十二種族
客間の扉を開けたら、男女問わず亜人奴隷たちが全裸で直立していた。私はすぐに扉を閉めた。あれが俗に言う全裸待機というやつなのだろうか、とバカなことを考えながら現実逃避を始めようとしていた。
「ん?どうしたノーマン。中に入らないのか?少なくとも敵意とか害意は全く感じなかったぞ」
「違う。そういうのじゃないんだ。むしろ敵意とかないことを示す百%善意みたいなものなのだが、マリー。君は彼らに一体どんな指示をして待つように言ったんだ?」
「別にこの部屋で待てとしか言っていないぞ?私は今ノーマンに隠れて部屋の中の様子までは確認できなかったのだが、何か問題でもあったのか?」
そう言うマリーにも同じ感覚を共有してもらうためにノーマンは一度マリーに部屋の扉を開けるように促した。マリーは疑問に思いながらも指示通りに扉を開け、中の様子を確認した瞬間爆速で閉めた。
「な、ななな。なんでだ!?ノーマン!お前見世物小屋に言ったときに何か変なことを口走らなかったか!?あれはお前の性癖か!?少なくとも私のではないぞ!?」
マリーは顔を真っ赤にしながらものすごい勢いでまくし立てた。初対面の拷問の時に女性の部分で煽ってきた彼女はどこまで本気だったのだろうか。ドが付くほどの初心である。ノーマンもなのだが。
「落ち着こう。マリー。きっとこれはなにかの間違いだ。誰も悪くない。むしろ彼らの性癖の可能性もある。少しくらい寛容な目で見ようじゃないか。僕はもう全然気にしていないとも」
「嘘つけ!貴様が落ち着いていないときは一人称が僕になることくらいもう分かるのだぞ!お前の紫色の瞳もキョロキョロと周りを見渡しまくって落ち着かない様子じゃないか!」
客間の扉の前で拷問官とその秘書はひどく取り乱し、言い合っている。どの世代の度の目線から見ても醜いもので、見かねた亜人奴隷の使用人の数名が扉を開け、無理やり二人を押し込んで、扉を閉めた。
気づいたら客間にぶち込まれてしまったノーマンとマリーは二人してキャー!と甲高い悲鳴をあげ、顔を手で覆いながらも指の隙間から奴隷たちを見ている。二人はただのむっつりスケベだった。
その様子を見ていた奴隷たちは特に動じることはなく、その中に居る猫の獣人の女性が二人に向かって話しかけてきた。
「今回は我々をお雇い下さりありがとうございます。救世主様。私は名を持たない獣人ではありますが、読み書きができます。この場に揃った者は次世代の長老となる予定の者です。知に関しても武に関しても、文官だけの使い方以外にも我々は動くことが可能です。もちろん夜の準備もいつでもできております。どうかお好きなようにお使いくださいませ」
猫獣人の彼女がそう語り終えると、周りにいる他の獣人たちも頷き、その場にて土下座をする。その光景を目の当たりにしたノーマンは。
「とりあえず、全員服を着てくれないだろうか」
普段以上にか細い声でそう言った。
♢
ノーマンの命令?願い?を聞き入れた奴隷たちが改めて客間にて揃う。 改めて見ても壮観なメンツだ。それぞれが亜人として迫害された歴史があるが、何も戦争において差別を受けているわけではない種族もいる。
最初に挨拶をしてくれた女性の猫獣人。顔以外の全身が茶色の体毛で覆われており、目鼻立ちは人間の顔に近しく可愛らしい印象を受ける。頭の上でピコピコ動いている猫耳がとても可愛らしく思わず撫でてしまいそうだ。女性らしさという面では少なくともマリーには勝っているだろう。残念美人とは違うのだ。一瞬後ろから殺意の波動を感じたが気のせいだろう。獣人の差別理由はビーストファング国王であったグスタフの影響が大きいだろう。私の義理の親せきにあたることになるのだろうが。皇帝に差し迫る勢いのあった唯一の存在だ。故に二度とそのような存在を生み出さないように徹底的に差別されている。
二人目はリザードマンの男性だ。筋骨隆々で単体での武力での強さはかなり期待できるだろう。全身が鱗に覆われており、防御の面でも強そうだ。リザードマンが差別されるのには魔物との混同が理由とされる。それは見た目の話ではなく、鱗が防御にも攻撃にも最適だからだという。魔物と同様に素材として販売され、一般的な防具や攻撃武器に用いられている。
三人目はヒトガタだ。子の種族は絶滅の危機に瀕していると聞いたことがある。目の前に居るヒトガタは少年少女ほどの身長で、人間で比較すると10歳ほどに見える。フードを被っており、その中に見える顔には両目を覆う眼帯が存在している。ヒトガタという種族は中々に生き辛い種族だと聞き及んでいる。眼帯をしている理由は別に差別や虐待によるものではない。ヒトガタという種族は見た対象を完全にコピーすることが出来る。記憶や形状、そして能力も含めてだ。そして一度見た対象は何度もその姿かたちに慣れることも可能だ。いわばストックも出来てしまう。それだけ聞いてしまえば、かなり有用で強力な種族のように聞こえるだろう。だが彼らの強みも弱点もその特性にある。彼らには許容量が存在する。それをオーバーした瞬間に爆発四散して死ぬというモノだ。そしてその様子を見た他のヒトガタもそのまま死んでしまう。許容量を減らせることはないため、個体差はあるものの能力を使えば使うほど、己の寿命を削っているのと同義なのである。戦時中は皇帝を見てその能力で皇帝に打ち勝とうとしたものの、許容量をオーバーしてしまったらしく皇帝の眼前で爆発四散して死に絶える者が後を絶たなかったという。皇帝曰く花火みたいで面白かったそうだ。今でも時折、花火大会と称してヒトガタの虐殺ショーが行われているらしい。なんとも趣味が悪い。
四人目はエルフだ。見目麗しい若々しい女性のエルフだ。身長はだいたい180㎝ほどでとてつもない美人である。エルフは自然の力を扱え、自然の生命エネルギーを用いて攻撃や防御、ひいては回復までてが回せるそうだ。普通のエルフは胸が薄いため、慰め者にするものと言えば貧乳好きだとされている。迫害理由とされているのは気品の高さにあったとされる。今でこそあまりないらしいが、戦争が終わった当初は奴隷として扱ってくる人間たちにとても強気な態度を取っており、その反抗的な態度を気に入った貴族たちが屈服させることに夢中になり、勝手に回復する体を弄りまわしたり、凌辱の限りを尽くした結果、今では完全に人間に対して尽くす種族として一般的に知られている。
五人目はハイエルフだ。エルフと違い、全体的に妖艶な魅力を放っており、どことなく母性も感じるような女性だ。ハイエルフが迫害されている理由は単純に性欲のはけ口という所だろう。毎年何千というハイエルフが凌辱され尽くされてされて殺されている。抗いがたい魅力があるのは確かだが、人間族が浅はかだとしか考えられない。
六人目はダークエルフ。エルフと見た目が似ているが、ダークエルフは褐色肌が特徴的だ。どちらかというと強気なの雰囲気も感じる女性だ。ダークエルフは人間とは違う肌色のせいで迫害されている。地域によっては魔物と同じような扱いも受けているらしい。魔物除けとして死体を魔物がいる近辺に置いたり、吊るしたりもするそうだ。
七人目は巨人族。この空間ではさすがに狭そうで、頑張って縮んでいるように見える。気弱そうな男性だ。聞いた話によると元々の巨人族は百メートルほどの身長をしていたそうだが、生き辛さと食料困難から自身の体を小さくできる魔法を開発してもらい。その魔法を常用できるように改良したらしい。実際に今目の前に居る彼は2メートルほどだ。巨人族の迫害理由は私自身の調べではまだ分かっていない。皇帝陛下と何かあったのだろうとしか思えないし、一般にはあまり知られていない種族だ。
八人目はドワーフだ。かなりの腕力のありそうな腕をしている三頭身ほどの男性だ。武器を作ると言ったらドワーフ。そう呼ばれるくらいには有名な種族だ。迫害理由は戦争時における武器の補給関係の話でしかないだろう。帝国がどれだけ戦っても敵は必ず武器を携えて戦ってくる。それを見た過去の人間は鍛冶職の独占を恐れて、殺しつくそうとしているようだ。実際に個体数は減っている。
九人目はエルダードワーフだ。こちらは腕力はドワーフほどではないが、眼鏡もかけて無精ひげもはやしている三頭身の男性だ。彼らの迫害理由はその存在の危険性にある。戦時中の彼らは大量の被害を出す戦闘兵器を複数個作り出した。それ故に彼らは戦犯の一族として人間に迫害されていた。そしてその知識を欲した人間たちが彼らを研究するなどして個体数を減らしていた。今では珍しい個体だ。
十人目はハーピー。活発そうな女性で、腕には羽が付いている。足は鳥の足と同様に鉤爪が付いている。ハーピーの迫害理由は一時期あった噂によるものが大きい。眉唾ものだがハーピーの羽には無病息災や回復効果などがあると言われており、装飾品などに用いられている。
十一人目は天使族だ。白い羽をはやしており、亜人種の中で最も人間に近しい見た目をしているが、神々しい雰囲気も感じる。性別は、どちらなのかわからない。全身はほぼ真っ白な色をしており、神と瞳は黄金の輝きを放っている。元々は神の御使いとされていた種族だが、皇帝に負けて以降は人間より優れた神の存在を吹聴する天使族に対して、神を否定するための拷問が行われた。人間至上主義を強固にするために歴史に扱われた種族だ。
最後は悪魔族だ。天使と対照的に一番人間の姿とは遠ざかっている。何の獣か分からない耳に、蝙蝠と似たような翼。角も生えており、全身はほぼ黒い肌をしている。唯一色が黒ではないのは瞳だけだ。その瞳は金色だ。迫害理由は、古代の魔術書が発掘された際に、悪魔という種族の恐ろしさが描かれた書物が見つかり、他の人間に脅威をもたらすとみなされたものと同様に迫害されていった。ただ、皇帝に対するレジスタンスの中には悪魔族を信仰しているものもおり、遺体を使って祈祷を行われていることもあるそうだ。
おっと、悪い癖だ。長い思考に入ってしまった。目の前に居る奴隷たちがどう反応すればいいのか分からなそうに直立しながら私の反応を待っている。
「あー。すまない少しぼーっとしていた。今後君たちの主人というか雇い主になるノーマンだ。よろしく頼む。私は君たちに奴隷としての生き方を強要しない。君たちを部下として扱うので仕事を頑張ってくれたまえ」
そう言った所、エルフが手を挙げて質問を申し出たので当然許可した。
「あの、ご主人様は私たちに死ねとおっしゃられているのでしょうか?」
「え?いやそういうわけではないぞ。奴隷として生きるのも辛かっただろうから私は奴隷として扱うようなことはしたくなくてだな」
「我々は奴隷としてしか生きることを許されていない種族です。実際それに逆らい続けた種族は滅ぼされたこともありました。あなた方人間からしたらおかしな話かもしれませんが、私たちは奴隷として生きることに誇りを持っていますし、生き辛いなどと感じたこともありません。ただの偽善であるのであればやめてください」
エルフの女性は冷めた目でノーマンを見据えている。獣人の女性が止めようとしたもののエルフもそうだが、他の種族も視線でそれを諫めた。
「偽善。そうか偽善か。まあそうだな。偽善なのかもしれない。実際に君たちの境遇も君たち個人のことも詳しくは知らない。種族のことについても調べた知識でのみしか知らない。私の妻は元は奴隷だった。それを知ったのは亡くなってからにはなるがね。妻の死に方を聞いたときに私はこれ以上の犠牲者もひどい扱いを受ける奴隷も見たくないと感じたんだ」
ノーマンは奴隷たちに向けて妻の話を始めた。しかし、エルフの女性はそれにまた突っ込む。
「悲しい話をして同情を誘っても無駄です。それに妻のことを想って今の考えに至ったとしても偽善には変わりないじゃないですか。私たちの何も知らないくせに」
「ああそうだ。君の言うとおりだ。今の私は何にも知らない。これから知っていくんだ。奴隷としての生き方しか知らないというが、それならこれから知って行けばいい。別に昔の君たちの祖先は最初から奴隷ではなかっただろう?彼らが戦い抜いたから今の君たちがいるのだろう?」
エルフの女性は先ほどまでよりも強い非難の視線でノーマンを睨みながら声を荒げる。
「ああそうだ!しかし我らが祖は負けた!負けた者達に価値はない!だから今我々が負けの負債を背負っているのだ!そのことを、二千年の歴史を背負う者たちの覚悟をなんも知らないぽっとでのお前が解消するつもりであるのは酷く傲慢だ!」
「まだ負けてないさ。君たちは。生き残っているじゃないか。どちらかがまだ諦めない限りはまだ戦いは終わらない。僕は君たちをひいてはすべての亜人たちを勝たせるためにここに居る。ただ、人間を滅ぼすためではない。人間至上主義も亜人差別も廃絶し、いつか僕の妻のような被害者が今後出ないようにする。そして人間も亜人も関係なく、同じテーブル、同じ目線で食卓を囲めるような世界にしてみせる!それがこの僕。拷問官ノーマンの使命だ!その最初の一歩として君たちには僕に付き合ってほしい!」
ノーマンの気迫に押されたエルフの女性は一瞬押し黙ってからしゃべりだした。
「そうか、傲慢だな。だが、良いな。それは。一緒のテーブルと目線で同じ食卓を囲むのか。夢物語にしか聞こえないが、やってみる価値はあるな。試すようなことをして申し訳ない主人。我々は先祖と同様の心持を持つ者達。先達の戦いを無価値にするつもりなど毛頭ない!これからよろしく頼む」
心の底から安堵した。どうやら試されていたようだ。きっと長老たちにだが。今の私の言動で信用に足る人物だと認識されただろうか?いや、これからか。私の心持や発言に対しては良し、しかし私が口だけの人間かどうかかこれからか。しかしながら偽善でしかなかった部分も確かにある。彼彼女らと接していくことで私は知識としてだけでなく、心から奴隷として扱われてきた人たちの心に寄り添おう。
一度その場はお開きにして、後日個人個人と面談を行うことにした。
今回はある種世界観をより固めるためのお話でした!
差別の内容が酷い!(おまいう)
キャラ設定考えてるときウハウハでしたね。
誤字報告やレビュー、感想のほどもよろしくお願いいたします!
それではまた次の拷問で。




