語り始めた。帝国とエンボロス家の関わり方と栄光の歴史を交えて。

最初はこれで書ききろうと思っていたんですよ。エンボロス君のお話。

でもね、長くなって来ちゃって、区切ることにしたんですよ。投稿頻度を含むモチベ的に。

自分自身を拷問とかいやじゃあないですかあ。

まあということで次回が拷問パート二です。

それではまた次の拷問で。

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