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「それに今『浄化はゆっくり』と言っていましたね。
と言う事は、貴方はこの付近に留まるおつもりですか?」
レヴァンも口を開いた。
「貴方が誰を見ているか……えぇ、叶うなら私を見て欲しいと願っていましたが、恐らく無理なのでしょう。
ですが…殿下の言葉でなくとも、お願いですから耳を傾けて下さい。
一度王都に戻り、話し合ってからでも遅くないでしょう?」
「公子様……」
最早自分の感情が隠しようもなくなっていたかと、エリルシアは困ったように眉尻を下げる。
「そ、そうだよ。
エリィ、一度戻ってから検討しよう」
微妙になりかけた空気を破る様に、ティルナスが同調した。
……けれど………。
「公子様には感謝申し上げます。
手厚い援助のおかげで、領は何とか立て直せそうです。
本当にありがとうございました」
「お父様、そんな事よりお姉様に一度注意なさってください。
普段から気を付けていないと、ちょっとした時に素が出てしまいます。
皆様の手前、詳しくは言いませんが…」
二人に向けて、エリルシアは苦笑を向けた。
そのまま返答する事なく、マーセルの方へ向き直る。
「ギアルギナ小公爵様、是非とも今回の件で、ネデルミスに恩を高く売りつけて下さいませ。
ぁ~…私の国境侵犯が不問にされる程度には……」
肩を竦め、おどけた様に笑って見せれば、プルガが目を丸くする。
「口添えだけで不問にすると言ったではないか。
それなのに更に高く売りつけるとな……。
流石ティリエラ様の御孫様と言うべきか……抜け目がないな」
「それについては心に留め置きますが『恩を高く』…ですか、エリルシア嬢もなかなかに強かですねぇ。とても良いと思いますよ。
しかし、ティルナスの言う通り、一度王都へ戻ってからにしませんか?」
プルガが苦り切っているのを横目に、マーセルが悪びれもせずにニヤリと笑う。
それを見てから、ラフィラスに顔を向けた。
「御婚約の報は、事実ではなかったのですね」
エリルシアの呟きに、ラフィラスが苦い笑みを浮かべる。
「そう、みたいだね。
……うん、首の皮一枚で何とか繋がる事が出来た……かな」
「首の……そのおっしゃりようは流石に…」
エリルシアも苦笑するしかなかったが、ラフィラスはそんなエリルシアの手を取った。
「ねぇ…僕は希望を持っても良いのかな…。
僕の望みは君だけ…エリルシア…エリだけなんだ。
僕の首を繋いでくれる?」
手を預けたまま、エリルシアはクシャリと顔を歪めた。
「殿下の幸せを祈っております」
「え……エリ…?」
「殿下だけでなく、皆様のこれからに幸運が訪れますように」
ラフィラスの手を振り切る。
次の瞬間、その場に居るエリルシアとロザリー以外の全員が、地面から伸びる蔓に手足を巻き取られた。
「!?」
「な!!??」
「エリィ!?」
流石は武人と言った所か……ヨナスとプルガ、タッパーは無言で蔓を引き千切ろうとする。
それを見て、更に蔓を増やして拘束した。
エリルシアは振り払った手で、ブローチを握りしめる。
「殿下、貴方は……あんな以前の…他愛ない約束を覚えていてくださいました。
何より、私の事を考えてこれを選んでくださったのですよね?
貴方の大切な時間を私の為に使ってくださった事が……堪らなく嬉しくて……。
もう、それだけで十分です。
ですから、これから起こる事態に、どうか思い悩まないでくださいますよう、お願い申し上げます。
私は犠牲になるつもりで行うのではありません。貴族としての責務を果たす為に行うのです…だから…。
だから……どうか、笑っていてください」
エリルシアは、フードマントの端を摘まんでカーテシーをする。
「ドレスではありませんので、御見苦しいのは御容赦くださいませ。
……では…。
エリルシア・ウィスティリス……これにてお別れでございます」
エリルシアはロザリーを連れてその場を離れ、瘴気があると言った方角へ歩き出す。
「エリ?
待って…行かないで…お別れだなんて……認めない…」
ラフィラスは追いかけようとするが、その身体は拘束されてままならない。
「戻って!
エリ、君がいなくて、僕が笑える訳ないだろう!!
お願いだから……行くな!!」
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