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運命のマスティマ  作者: 鏡 香夜
(6) Daily work 1 マスティマの日常1
112/112

102.勝敗の行方

 誰かさんに対してとは違って、当たりの柔らかそうなジャズ隊長には言いやすいらしい。

「チュンチュン、雀の群みてぇだなぁ。色はインコだけど」

 対して隊長の緩い感じの言葉。

「隊長って和みキャラだよなー」

 なんて、口にするグレイ。

 誰も和んではいないんですけど。むしろ本社の人たち、騒ついてるんですけど。

「まー、穏やかにいこーぜ」

 にこやかな彼の笑顔に、一瞬調停者が現れたかと思ったのだが。

「マスティマの勝ちは決まりなんだからさー」

 続く言葉に、私も、そして本社の人たちも目を見開く。

「エントリーの頭数減ってんの、そっちじゃん」 

 屁理屈を越えた恐ろしい結論を下す。

 さっきまでしてたのはゴルフのはずなのだけど。一体何のゲームなのか分からなくなってくる。本社の人たちの表情は引きつる一方。マスティマのイメージは下りっぱなしだ。

『ジャズ隊長は悪意があって言ったわけじゃなくて、見たまんまを言っただけなんです。グレイも本当は悪い人じゃないんですよ』

 そう伝えたくても説得力がない。二人の言葉だけ聞いてればそんな風には思えない。どう言ったら、ちゃんと分かってもらえるだろう。そう考えているところへ鶴の一声。

「親睦会は中止だからノーカウントだよ」

 勝ちはどっちかというジャズ隊長の問いへの答えだったが、アーロンの声は張っていた。その場にいた全員に聞こえただろう。

 本社の人たちは信じられないという顔で彼を見た。

「それってどういうことですか?」

 ゴルフ用グローブをつけた本社の人が、アーロンの前で訴えた。

「彼は人を死なせかけたんですよ。それなのに、何のお咎めもなしですか?」

 援護の声が複数上がる。

 マスティマへの非難と自分たちが負けることの反発が渦を巻いている。

「プレーを続ければこっちの勝ちだったんだ。潔く負けを認めろよ」

 グレイの言葉は火に油。

 その場にいた本社の全員を敵に回したことは明らかだ。いや、一人は唖然としているだけだ。それはさっきまでグレイと肩を並べていたカーターさん。

 弁明しに行きたいところだが、言葉も出てこないし、その上この空気だ。

「イカサマで勝ちだって?」

「このコースでホールインワン連続なんてありえるわけがない」

 大ブーイングの嵐。

「ツキにまで言いがかりかよ。証拠もねーのに」

 グレイ、全然引く気がない。

 仲間を疑うのは気が引けるけど、確率的に怪しいと私も思う。彼なら、ちょっとしたトリックを使うなんてありえそうだし。

 こじれるような言い方をしているところから見ても不自然極まりない。

 マスティマとディケンズは組織の表と裏のようなもの。敵対心持ってどうするんだろう。争ったって意味がないはずなのに。

 ゴルフカートの後ろの左右に取り付けられた二枚の旗。黒いユニコーンを象徴としたマスティマの旗とディケンズ警備会社のものと思われる国連の旗を髣髴させるブルーの旗。同じ風に乗ってはためいているのを見て、なんだか悲しくなってきた。

 とはいえ、こんな状況の改善なんて、私には荷が重過ぎる。

 誰か何とかしてくれないだろうかと辺りを見渡す。

 そんな中で場違いな人を一人見つけた。

「ノーカンってことは、掛け金は戻ってくるな」

 にんまりとするジャザナイア隊長。仲間内で賭け事でもしていたのだろう。ああ、その表情だけで罪だ。

 もう、この状況、救いようがあるとは到底思えない。本社の人たちは、もはや嫌悪感を隠すこともしていないし。アーロンに連中をどうにかしてほしいと詰め寄っている。

 そんな騒がしさを突き破ったのは馬鹿でかい銃声。

 みんなの視線が集中する。その先には銃口を天に向けるボスの姿があった。

「ごちゃごちゃうるせえ」

 まず間違いなく、彼が撃った銃が一番うるさいのだけど、賢明なことに誰もそこは突っ込まなかった。

 鋭い眼光が全ての口を閉ざす。

 ボスの手にする黒い銃。だけど、今回のは初めて見た。銃身の先端部が極端に太くなっている。サプレッサー(減音器)ならぬアンプリファー(増音器)でも取り付けられているようだ。普通の拳銃は、まずこんな大砲みたいな音は立てない。

 耳鳴りでもするのだろう。まだ頭を抑えている人がいるくらいだ。

「プレーをやり直すか?」

 ボスが発したのは、おおよそらしくない前向きな解決策。

だけど、誰も賛成しなかった。本社の人たちは完全に怖気を振るっている。なにか言葉を返したら最後、犠牲者確定だと信じているようだ。

「本当にボスらしくなった。私も鼻が高い」

 周りの雰囲気とは一線を隔すのは、アーロン。

 笑顔で言ってるけど意味が分からない。本社の人たちの表情も引き気味だ。

 懇親会で二人も病院送りにして、その上、銃をぶっ放すなんて、どこを取ったら誇らしいんだろう。

「まったく災難だった。仕切りなおして次に望もう。次回はマスティマ側の企画の番だね」

 肩に手を回そうとしたアーロンをすり抜けて、ボスは歩き去った。

 慌てた様子でアビゲイルがこちらへ駆け寄る。

「迎えのヘリがすぐ近くまで来てるから。ダッシュで帰りの準備をして」

 私も手伝うからと彼女は私の腕を引っ張り、厨房へと向かった。

次回予告:ゴルフ場で起こった事件の真相。アビゲイルの説明にミシェルは驚いて……。

第103話「Hitman on the tee-off area」


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