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才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


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第80話 モーランドの秘策

 屋根裏で始まった円卓会議。これまでだって領地を奪うことについては常々考えてきた。そんなアーリナだからこそ、心の内では理解している。


 (リアナの言うことは正しい。いざ戦いともなれば、何ら犠牲なしに事を成すなど不可能に近いわ──いえ、不可能と言い切れない私は、本当に、甘ちゃんすぎるわね……)


 アーリナが描き続けた領地奪取への想い。その脳裏に浮かべていた戦いが、より一層現実的なものとしてこのフィットリアにも迫っている。


 彼女はそれを頭で分かっていながらも認められず、たとえ裸の王様と罵られようと最後まで足掻きたかった。


 「──では、モーランドさんとおっしゃいましたか、貴方のお考えをお聞かせ願えますか?」


 アーリナが黙考する中、リアナは淡々と会議を進めた。姉妹喧嘩の仲裁に入ったモーランドは、その声に会釈で応じ、小さなテーブルを囲む仲間達に視線を流した。


 「我が思うところなのですが……この戦い、犠牲者を抑えつつ敵を退けることはできましょう」


 彼の話の切り出しに、リアナは怪訝な表情を浮かべ、かたやアーリナは瞳を大きく期待で満たした。


 「なあ牛男、お前までいきなりどうした? アーリナみてえに甘えこと言いやがって。スイーツじゃねえんだぞ」


 「ザラク。うぬには何度申したことか、我を牛男などと呼ぶなと……まあよい……いや、よくはないが今は捨て置く。それよりもアーリナ様。ご承知のとおり、一切の犠牲なくとはいきませぬが、最小限に止める策を進言させていただきます」


 モーランドの静かながらも自信漲る声。その策とは先ず、ラドニアルの神業である『斧神の天秤』によって、敵方を此方側へ寝返らせることが初手である。


 とはいえ、敵は言わずもがなの大軍勢。それら全てを神の力で味方とするなど、いくら何でも無謀というものだ。


 神業を放つはラドニアルに非ず──斧神の持つ『神力』を最大限に引き出すためには、使い手の願いが必要不可欠であるからだ。


 斧神ラドニアルを振るうことで、これより先にどのような未来を切り開きたいのか──。


 命懸けの最中も、これらを常に頭に置き続けなければならないのは心理的負荷が想像以上に大きい。そのうえ体力的問題もある。物理的に斧で斬りつける以上、一人二人ならともかく、数十万規模の軍相手ではとても現実的とはいえない。


 だが、モーランドは指揮官級が一人いれば十分であると申し添えた。


 (まあ指揮官級ってだけでも、大変そうなんだけど、ね……)


 私たちが狙うのは敵の指揮官、乃ち、ライアット候の配下『四闇刃(しあんじん)』と呼ばれる者たちのことである。


 率直に言って、どうせならば初めから、ライアット候に照準を定めたほうがよいのではないか──そうアーリナは訴えてみたが、


 「お姉さまは犠牲を出さぬどころか、寧ろ全ての命を投げ出したいのですか? 相手はかの〝雷神〟ですのよ?」


 などと、妹にはそれこそ死んだ魚の眼を向けられるし、渋々ながら断念せざるを得なかった。


 アーリナとしては、ライアット候さえ討ちさえすれば戦いは瞬時に決着するし、それ以後も、王国屈指の戦力を誇るフィットリアならば他領から狙われることもないだろう──と思ったのだが、


 「はあ~、お姉さまは本当に何も知らないのですね……。すぐ隣に居りますわ、我らがフィットリアを虎視眈々と狙う薄汚い魔女がね」


 と、リアナにはあっさりと否定された。


 (薄汚い魔女? ああそういえば、ルゼルア、だったっけ?)


 アーリナは呆れ顔の妹を前にして苦笑い。それに冷静に考えてみればそもそも、前線にまでライアット候(総大将)が出張ってくるとは思えないし、此方から攻め込むにしたって警護も厳重そうだ。


 「モ~そろそろ、話を進めてもよろしいでしょうか?」


 モーランドは後ろ頭をポリポリと掻きながら、申し訳なさそうに割って入る。そして、彼の語る次の一手こそが、犠牲を最小限に抑える切り札となる。


 「では、ここで本作戦の鍵となるバジコ殿にお願いしたい。敵の指揮官一人を仲間へと引き入れた後、特殊スキル『視奪石(しだつせき)』を行使していただきたいのだ」


 通常、バジリスクは対象の顔を認識することで石化能力を発動するが、その効果は全身に及ぶものである。しかし、バジコの場合はそれに加えて、もう一つの特殊スキル『視奪石』と呼ばれる伝説級の能力まで持ち合わせていたのだ。


 その視奪石の効果だが、これは石化部位を瞳のみに限定して発動、さらには視野そのものを支配下におくことができる恐ろしい力のことを指す。


 モーランドの策は、視野をのっとった状態の指揮官を敵陣へと戻し、その瞳を通して駐屯地内で石化現象を引き起こそうというものであった。


 「どうでしょうか? 主たちよ。これならば、命を奪わずとも敵戦力を大幅に削ることもできましょう。しいては軍内部に混乱を齎すことによって、撤退に繋がればと考えております」


 たとえ石化したとしても命の灯までもが消えることはない。これはバジコの石化第一号となったザラクの件で既に証明されている。


 「そうですわね、ただ、他の四闇刃の者に気づかれた場合はどうするおつもりですか?」


 「モハッ、気づかれた場合は如何様にも手のうちようがありませぬなあ。その際は同士討ちをしていただくしかないかと」


 ここ最近でわかったことだが、バジコの石化は魔力が自身よりも弱い者にしか通用しない。大抵の一般兵ならば十分に石化を蔓延させられるだろうが、相手が四闇刃ともなればそうもいかないのだ。バレた際は寝返らせた敵幹部をそのままぶつける他ないだろう、というのがモーランドの見解である。


 「まあいいじゃない。作戦には成功も失敗もある。それに完璧を求めすぎてたら動こうにも動けないわ。リアナも失敗したことなんて、数えきれないほどあるでしょ?」


 「わ、私の失敗は数えきれます! それにお姉さまみたいに行き当たりばったりなどではありませんわ。 一緒にしないでもらえますの!」


 と、姉妹喧嘩が再び勃発しかけたところで、コンココンッコッ、と、扉をノックする音が響いた。


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