傍観と乱入と
また半年ほど放置してしまいましたが、再開します
協定人類歴2303年、4月15日午前1時。
静まりかえったセントゼロの街に、突如銃声が響いた。
――――全バンド、ラジオオープン!
――――シチュエーション・スタート!
シリウス合衆国南部の都市クロスロードズに設置された作戦本部は、セントゼロ攻略戦の開始を宣言した。
セントゼロ中心部にあるオーグ関係者の居座る施設は全力での銃撃に晒され、まばゆい鉄火を次々と放っている。そのシーンを民放各局が伝えているが、画面の向こうでは各所で怒声と悲鳴との和声合唱が行われていた。
「あ~ぁ……始まっちまった」
LIVEの文字が浮かぶ画面を見ながらロックがぼやく。
画面の向こうではオーグ関係者がそそくさと脱出を図っているのが見えた。
「……エディはああ言ったけどよぉ……きっと俺達は出番無しだぜ」
「まぁそれも良いんじゃ無い?」
セントゼロから数千キロ離れたキャンプアンディの士官エリア。ここには、士官個人個人向けに設置されたプライベートルームがある。その一角。ロック中尉に宛がわれた私室の中でロックとバードの2人がベッドに寝転んでいた。
「まぁ、呼び出されたら行くだけだぜ」
そのベッドの向かいにあるソファーでは、ライアンとペイトンがふたりしてバーボンを呷っている。予備戦力側に回されたサイボーグチームの出番はまだらしい。
「んで、なんで俺の部屋でパーティーなんだ?」
怪訝な顔でロックが言った。文句では無いが軽いクレームではある。だが……
「だってほら、俺達の監視がねぇとお前らコンビが勝手に素っ裸でイチャイチャすんだろうよ? 馬鹿ップルの24時間監視だぜ」
ニヘラと笑ったペイトンは、ロックとバードを交互に指差しながら言った。
そんな言葉を聞いていたバードは『あそっか』と漏らしてロックを見た。
「そうやって時間潰しすれば良いんだ♪」
エヘヘと笑って女の顔を見せたバード。そんな姿にライアンが苦笑いだ。
「思えばここしばらく、こんな暇は無かったからな」
ベッドに寝転がって天井を見ていたロックは、上半身を起こしながらバードを見てそう言った。思えばこの数ヶ月はアレコレ忙しすぎて、密かな愛の立て籠もりルームも使えていない。
だが、そんなモノの必要性を感じないくらいに、ふたりはお互いを感じ合っている部分がある。そしてそれは、バードの中の女の部分に言葉では表現出来ない満足を感じさせていた。
「けどさぁ……」
起きあがったロックに上半身を預けて座ったバード。その甘えるような姿にペイトンが『おいおい』と言わんばかりになる。ただ、そうは言ってもやはりひとりの兵士だ。
越えてはならない一線は意識しているし、踏み越えてはいないと確信も出来ている。だが、それとは別の次元で何かが心の底で熱く煮えたぎっているのも事実だ。努めてそれを意識しないようにして、それでも行動の端端にそれを漏らしつつ、バードはやや低い声で言った。
「やっぱ納得出来ないよ」
そう。ここまで獅子奮迅の活躍だったはずのサイボーグチームだ。言い換えるなら、馬車馬の如くに働いていたはずだ。それを政治的な判断で予備に回すとは……と、忸怩たる意識が強い。
しかし、軍隊とは上意下達の組織であり、参謀本部の定めた所定の手順にそって作戦は進行される。その流れの中でのスタンドプレーなど、正直出来るモンじゃ無いし、それをした結果、どこかで致命的レベルでの危機が発生しかねない。
勝ち戦の中で部分的に負け場面に遭遇する不運は、全ての兵士に付いて回るものといえる。だからこそ、全ての兵士は自然と神に祈るようになるのだった。自分の上で爆弾が炸裂しませんように……と。
「まぁなんだ。神にでも祈っとけ。出番が来ますようにってよ」
へラッと笑ったペイトンは、カットレモンを囓りながらそんな事を嘯いた。
ただ、そんなモノが来そうには無い事を全員が知っていた。
「3軍団って言ってもよぉ……」
ライアンが指差したのは、部屋にある小さい方のモニターに示された共通作戦状況図だった。セントゼロの周辺に展開する地球側の軍勢は3つに分割された大軍が待機している状態だ。
「タイフーン軍団にモンスーン軍団。おまけにハリケーン軍団。そっち系コミックの読み過ぎね」
呆れた様に笑うバードの声にロックも釣られて失笑した。
「まぁ、今まで目立たなかった連中にしてみりゃ晴れ舞台だろうよ。せいぜい頑張れって応援するのがマナーだぜ」
バードをギュッと抱き寄せてそう言ったロック。
二人の親密な様子にライアンが笑った。
――――――――セントゼロ郊外 ニューメッカ
現地時間 2303年 4月15日 午前1時
「今頃キャンプじゃ若い衆が文句言ってるぞ?」
ハリケーン軍団の一角。
セントゼロを目指して進撃を始めた戦闘車輌の中にテッドとヴァルターが居た。
「だろうな。けどまぁ、戦闘するわけじゃ無いしな」
装甲車の中で寛ぐ二人は、戦況図を眺めながらワインなど飲んでいた。
――――大佐殿
装甲車の車長である大尉がふたりを呼んだ。
ミューラーのネームシールを貼った大尉は、前進して良いか?の確認だった。
「あぁ、行こうか。なに、ちょっと古い知己とね、旧交を温めに行くだけだ」
なに言ってんだ?と不思議そうな顔になりつつも、ミューラー大尉は発車を指示した。M113装甲車の直系子孫であるM125装輪装甲車は鋭いダッシュで前進を始めた。
「相変わらず良い出足だな」
「まったくだな。サザンクロス郊外でバチバチやり合ってた頃が懐かしい」
ふたりが目を細めるその出足は、グッと踏み込んだアクセルの加減に合わせ一気に速度をのせてくれる。レシプロ機関ではなく超伝導モーターによる加速の為か、低速であるほど強いトルクを感じるのだ。
「で、この情報は間違い無いのか?」
ヴァルターの怪しがる物言いに、テッドも怪訝な顔で書類を広げた。
そこに書いてある内容は、ヴァルターですらも表情を曇らせるモノだった。
――――セントゼロ郊外にドラケンが2機いる
――――そいつを鹵獲するか破壊せよ
作戦本部の名前で書いてある命令書だが、本来それを受けたのは第101空挺旅団の特殊工作班だったはずだ。だが、何処でどう話しが繋がったのか、その命令をエディは横取りしてしまい、空挺団に信頼を置く部下をふたり派遣したのだった。
「まぁ、エディが言うんだから間違い無いと思うが……行ってみなきゃわかんないだろうな」
ため息をブレンドした声音でそう応えたテッドは、そこに付いていたQRコードを読み取って情報を展開した。そこに現れたのは、見覚えのあるマークの付いたドラケンだった。
「何処でどうこれを拾ったのか……是非とも聞いてみたいもんだ」
ヴァルターが言う通り、それはあのウルフライダー達が使っていたと思しきピエロマークのドラケンだった。
「で、本当にバスリンクドライブ出来るんだろうな?」
訝しがる声音のテッドは、眉根を寄せてヴァルターを見た。それもその筈で、フルマニュアルなシェルドライブなど、もう30年近くやってないのだ。そしてなにより、無敵を誇る隊長軍団の中に一つの共通認識が出来つつあった。
…………老いている
認めたくは無いが、脳自体の老化が始まっていて反応速度や咄嗟の判断に遅れが出始めていた。身体の方は最新式の機体を受領しているので何ら問題はない。むしろアクセラレーターが高性能すぎて、半ば自動運転のような反応を見せる時がある位だ。
「行くだけ行って確かめようぜ」
若者のような言葉を吐いてヴァルターが笑った。脳年齢は既に70を超え、老成期に入ったのだ。本来ならもう少し落ち着いた物言いになる筈なのだが……
「まぁ、それが早いな」
ガタガタと揺れる装甲車の中、テッドもそんな相槌を打った。
20代30代の『若者たち』に囲まれていると、どうやら心まで若返るらしい。
そんな事を思ったテッドとヴァルターは、既に嫌と言うほど気が付いている。
これ自体がエディの思惑で有り、また、配慮であると言う事を……
当面、週一回ペースです




