我々にとっての復讐
ノーマンは改めて見世物小屋に赴いた。
前回の時ではなく、何故長老たちは私を見世物小屋に来るように言ったのだろうか?もし奴隷たちの様子を聞くのであれば、あまりにも早すぎる。まだ獅子獣人の女性からしか話を聞けていない。それにまとめ役の亜人がいる以上は皆の様子が心配で私から話を聞こうということではないのだろう。
「お待ちしておりました。ノーマン様。獅子の彼女から話を聞いて来てくださったようで何よりです。まだ日も浅いでしょうけど様子はどうですか?」
以前話をしていた獣人族の長老である彼女が見世物小屋の中にある受付で私に語り掛けた。
「どうして、君は檻から出れているんだい?それに宰相閣下の部下たちは一体どこへ?」
そう、おかしいのだ。普段檻に入れられているはずの彼女たちが今は出れている。それに以前は宰相閣下の部下たちが駐在していた場所にだ。状況が全く理解できない。しかし、彼女から私に向けての敵意や殺意のようなものは感じない。ならば一体……
「ああ、安心してください。宰相閣下の部下の方々には一度眠っていただきました。この国の人にしては珍しく、本気で亜人差別をしない稀有な方々です。みすみす殺すわけにはいきません。そして私が檻から出ている理由ですか。そうですね、どこから話しましょうか」
彼女はしばらく考えた末に発言した。
「貴方はもし、二千年前と同様に亜人と人間の戦争が始まった時にどちら側につきますか?」
彼女はそう言って私に語り掛けてきた。
「私は、どちらにもつかないな。というよりはどちらにもつけないと言った方が正しいだろう。皇帝を倒さない限り、帝国は倒れない。今の戦力で確実に帝国を攻め落とす保証が一切ないからな。まずまず、皇帝陛下の実力を未だにこの目で見たことないから未知数が過ぎる。かといって亜人側に着くとも限らないだろう」
「それは何故ですか?あなたの奥方は亜人でしょう?それに獣人の王族である以上矢面に引っ張り出されていたであろう方だった。それに貴方は亜人差別を撤廃するために動いているという風に伺っております。それで亜人側につかないというのであれば貴方は一体どの勢力にいらっしゃるのですか?」
「敢えて言うのであれば、私は宰相閣下側だ。亜人と人類の共存を目指している。確かに人間には個人的な恨みはある。しかし、それは種族に対するものではなく、個々人に対するものだ。国や種族に対して考えるのはお門違いだろう。ましてや当人たちに関係ない昔のことを持ち出して今のことを糾弾するのはもってのほかだとも感じるしな。ただまあ、先ほども言った通り皇帝を倒せることが可能かどうかが分からない今はある種皇帝側ではあるのかもしれんな」
「そう、ですか。残念です。貴方が亜人側、もしくは皇帝側につかないとまで言い切ってくださればまだ他に考えようもございました。残された時間の少ない我々長老がことを起こさずにも済みました」
目の前に居る獣人の長老は以前までの物腰柔らかそうな様子とは違い何か覚悟を決めた風に見えた。それは年長者が出せる歳の功なのか、それとも獣人の戦士としての風格なのか。目の前に居る亜人をとても侮ったり、冗談を言っていると聞き流すようなことも出来そうになかった。
「あなた方は一体何をするつもりだ?まさか皇帝陛下に敵うと思っているわけではないだろう?」
「敵う敵わないでなく、我々は散っていった同胞達に報いなければならないのです。帝国の奴隷商売を牛耳っていたエンボロスが死に亜人差別の風潮が一時的にでもマヒしているであろう今は好機。そこから先訪れる好機には恐らく我々はいい加減寿命で死んでしまっている。亜人と人間の最後の決戦から生き延びた最後の亜人として一矢報いなければ我々は同胞に顔向けなどできません。それにその後の亜人たちのことは貴方様にお預けした子たちに任せております。あの子たちは貴方様の下で幸せになってほしいものです」
それを語っている彼女の様子はどこか物悲しそうで、色々なことを諦めているようにも感じられた。ただ、その分諦めてしまっているからこその、失うものが何もない者の覚悟も感じ取られた。
「私たちはこれから反乱軍を結成し、帝国に反逆いたします。ただ、今回はただの亜人連合ではありません。人間も一員に入っております。皇帝によって故郷を滅ぼされた国々出身の人々が、ですね。目的が合致したことと、亜人差別に対する意識がなかったことが挙げられますね。私を含め他の奴隷たちも既に檻から脱出しております。貴族の使用人として雇われているものたち以外、我々に賛同した奴隷たちは全て集結しました。皇帝に敵うかは分かりませんが、最後になるまで我々は戦い抜きます」
「そうか、君たちは帝国に恨みを持つ者達で結託して全員で反逆を行うのか。君たちの意図は理解したが、残された私の部下たちはいいのか?長老たちが居るそちら側に戻りたい奴もいるとは思うのだが」
「彼彼女らには既に話を済ませております。何かしらの情が湧くかもしれませんが、こちらもあちらもどちらかがどちらかを切ることになってしまってもそれは本望であると、ね。仕方のないことってやつですよ。私があなたにお願いすることは、こちらにつくのを断られた以上は一つです。此度の戦いに参入して功績を得てください。貴方の立場が向上し、より皇帝に近しくなれば、きっと殺せるタイミングや弱点もおのずと分かるはずです。我々もただで負けるつもりはありませんが、負けたとしても希望を残せるのです」
彼女たちは今回の戦争で命を落とすつもりらしい。おそらくは皇帝の情報を残そうとしてくれているのだろう。それに私の地位の向上か、確かに必要なことではある。拷問官である以上そのうちおのずとては思ってはいたが、早いに越したことはないだろう。権力が増えればその分だけ救える人たちも増えるかもしれない。
「それに私たちが今回命を懸ける理由は貴方様に対しての情報提供のみではありません。西のお三方への情報提供でもあります」
「西のお三方?」
「公爵閣下からお聞きにはならなかったのですか?黒の支配者と白の支配者、そしてその従者の女性の話を。異界からの来訪者だそうですが、かなり強く、帝国兵を追い返したものだと。我々は彼の御方たちと繋がっております。ですので、そちらにも情報提供と戦力増強を図るためにも行動を行っております」
そういえば宰相閣下が出かけたのも強力な存在を見つけたからだとも、白装束と黒装束の二人とおつきの女性だとも言っていたなあ。まさかもう亜人達と繋がっていたとは。方法は全く察しがつかないが、王都にある亜人奴隷たちを解放して連れ去ってしまうことが出来てしまっている以上は相当な力の持ち主たちなのだろうな。
「そうか。私がどのように動くのかは宰相閣下次第ではあるが、可能な限り今回の戦争に参入できるようにしよう。きっと私にも何かしらの任務が投げかけられるだろうからな。その西の方々にもよろしく伝えておいてくれ」
あと私が聞くべきことはせいぜい一つだろう。
「おそらくもうそろそろ王都を旅立って拠点とかに向かうのだろうが、最後に私の妻のことについて聞かせてくれ、幼いころの妻や彼女が背負ってしまった王族としての責務についてもだ」
ノーマンは当初、この気になる話題をずっと聞きたいと感じていた。私の知らなかった彼女の一面と、夫としてこれまでもこれからも背負わなければならなかった責任を知りたかったのだ。
「お亡くなりになられてからも彼女のことを想って行動しているとは、本当に愛しているのですね。本来であれば、良いでしょうと言いたいところでありますが、時間も少ないため再開のためにとっておいていただければ幸いです」
そう話している彼女の姿は先ほどまでとは違い霧がかってだんだんと透明になりかかっている。まるでその場で話していた彼女は幻想であったかのように。
「それでは私はこの場にて失礼いたします。お話の途中だというのに申し訳ございません。もうそろそろ時間だそうです。最後に二言だけ、この戦争もそうですが、これまで帝国で起きた戦争を調べるとどうも何かが矛盾している様で仕方がないんです。ですので、手記に出来事をまとめておきました。いつか役立つと思ったもので。あと、一応は私の名前を。私は音無しのパルダリアと名乗っております。戦勝で出合った際はどうぞよろしくお願いいたします」
彼女はそれだけ言うとその場に最初からいなかったかのように消えてしまった。ただ、彼女が消えたと同時に何かが落ちた音がしたので拾ってみたところ先ほど彼女が言っていた帝国の歴史の一部をまとめた手記を手に入れた。
私は宰相閣下の部下たちが起きてくるまでその場で待つことにしたが、色々と考えることが増えてしまった。個人的にはゆっくりと長老たちや部下の亜人たちと仲良くなっていき、最終的に皇帝と打ち倒したあとにみんなであの広い屋敷に住むところまで行けたらどれだけ楽しいことなのだろうとまで、空想していたというのに。
それにこれから恐らく、私は貴族になってから初めて、戦争に駆り出されることになるのだろう。先ほど自身の名を明かしてくれたパルダリアともぶつかるだろうし、もしかしたら西のお三方と呼ばれていた存在とも鉢合わせるのかもしれない。色々なことを解消するつもりでこの場までやってきたというのに、本当に馬鹿みたいに悩み事しかたまらないものだなあ。
パルダリアっていいですよね響き。パエリアみたい。
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それではまた次の拷問で




