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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第19話 オペレーション・ダウンフォール
309/358

予定調和の想定外

~承前






 午前8時から始まったシリウス派遣軍団士官総会は、三軍統合会議として各所に同時配信されるマルチチャンネルなモノだった。各々が配置された箇所から会議に参加し、それぞれに説明が繰り返される。


 そしてそれは、暗号変換などの行為を一切せず、ただ普通にテレビ放送のようにシリウス中に配信される仕組みだった。発言するにはアカウント登録を必要とするが、見る分だけならば何の手続きも必要としない。


 つまり、それ自体がオーグへの圧力その物だった……


「なんか退屈な会議だね」


 キャンプアンディに設置された会議室の中で、バードはその会議を見ていた。

 会議の席にはドリーとジャクソンが参加していて、現状の501大隊と502大隊の首脳が結集した形だ。


「仕方ねぇさ。俺達に出番は用意されてねぇと来たからな」


 かったるそうな表情で足を組み、ぞんざいな姿でモニターを見ているロック。

 その隣に座っているバードは、ロックの向こうに座っていたライアンを見た。


「ライアン達も出番無し?」


 ネットワーク戦に於いてはライアン達ハッカーの仕事が重要になる。

 ライアンやペイトンと言った名うての腕利きは、こんな時にはアルバイトに精を出すモノだが……


「いんや、俺にもペイトンにも声が掛からねぇ。まぁ、アレだな。情報部だけでなんとかしようって腹なんだろうな」


 そうは言うモノの、ライアンの表情は複雑だ。苦虫を噛み潰したような……とは言うが、それ以上に心底ウンザリ気味の顔をしていた。


「けどよぉ……」


 ライアンは身を起こしてロック越しにバードを指差した。

 何を言おうとしてるのか、興味深そうな顔になってロックもそれを見ていた。


「NSA絡みでブレードランナーの仕事もねぇの?」


 思わず『あっ』と言葉を漏らすほど、バードもビックリしていた。

 思えばこの数年は、ブレードランナーらしい仕事をしていない。


「……自分がブレードランナーなの忘れてた」


 肩をすぼめてそう言ったバード。ただ、凡そシリウスに関して言えば、ブレードランナーの仕事は正直無い。当たり前のようにレプリカントが街を闊歩していて、ごく普通に街に溶けこんでいるのを幾つも見てきた。


 その意味では、シリウスは本当にそう言う部分が緩いのだ。レプリカントが人間と同じように暮らし、同じように生きている。違うと言えば寿命程度で、それ以外はまったく同じだった。


「まぁ、シリウスじゃレプリは重要な労働力だからな」


 離れた所から口を挟んだダニーが、腕を組みながら言った。


「もう少し寿命のある存在だったら、それこそ人間を超越する存在になるんだろうけどなぁ……」


 医者の見地から見てもレプリカントは貴重な存在だ。人を越える生物かも知れないし、生物に見えるだけで実際は人間が造り出した疑似的に生命を持つ機械でしか無いのかも知れない。


 およそ『いのち』というモノを科学的かつ定量的に測定し定義できない以上、レプリが何者か?と言う問いは多分に哲学的な回答に因る部分が多い。つまり、自分が自分を観測している限り、自分は存在する自分である……だけの話。


「レプリカントって悲しい存在よ。考えれば考える程ね」


 バードの吐いたその言葉に、アナが微妙な顔をした。

 ただ、言いたい事は誰しも理解出来るモノだった。


 消耗品扱いされ、人間の範疇には入れず、その寿命は僅か8年しか無い。

 だが、その中で彼らは眩いばかりに充実した生涯を送るのだ。


「レプリじゃ無い人間だって、ずいぶんと機械的な反応しかし無い人が居ますものね……」


 アナの反応にヴァシリやアーネストまでもが首肯している。戦場という人間性の限界を見る場では、利己的な人間が炙り出されやすい。そんな場面で幾度も自分が生き残る為に他人を踏みつける場面を見てきたのだ。


「まぁ……なんつうの? これを見てりゃぁさぁ……」


 ウンザリ気味の顔になってダブがモニターを指差した。モニターの向こうで不機嫌そうな顔になっているドリーは、隣のジャクソンと怪訝な顔で会話を続けているのが見える。


 少なくともそれは絶対に良い話じゃ無い。その証拠に、いつも陽気で笑みの絶えないジャクソンまでもが仏頂面だ。


「碌な話じゃねぇってのはよく解るけどな」


 ビッキーの言葉に全員が表情を硬くした。スピーカーから流れてくる言葉は、各軍団を率いる大佐や少将と言った現場最高責任者達の主導権争いだった。


 いつもいつも大事な所で手柄を浚っていくサイボーグ部隊が今回は予備戦力となっていて、少なくともこの場面では生身が一層奮励な努力を要求される事になる。ただし、その中身は犠牲を考慮しない力攻めだろう。


「アジアじゃさ、一将功なりて万骨枯るって言うんだけどさ――」


 不意にロックが切り出した言葉は、いつの世でも不変の定理となるモノだ。つまり、賞賛を受ける一軍の将が積み上げた功績の影には、数多の犠牲があり涙が有り喪われた命があると言う話だ。


「――その将って本来は、駄目だったときには自分が責任を取るって自分の首を差し出したんだよな。けどさぁ……」


 そこから先はどうしても言えない事だ。

 公然と上官批判をするのは、余り良い事では無い。


「まぁ、言いたい事は解るけど…… まぁ…… 仕方がねぇさ…… 軍隊なんでそんなもんだ」


 慎重に言葉を選んでスミスが口を挟んだ。不条理と非合理の塊とも言うべきイスラームの教えを守る男だが、そんな存在をもして軍隊とは不条理の塊だと思うときがあるのだった。


「けど……ん?」


 ビルが口を挟もうとして、モニターを指差した。画面の向こうにはリーナーの姿があって、Aチーム代表として来ているのが見えた、その隣にはジョンソンが控えていて、アナーキーかつパンクな精神の持ち主らしい面構えになっていた。


「なんかやらかしそうだな……」


 ワクワクするような顔になってペイトンがモニターを見ていた。画面の向こうにいるジョンソンは、リーナーと何事かを相談している。それを見ていたテッド大佐が横から口を挟み、リーナーとジョンソンが何度か首肯して要るのが見えた。


 ――――絶対碌な事じゃ無い……


 ジョンソンはそう言う人間だ。自虐溢れる皮肉めいた物言いで場を荒らすのは得意中の得意だ。おまけにあのブリテン人はパンクでロックな生き様をプリンシプルにしている。


 ――そりゃぁ俺はよぉ

 ――何の未来もねぇブリテン育ちだからよ

 ――滅びの臭いってのには敏感なのさ

 ――なんせブリテンにゃぁ未来が無かったからな


 基本的にブリテン人はロックでパンクでアナーキーだ。国が荒れてるときに、堂々と女王批判を繰り広げるブリテン人なのだ。愛国心を醸成しようと国営放送に国家を流せと意見が出ても、堂々と女王批判のパンクロックを流したのだ。


 そんな人間が今まさにブチ切れようとしている。それを期待するなと言う方が無理な話だった……


『あの……ちょっと口を挟んでも良いでしょうか?』


 遂にジョンソンが切り出した。

 やりやがった!と言う顔でビルがそれを見ていた。


『俺達サイボーグに出番無しなら、先に地球に帰っても良いですかね? そろそろオーバーホールの時期なんで』


 それを言葉通りに受け取る阿呆はまず居ないだろう。少なくともそんな程度では軍の内部で昇進など出来ない。つまり、予備戦力扱いするなら帰るぞ?と脅しを掛けた形だ。


 過去幾度もサイボーグ戦力で劣勢場面のターンチェンジを図ってきたし、宇宙戦でも地上戦でも肝心な部分で献身的な努力をして来た。それを知っているモノは沢山居るのだから、ジョンソンの言葉には威力があった。


「さて、あいつらなんて言うかな」


 揉み手をしながらモニターを見つめるライアン。

 やや離れた場所に居るペイトンは、腕を組んで眺めていた。


 ただ、それまで主導権争いで声高に喚いていた将官達がダンマリを決め込み、会議の場が静かになった場面でエディが唐突に切り出した。


 議長席へ向かっていき、顎を引いた傲岸な姿で会場を睨め回したあと、マイクを手に取り切り出したのだ。


『あー いま発言した少佐の意見だが、私も同意見だ。我々が予備戦力に回っても問題無いなら、居なくても良いと言う事だろう。つまりは……要するに我々は不要なのだろう?』


 それがトンデモな意見なのは論を待たない。しかし、不要だと言われたのは間違い無い部分でもある。シリウス遠征における仮定で八面六臂の活躍をしてきたサイボーグの存在意義を奪われたのだ。


 それが元でやる気を失っているのだから、出すべき回答は簡単かつシンプルなモノだった。


『では、失礼する。遠く10光年先から諸将の成功を祈っている。そして勿論、平和的なシリウスとの共存についてもだ。いつの日か地球人とシリウス人が仲良く笑いあえる日を楽しみにしている』


 それだけ言うと、エディは、場を後にするべく出口へと向かった。エディの正体がビギンズである事は、既に公然の事実だった。つまり、ビギンズ抜きでやれと匙を投げた形だった。


 シリウス人から見れば地球人はただの侵略者でしか無い。その不平不満を抑える最大の功労者がビギンズ=エディなのだ。だが、そのエディは地球側の政治的な事情で地球に帰った。


 それをシリウス人がどう取るかは、火を見るより明らかだ。


 エディ=ビギンズは地球に更迭された。それが地球側のスタンスだ。つまり、彼らはシリウスを支配する事しか考えていない。故に徹底抗戦するべきだ……


 そうなったとき、その矢面に立つ彼らは、相当な思いをするだろう。


『待ってくださいマーキュリー将軍!』


 何処かから声が掛かり、エディは立ち止まって振り返った。

 その顔は不機嫌さを隠そうともしない険しいモノだった。


『何かね?』


 言葉にも棘が混じり、エディの不機嫌さは誰にでも解りやすいモノになった。

 こうなると今度はブリテン人の頑固さが敵になる。それを知っている者達の表情が陰っていくのが在り在りと見えた。


『あー。マーキュリー将軍。ちょっと良いかね?』


 そう切り出したのは、ブリテンからやって来ていたキングジョージ公の実子であるチャールズ皇太子だった。


『貴官の働きは文字通りに替えの効かない存在である事は明白だ。故に――』


 皇太子は会議場をグルリと見回した後、ジッとエディを見て言った。


『――ここから先は自由に動き回って良いと私は個人的に考える。地球の権利とシリウスの権利を橋渡しする存在で有って欲しいと願うのだが……諸君らはどう思うかね?』


 ここでこの話が出ると言う事は……


 バードは微妙な顔になってロックを見た。

 そのロックは腕を組んだ状態で自分の顎をさすっていた。


「話が出来てたのか?」


 舞台裏を読んだライアンが唸る。

 それを聞いたペイトンがボソリと言った。


「ブリテン人の本質って、実際こんなもんじゃ無いのかな」


 格好つけた皮肉でもなんでも無く、ペイトンの本音がボソリと漏れた。

 そしてそれは、皮肉めいた事を努力して言っていたペイトンの白旗だ。


 ブリテン人の本質にはブリテン人しか到達出来ない。

 それを解っているからこそ、こうなったのかも知れない。


「まぁ……」


 何かを切り出そうとしたロック。

 だが、ソレと同じタイミングでモニターの向こうに動きがあった。


『では……私は独立軍としてでは無く、シリウスとの調整役として動く事にしようと思う。ただ、1人では何かと不便だからね。私の手元には501と502の大隊を預けて欲しい。それで良いだろうか?』


 エディに言葉に全員が沈黙していた。ここで下手な口をきけば、より一層へそを曲げかねない。沈黙は金を念頭に、全員が押し黙った。それを見て取ったエディは念押しするように言った。


『特に反対意見が無いようなので、そうさせてもらう。ただ、困った時には遠慮無く声を掛けて欲しい。我々も最終決戦に向けて準備してきたからね』


 ご機嫌な様子で会場を出て行くエディ。それを見ていたバード達Bチームの面々は、遠く離れたキャンプアンディのなかで大爆笑するのだった。


「まぁ、これでまた馬車馬決定だぜ」


 そんな事を言うスミスだが、その表情は笑いを噛み殺すモノだった。


「あぁ、そうだな。どうせならしっかり踊ろう」

「その方が楽しそうだしな」


 スミスの言葉にペイトンとライアンが応える。遂に始まりそうな最終決戦だが、やはりここでも汚れ役をやる事になりそうだとバードは改めて覚悟した。


 ただ、その中身は想像を遙かに超えるハードなモノになるのだった……



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