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才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


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第74話 眩い会談

 「何ともわざとらしいですわ。改めて尋ねずとも、既にご存知のはずでしょう? 私がなぜ、こうして王都にまで赴いているのか」


 「ふっ、これは失敬。未だに貴方様が、わずか七歳の幼子とは到底思えませんよ。ところで、お付きのご両人は?」


 リアナと言葉を交わした爽やかな男が、今度はアーリナとザラクに視線を流した。そして微笑む。あまりの眩しさに、アーリナは頭をくらっとさせた。


 (はぇああ~、隣のもじゃ男とはまるで違う、別次元よ。ああなんて艶やかな髪。毛先だってクルクルパーしてないし、風もないのにサラサラ揺れてさえいるわ)


 レイハルクの美貌は、彼女の美少年(イケメン)像に直球で風穴を開けていた。だがあくまで少年ではなく青年、いや、若作りの中年だって十分にあり得る。だって相手は、王国騎士団長なのだから──。


 ただ目を爛々とさせるアーリナに代わり、ザラクが先に口を開いた。


 「俺の名は、ザラク・アルハザル。それからこっちはアーリナ・クルーセルだ」


 「ちょ、ちょっとザラク!」


 「ザラク君に、アーリナちゃん……? いや待て、クルーセル?!」


 秘密裏での王都旅、のはずが、どうしてこうも軽はずみにぶちまけてしまうのか。バスケスにザラク。あまりに軽口すぎて、上唇に風船でも縫いつけてるのかしら、と思う──。


 アーリナがため息をつき、かたやレイハルクは訊いた名に戸惑いをみせていた。


 「リアナ様と、同じ……」


 そこへ新たな刺客。何を思ったのか妹リアナまで、「ええ、私の姉ですわ」と包み隠さず明かした。


 「はぇ……リ、アナ?」


 「何て間抜けな顔をしていらっしゃるの、お姉さま。よもやこの状況で隠し通せるとでもお思いなのかしら。 王国騎士団の情報網を甘くみないことですわね」  


 目を点にするアーリナに、眉を顰めたリアナ。彼女らのやり取りに、レイハルクは「これは愉快」と高笑いし、椅子から立ち上がって丁寧にお辞儀をした。


 「度重なる失礼をお許しください。リアナ様に姉君がおられることは存じておりましたが、まさかご一緒されていたとは露知らず」


 そう言って眩い笑み。アーリナたちの背後に謎の目配せを送り、彼は再び椅子に腰を下ろした。


 ガチャリ──その直後、執務室の扉が開かれ、訊き慣れた声が室内へと響く。


 「失礼いたします」


 この声に思わず、アーリナが「ミサラ!」と喜びの目を向ける。ミサラも彼女たちの無事な姿に安堵し、胸を撫でおろした。


 「アーリナ様、それにリアナ様、ご無事で何よりにございます」


 ミサラはそう口にし、チラリとザラクを見る。されど何も言わない。この役立たず、と言わんばかりに目を眇め、一切触れることなく空いていた椅子へと座る。


 「おい!何だよその目。 俺だって大変だったんだぞ!」


 まあ確かに、彼も彼で頑張ってはいた。がしかし、誠に残念ながら、ミサラがその頑張りを知る由もない。主君たるアーリナが危険に晒されていた、という事実のみが彼女の心中を独走していたのだ。


 「キャンキャン吠えるな子犬。ところでレイハルク、これは貴方の私物か? 少々匂いがきついのだが」


 「ふっ、こっちにまで飛び火したな。いや、口の悪さは相変わらずといったところか。それは昔のものでな、箪笥の奥にしまいすぎていたようだ。多少は古びた匂いがするだろうが我慢してくれ。最近のものではサイズが合わぬであろうからな」


 放置していたというわりには黄ばみ一つ見当たらない。ところどころに銀の装飾の入った真っ白な正装である。イケてる男というものは、日頃からあのような目立つものを身につけているのだろうか。


 (もしかして、あれが普段着なの? 乗馬も似合うくらい上品──うん、それこそ白馬よ、白馬の王子様降臨じゃない)


 アーリナの脳裏を白馬が駆けていた。そもそも騎士自体、重厚な鎧に兜、鎖帷子や白銀の胸当てなど、人目をひく風貌をしている。さすがに私生活くらいは楽な格好なのかと思っていたが……。


 彼らの会話にアーリナが耳を傾けていると、レイハルクが仕切り直しに、「では」と切って続けた。


 「ミサラ。私がマグークス領を訪ねていた件については、君も知っているのだろう?」


 「ああ。粗方リアナ様から伺っている。それで、その団長がなぜ王都にいる? 我が領主たるダルヴァンテ様は未だお戻りにはなっていないようだが?」


 「まだ戻られていない、か。一体どこからその情報を得ているというのか。君が口から出まかせをいうとは考えづらいが、その話の続きはまた別の機会としよう。質問にのみ答えるならば、話し合いが済んだから戻った、というのは建前だ。城内の不穏な動き。特にアザハル。奴が何かしらの行動を起こすならば、必ず私の不在時を狙うと考えたのだ」


 「ほう……つまり、態と王都を離れていたと。ならば尚更、近場に潜伏していればよかったではないか。何ゆえにマグークスに」


 「生憎、それを部外者の君に答えることはできない。戦略的守秘義務というものだ」


 胸の前で腕を組み、真剣な眼差しを見せたレイハルク。かたやミサラは、両手をテーブルについて身を乗り出し、鬼の形相で睨みつけた。


 「ったく。しっかりしているのか抜けてるのか、どっちかにしろこの戯けが。仕掛けた張本人が間に合わず、王都は大混乱。アーリナ様とリアナ様の機転に感謝することだ」


 「もちろんだとも。ミサラ、君にも感謝している」


 この二人を見ていると、上下関係すらも無意味だと感じる。ミサラが騎士団を去って三年の月日が経とうというのに、昨日今日のやり取り──とても久方振りとは思えない光景だ。


 旧来から騎士である前に、友好関係のほうが勝っていたのだろうか。厳しさの裏にも、どこか余裕や皮肉を含んだ笑み。懐かしの友と語らっているかのようだ。


 レイハルクはアーリナとリアナに対しても「心からの感謝を申し上げる」と頭を下げ、そのまま話を続けた。


 彼によれば今から約半年ほど前から、アザハルの不穏な動きが目立つようになった。というのも、度々遠征と称して、シュトラウス領方面へと自ら赴くことが多くなったのだ。


 それまでのアザハルは極力外に出ることを避けていた。度々他領などで小さな諍いがあれば、その対処を目下の騎士達に委ね、自らは王都内に留まり続けていた。


 しかし、ある時を境にして様子が一変。大小問わず諍いあらば陣頭指揮を取って遠征し、戻れば人知れず地下室籠りという極端な行動。


 (いぶ)ったレイハルクは、毒の研究をしているという地下施設を一度視察するため、団長権限で踏み入ったことがあった。されど、特別不審なものは見つからなかった。


 アザハルが改心したというのであればそれでいい──けれどもレイハルク自身、同じ騎士団の部下でありながら、彼に心からの信を置くことはできなかった。


 「ミサラ。君がここを去ることになったのは、騎士団にとっても、私にとっても痛恨の極みだ。あのとき、是が非でも止めるべきだった……。今にして思う。当時の君が抱えていた問題には、奴が絡んでいたのではないのかと……」


 何を根拠にしてそう思ったのか、レイハルクは下唇を強く噛んだ。ミサラはその頬を軽く平手打ちし、態度とは裏腹な笑みを浮かべていた。


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