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プルガもエリルシアの方を注視する。
「話を希望していたのではないのか?」
「……はい」
「エリィ!? 何を……それより早く戻ろう。
話はロズリンドに入ってからで良いじゃないか…」
最後に割り入った言葉はティルナスの物だ。
ティルナスの言い分も、愛娘への心配と言う部分は頷ける。しかし、事はロズリンドだけでなくネデルミスにも関わる事だ。
いや、関わるどころか主因がネデルミスで、ロズリンドはその余波を喰らうと言う形なのだ。
プルガの言葉ではないが、折角両国の要人が一部とはいえ一堂に会しているのだから、この機会を逃したくない。
それに今を逃せば、説明する時間もなくなってしまうだろう。
エリルシアは席から立ち上がって静かに話し始めた。
「これからお話しする事は、皆様には突拍子もない事であると承知しています。
しかし、出来れば静聴していただきたく存じます。
まず、異変について……皆様も『霧』をご覧になりましたでしょうか……あれは『霧』であって『霧』ではありません。
あれは瘴気が可視化した物です」
室内がざわりと揺れる。
「瘴気だと……いや、瘴気なんて魔物が発するもので…」
狼狽えたように呟くのは、壁際に立っているタッパーだ。
「はい、普通は其方を思い浮かべるでしょう。
しかし残念ながら大地も徐々に瘴気で穢されていくのです。ロズリンドなら主にウィスティリス近辺の地が……ネデルミスなら旧ヴィンデ領近辺が…。
遥か以前からその辺りは、瘴気が溜まりやすい土地だったようです。
お疑いになるのもわかりますが、検証も議論も…後程にお願いします」
そこからエリルシアは、これまで知りえた事を話す。
それがつい先日の事だった事も…。
見回せば、室内にいる全員の顔色は悪い。
それはそうだろう。
突然、自分達では太刀打ち出来ない事象だと告げられたのだ。
だが、プルガ王をい始めとした、ネデルミス側の顔色は更に悪い。
過去の失態にまで話が及んだのだ。
ロズリンド王太子ラカールとの見合いの話の裏話……当時、ネデルミスの主だった高位貴族の女性を、態々危険を冒してまでロズリンドに移動させてから見合いパーティーとなったのは、女性達は勿論その護衛他、多くの人を中央から遠ざけ、情報の広がりを遅らせたかったのではないかと、祖母ティリエラは考えていた。
その上でヴィンデ家から豊かな領地を掠めとる……。そんな馬鹿な計画が進行していたのだ。
普通に考えれば『馬鹿』としか言いようがない、穴だらけ…杜撰と言い切れる計画だった。その上ツヌラダとも共謀し、ロズリンドを混乱に陥れる計画まであったとかなかったとか……かなり祖母の憶測も入っていたが、ティリエラが残した冊子を見る限り、あながち的外れとも言い難い。
ま、ネデルミス側の事はエリルシアがどうこう出来る話ではない。
出来ないにも拘らず祖母の憶測にまで言及したのは、可能な限りロズリンド側が優位になれば…と言う、エリルシアの浅知恵だ。
それに…そうする事でネデルミスも、過去から今に至る膿を出しきれるかもしれない。
ラフィラスがネデルミス王女と結婚する頃には、風通しが良くなり、肩身の狭い思いをせずに済むならそれでいいのだ。
ただ……さっきマーセルが言葉にした『偽の書簡』と言う言葉は引っ掛かる。恐らくだがプルガが口にしていた『怒り』『非』『国を揺るがせる身内』に通じるのではないかと考える。
もし外れていないのなら、既に優位と判断して良いだろう。
「それでは行きましょうか」
エリルシアの突然の言葉に、室内にいる全員が付いてこれないようだ。
「さっきまでのお話で予想がついていらっしゃるかと思ったのですが?」
きょとんと問えば、反応したのはラフィラスだ。しかも氷点下の表情で、酷く恐ろしい。
「まさかとは思うけど……本当に手立てがあるとでも?
それを君がどうにかすると言うのか…?
黙ってそれを見て居ろと!?
そんな事、出来る訳がないだろう!!??
君に危険がないと言い切れる?
瘴気なんて……そんな危険な物に君が近づくなんて…そんな事……許可出来る訳がないだろう!!??」
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。




