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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第20話 オペレーション・トゥムレイダー
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遠い世界からのメッセージ

~承前




 ――――これ、なんでしょうか?


 アナスタシアが見付けた赤い球体は、球と言うより珠だとバードは思った。

 そしてそれは、良くある安いファンタジー物語では定番の展開だ。


「破壊してみろ!」


 ランダムで天井から岩が降ってくる中、ペイトンは迷わずそう言った。

 そのままいれば岩に踏み潰される公算が高いので試す価値はある。


 だが……


「いや、待て。待つんだ」


 それを止めたのはビルだ。

 頭の回転が異常なレベルで高いビルは、瞬時に色々と考えたのだろう。


「仮にその球が我々の想像通りなら、破壊するとここ自体が崩れる」


 そう。仮にこの球があの泥のバケモノのコアだとしたら……と言う可能性だ。

 ファンタジーものの定番で行けば、コアの破壊はモンスターの消滅となる。

 そしてその場合、この地下空洞自体が影響を受ける可能性は高い。


 となれば、迂闊に破壊しない方が良いのは自明の理。

 破壊せずに有効活用する手段を探すべきだろう。


「……だな。ビルが正しいと俺も思う」


 ドリーが賛意を示し、チームの方針は決まった。

 それを読み取ったアナスタシアは、赤い球にそっと手を伸ばした。


「触れても平気でしょうか」


 指先が触れる直前で手を引っ込めたアナ。

 近くにいたバードがふと気が付いた。


「岩が落ちてこなくなったね」


 チーム全員が壁際に移動したと言う事もあり、岩での攻撃が意味を失った。

 運動エネルギーで押し潰すことが出来ないのだから。


「案外、それに触れるのを待ってるのかも知れねぇぜ?」


 ライアンの発した一言に全員が警戒レベルをグッと上げた。

 こんな場面では状況の如何を問わず、罠を警戒するのが定番だ。


 ブービートラップを仕掛けるのは昔から良くある話。

 そしてこの場合、どんな嫌がらせが待ち受けているか想像すら付かない。


 およそこの城や巨石自体が科学で説明の付かない代物なのだ。

 時間と空間を飛び越えた可能性だってある。

 その証拠に、擱座しかけたダハブが今は元気に動いているのだ。



 ――――魔法なんてあってたまるか!



 そんな心理が胸の奥で蠢いている。

 しかし、状況的には魔法としか思えないと言う部分もある。

 認めたくは無いが、現状をそのまま飲み込むなら、それしかない。


「……全員壁際伝いに動いて階段まで行ってくれ」


 唐突にロックがそんな事を言い出した。

 それを言ったのがチーム最強のCQBスペシャリストな時点で誰もが察した。


 そして、最初に釘を刺すのはいつもこの男だ。


「おぃロック。バカな気は起こすなよ」


 呆れた様にライアンがそう言うと、ロックが小さく笑った。


「バカな気じゃねーよ。距離とって銃で撃つんだよ」


 ロックの一言に僅かな笑いがチームから零れた。

 言われてみればその通りで、何も剣で斬ることはない。


 距離を取って撃ってみれば良い。

 それで破壊出来るなら、それに越したことは無い。


 だが……


「それ、壊して良いのかな?」


 バードはふとそんな疑問を持った。

 そしてそこでチームの動きが止まった。


「言われてみればその通りだ。何らかの手段で回収した方が良いのかもな」


 ジャクソンもそれに賛意を示し、チームの反応を待った。

 僅かな沈黙と各々が出方を待つ姿勢への変化。


 ふと、ヴァシリは天井を見上げて言った。


「岩の落下が止まりましたね」


 下士官暮らしが長かった男はどんな時でも視野が広い。

 そんな事を実感する一言だが、それに対しビルが口を挟む。


「こっちの出方を確認してるんだろう」


 そう。あの泥状の何かは明確に意思を持つ存在だ。

 何らかの原生生物かも知れないし、或いはシリウス土着生物かも知れない。


 様々な可能性を誰もが考慮した時、ふとペイトンが言った。


「そういや、例の生き残りはどうした?」


 そう。ボルサの事が完全に頭から抜け落ちていた。

 バードは小さく『あ……』と呟き、出口側を見た。


 巨大な柱に邪魔されて出口が見えない角度だ。

 小さく『確認する』と言い、一気にダッシュした。

 岩が落ちてくる可能性を考慮したから。


「岩が落ちてえこねぇ」


 走り去るバードを見つつ、ロックは天井を見上げた。

 やはり岩は落ちてこない状況だ。そして、その理由はすぐに判明した。


「どうやらこれらしい」


 足を止めたバードは自らの視界をチーム全員に転送した。

 天井から落ちてきた岩に潰され虫の息なボルサの姿だ。


 岩に押し潰され挽肉状態の身体には例の泥が張り付いている。

 鼻を突く異臭がこぼれているのは、恐らく消化酵素による分解だろう。


「……こりゃ酷いな」


 ややあってバードに追いついたダニーはそんな言葉を漏らした。

 医者でもあるダニーの見立ては重要だ。


「こりゃ間違いなく直接摂り込んでるな。アミノ酸系をそのまんまエネルギーにしてるんだろう。サンプルを早く解析したいもんだ。これでペーパーが何本も書けるのは間違いない」


 医者をドクターと呼ぶのは博士号を持っている場合に限るもの。

 医学部卒では博士ではなく学士になるのが通例だ。


 だが、ダニーは論文(ペーパー)を何本もと表現している。

 つまりダニーは博士号持ちだ。そんな事実をバードは初めて知った。


「それはそうと、どうする?」


 ジャクソンは視線をドリーへ向けてそう言った。地下の調査は独断だから。

 城を調査しろとは言われたが、地下まで含んでいるかどうかは判断が分かれる。


「……まぁ、生存者は無しだからな。引き上げるか」


 ドリーは軽い調子でそう言い放った。ボルサは既に事切れていた。

 ここには生存者など居なかったし、戦略的に重要なモノも無かった。

 古代遺跡の中で妙な生物とは遭遇したが、サンプルだけ採って放置した。


 一応は危険なので、現時点では立ち入り禁止にすれば良い。

 それ以上の責任は無いし、処置をする義理も無い。


 そう。つまりはシリウス人の問題だ。


「そうだな。それが正しいと思う。参謀本部とシリウス政府に後は任せよう」


 ビルがそんな事を付け加え、チームの方針は決した。

 思慮深く矛盾を見抜く担当のビルが出す意見は、こんな時には重要だ。


 ただ……


「バーディー。どう思う?」


 本当に何気ない調子でペイトンがそう切り出した。

 そこに何らかの意図が介在していたかどうかは解らない。

 チームの導女として尊重されるバードの意見を聞きたかっただけだろう。


「うーん……」


 いきなり意見を求められ、バードも少しばかり困惑した。

 継続的に何かが心の中で引っかかっているのは事実だ。


 それが何であるかは当人も理解出来ないモノ。

 逆に言えば、理解出来るなら既に言葉にしているだろう。



 違和感



 それを最もシンプルに表現するなら、違和感でしか無い。

 しかしながら、そんな違和感こそがバードを導女たらしめているものだった。


「……なんか変よね。こんな事言いたくないけど――」


 ひとつ言葉を切って心(・)の(・)座(・)り(・)を改めたバード。

 僅かなその仕草だが、チームのベテラン勢はそれでスイッチが入ったと思った。

 バードの機体の何処かに実装されている、未来予測機能のスイッチが……だ。


「――ここに降りてきたのも……きっとエディの差配だと思うんだよね。差配というか導き的なモノ。私達ブラックバーンズなら放っておいてもこうするだろうって予測して、後は流れに任せた的なものが。だから……」


 その続きを言おうとした時、ボルサの消化を終えたらしい泥が動き始めた。

 相変わらず鼻を突く異臭が酷いが、問題はその泥の動きが良くなっている事だ。


 もはや泥と言うよりも粘性の高いスライム状に変化している。

 そしてその泥は先ほどよりも体積を増していた。


「腹一杯だって所ですかね?」


 やや距離を取って眺めていたヴァシリはそんな事を言った。

 正体不明の原生生物的な何かは十分にカロリーを補給したのかも知れない。


 ややあってモゾモゾと動き始めたそれは、ズルズルと音を立てて動き始めた。

 暗闇の中、奥へ奥へと。理由は分からないが、その意図はすぐに解った。


「まぁ、生物の原則として考えれば、腹一杯になったら寝るモンだぜ」


 いつの間にかバードの近くへと来ていたロックが振り返ってそう言った。

 柱を回り込んだ形だが、その立ち位置は寝床と思しき凹みが見える所だ。


 結果的にそれは思わぬ発見をもたらした。


 やや低い位置に立っていたロックの視線は、凹みの天井部分に注がれた。


「泥の寝床の天井になんかあるぜ?」


 ロックの機体が明かりを灯し、遠くから凹みを照らした。

 角度的に凹み部分の天井が明るくなり、アナスタシアが腰を屈めて確かめた。


「……これ、色違いだ」


 まるで寝床にしか見えない凹み部分の床には赤い珠が置いてある。

 それと対にでもなっているのか。天井部分には黄色い珠が挟まっていた。


「寝床を照らす明かりだったりしてな」


 アナスタシアの隣に来たビッキーもそれを確かめた。

 そして、全く無警戒かつ無造作にそれへ触れた。


「おっ! オイッ! バカッ!」


 ジャクソンの慌てた声が響く中、ビッキーの手には黄色の珠があった。

 そして、それは突然のように眩い光を放ち始めた。

 巨大な地下空洞の全てが照らされるような、強烈な光だ。


「手を離せビッキー!」


 ドリーがそう叫び、ビッキーはその珠を床へと投げた。

 チームのメンツがいない暗闇へ。


 眩い光を放ちながら地下空洞の床へと落ちたその珠は地下空洞を照らす。

 洞窟的なモノだと考えていたチームの面々は、そこが硬い石の床だと知った。


 そして


「……あッ!」


 誰かが小さくそう呟いた。

 眩い珠が床に落ち、そこで音を立てて割れた。

 あれほど眩く光っていた珠から光が消えた。


 フッと暗闇が戻ってきて、空洞の中が漆黒の闇に戻る。

 やってしまった事の重大さに、誰もが言葉が無かった。


 もしかしたらシリウス考古学上、非常に重要なアイテムかも知れない。

 もしかしたらこの惑星の旧先史文明を知る為の重要な手掛かりかも知れない。

 一瞬で様々な事を思った面々は、押し黙るしか出来ない。


 そして、その意識的な空白が生まれた直後だった。



     ――――勇猛果敢なるODSTの諸君



 聞き覚えのある声が地下空間に響いた。

 それは間違い無く、エディの声だった。



     ――――忠勇無双なる我が501大隊の諸君



 突然、地下空洞の全てが光り出した。

 全ての壁や天井や床が眩く輝きだしたのだ。

 そして、その眩い光の中に何かが見えた。


 ボンヤリと揺れるそれが人影だと認識出来た時、バードは確信した。

 これはエディによる差配の結果であると。



     ――――これを見ているのがBチームであることを祈る



 眩い光の中に現れたのは、間違い無くエディだった。

 ビッキーが投げて割れた珠のある辺りにエディのホログラムが立ち上がった。


 ただ、その姿はあの城の中で見たコボルドの王だった。



     ――――君らがどんな状況でこれを見ているかは解らない

     ――――だが、大事な事を伝えるので冷静に聞いて欲しい



 あのコボルドの王が英語で語りかけている。バードはまずそれに驚いた。

 何故なら、あの城の中ではエディとコボルドの王が日本語で会話してたからだ。



 ――――融合したんだ!



 理屈は解らないが、バードはそう直感した。

 普通なら『そんなバカな』と一笑に付す場面だろう。


 しかし、バードの意識の奥底にいる恵はそれをそのまま飲み込んだ。

 何の違和感もなく、また、疑念を挟む事も無く……だ。



     ――――この地下空洞にいるヌシこそがシリウスを蝕む正体だ

     ――――私が生きていた時代にここへ封印したまま年月が流れた

     ――――その間、ここのヌシが世界のエネルギーを吸い続けたのだ



 まともな精神状態で聞けば『は?』と聞き返すようなお伽噺だ。

 科学の申し子と言うべき高度な機械化を施されたサイボーグには笑い話だ。


 だが、軍隊や軍人というものは、目の前の事象をまずそのまま飲み込むもの。

 色眼鏡を通さず真っ直ぐに受け取り、その上で対処を考える現実主義だ。

 そうしなければ生き残れないし、希望的観測を挟む愚かさを知っているから。



     ――――私は今生が終わるまでに幾度もこれの消滅を図った

     ――――しかしながらその活動は全て失敗に終わった

     ――――この世界の科学水準では不可能だからだ



 エディの言葉が続き、その間にも大きくなった泥が寝床へと流れていく。

 間違い無く意思を持ったその動きを、バードは『女だ』と直感した。


 なにがどう……と根拠を求めえられても困るとしか言いようが無い。

 その姿や動きを見て浮かび上がった直感が、女の成れの果てだと告げていた。



     ――――君らの装備するテルミット系兵器でも焼却は難しいはずだ

     ――――色々と問題はあるだろうが艦砲射撃が望ましい

     ――――実体弾頭による高温高圧焼却なら焼き滅ぼせる



 その身振り手振りを交えた説明のスタイルは間違い無くエディだ。

 過去幾度も見た作戦説明の会議で見てきた姿そのものだ。


 相手の声を聞かず、一方的に説明を続けて実行を求める。

 傲岸な支配者の笑みを添えた迫力ある姿にバードは息を呑んだ。



     ――――この城は遺跡になっているだろう

     ――――その世界線では考古学者が嘆くかも知れないな

     ――――しかし、シリウスの為には必要だ



 ニヤリと笑ったエディの顔には『してやったり』の満足そうな充実感があった。

 きっと恐らくは様々な事を試した筈だ。エディの人生がそうだったように。


 そして、最終的結論として未来へと託したのだろう。


「さすがエディだぜ」


 ジャクソンは何処か呆れた様にボソリと呟いた。

 この世界にいた筈のエディが何処か遠くの世界で手を打ったのだ。

 遠い未来。遠い世界にいるはずの、手塩に掛けて育てた部下達に託したのだ。


 それを実感した時、バードは胸の中が一杯になった。

 手にしていたライフルのグリップを握り潰しそうなほどに力を入れていた。



 ――――やらなきゃ!



 そんな感情が心を埋めたのだ。



     ――――双方向通信が出来ないと言うのは不便なものだな

     ――――しかしながら私は君らを信じる

     ――――この世界に均衡を取り戻してくれたまえ

     ――――では、頼んだよ……



 不意に空洞の中へ闇が戻ってきた。

 明かりの失われた世界がどれ程暗いのかを皆が思いだした。


 気が付けば泥状の何かは四角い凹みに流れ込んで凹みを埋めていた。

 まるで最初から壁だったかのように、岩肌に馴染んで同化していた。


 コイツが元凶なのか……と皆が思った時、暗闇から声が聞こえた。

 掠れて消えかかった、エディの声だった。



     ――――バード。君の病の根本もそれだよ……



 ……と。

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